金正恩は余命3年⁉ 北朝鮮の‟追い込まれ具合”がヤバい

金正恩は余命3年⁉ 北朝鮮の‟追い込まれ具合”がヤバい

異質な北朝鮮経済

 2つの原因によって、金正恩政権は「いまや、全体的に滅亡直前だ」(北朝鮮情報筋)。
 第1に、史上最強の経済制裁と武漢ウイルス蔓延のため、労働党39号室が管理している独裁政権を維持するために必要な外貨が枯渇してきた。
 第2に、金正恩の健康悪化のため、いつ自分が執務不能に陥るか分からないと自覚し、これまで隠れた側近として古参幹部粛清を任せてきた与正を表に出して、「第2の首領」に祭り上げざるを得なくなった。しかし与正は30歳の若輩で経験がなく、政権維持には力不足だ。

 まず、経済破綻について。これまでも書いてきたが、経済制裁は驚くほどの効果を上げている。北朝鮮の経済は、大きく4つに分けられる。

 第1経済は、政府が立てる計画にしたがって動く計画経済だ。1970年代前半に、金正日が主導して計画経済の外に軍需産業を置き、第2経済委員会という政府とは別の組織をつくった。しかし、軍需産業を維持するにも外貨が必要だ。また、金一族の贅沢な暮らしを維持するにも、やはり外貨が必要だ。さらに核ミサイル開発や韓国への政治工作にも、外貨は欠かせない。

 そこで、やはり金正日が1970年代前半に本人直属の外貨管理組織をつくった。それが第3経済である労働党39号室が管理する統治資金だ。米国の情報機関は、39号室の資金規模を1980年代に40~50億ドル程度と見積もっていた。一方、日本経済新聞のソウル支局長を務めた山口真典氏は、2013年に上梓した名著『北朝鮮経済のカラクリ』で、300~500億ドルと見ていた。

 第4経済は、ヤミ経済、人民経済だ。1990年代半ば以降、第1経済が破綻し、大多数の人民らへの配給が止まり、300万人以上が餓死した。その後、人民は皆、計画経済の外で自分の才覚によってヤミ商売、露天食堂、ヤミ畑工作、売春、犯罪などで食べていくようになった。

外貨不足により、病院すら建てられない

 この全体構造を理解した上で、私を含む日韓の少数の専門家らは、北朝鮮に核開発を止めさせ、拉致被害者を返させるためには、39号室資金にターゲットを絞った制裁を科すべきだと、1990年代から議論してきた。

 安倍首相はそれをよく理解し、日本の対北制裁のターゲットを39号室資金に絞って政策を組み立てた。2006年、第1次政権発足直後に打ち出した「拉致問題の解決に向けた方針」の中に、「現行法制度の下での厳格な法執行を推進する」という項目が明記された。この方針にしたがって、警察や国税庁などが、それまで事実上容認されていた朝鮮総連の不法行為を厳しく取り締まり始めた。

 その上、2017年に国連の安全保障理事会が行った最強の経済制裁で、北朝鮮は輸出で得ていた外貨の9割を失った。昨年春には、39号室資金の残高が数億ドル台まで減ったという情報を得た。そして今年に入り、最後の頼みの綱だった中国人観光客誘致が武漢ウイルスで中止になり、中朝国境が封鎖されて物流が止まったことで、39号室は大きな打撃を受けた。

 最近、私は39号室の状況をよく知る第三国の関係筋から、驚くべき情報を得た。いま39号室資金はほぼ枯渇(こかつ)し、残高は数百億ドルになっており、金正恩の執務室の整備工事や中国人観光局を呼び入れるための温泉リゾート建設などの費用を払う外貨がなく、金塊を使って決済をしたというのだ。

 金正恩の最近の言動から、その焦りと危機感が分かる。6月7日の政治局会議で平壌市民の生活保障が議題になり、金正恩は「国家的な対策を立てよ」と指示した。4月から平壌の大部分の地域で配給がほぼ止まった。7月に故金日成主席の命日の特別配給で1カ月分(半月分という情報もある)が出たが、それが続く保証はない。

 7月19日に報じられた金正恩の平壌総合病院建設工事現地指導でも、建設連合常務(党、政府、軍などで構成されるタスクホース)が予算をきちんと決めないで人民に支援を求めて「人民に負担をかけている」と激怒し、同常務のメンバーを全員交代させた。金正恩肝煎りの病院建設に回す外貨がなくて、人民に負担を強いた。

 当然、金正恩の決裁を受けているはずだ。ところが、食うや食わずの人民が強い不満を持っていることを知り、責任を担当者に転嫁したのだ。そもそも、名目は国家である北朝鮮が最高指導者の命令でも病院1つつくれない。そこまで外貨不足は深刻なのだ。

金正恩の余命は3年か?

 次に、北朝鮮を追い詰めている2つ目の理由、金正恩の健康悪化について書く。4月に金正恩が心臓の手術を受けたことは、複数の信頼できる関係筋によって確認されている。手術後、麻酔がなかなか切れずに、しばらく意識が戻らなかったという。

 また『WiLL』8月号で紹介したが、「4月中旬に金正恩が心臓発作を起こして手術を受けたが、その執刀医が与正に語ったことによると、次の発作が起きたら生命に危険が及ぶ。合併症があるので長くてもあと3年しか生きられない。だから金正恩は与正へ権限を委譲し、いつ自分が執権できない状態になっても政権を維持できる体制づくりを急いでいる」という情報もある。

 金正恩の病状を1番よく知るのが与正である。与正はこれまで、表には出ない事実上の最高側近として金正恩を支えてきた。2016年以降、金正恩の命を受け、金正日時代から政権を支えてきた古参実力者を次々と粛正し、幹部を金正恩、与正にのみ忠誠を誓う若い世代に交代させる汚れ仕事を担ってきた。

 また国家保衛省幹部が朴槿惠政権と組んで起こした暗殺未遂事件、金正恩の警護を担当する護衛司令部の中に、外国情報機関に金正恩の所在情報を漏洩するスパイが入り込んでいた事件、米軍による金正恩暗殺作戦計画など、身辺の安全を脅かす出来事が頻発し、最高幹部の誰も信じられなくなる中、与正に自身の安全管理を任せざるを得なくなっていた。

与正登場の理由

 ところが今年に入り、金正恩は体の変調を自覚し、突然、自分が倒れて権力行使ができなくなる事態が起こり得ると考えるようになった。そこで与正を表に出し、「2人目の首領」として権力行使の代行をさせるようになったのだ。その事情について、北朝鮮の権力中枢近くに情報源を持つ金聖玟自由北韓放送代表は、鋭い分析を行っている。
 
《5月30日に北朝鮮内部の情報源から、「金与正同志を党中央と呼ぶことに対する宣伝扇動部の方針が下達された」と聞いた。6月10日と11日の労働新聞に、「党中央」という呼称が使われていた。「党中央」は金正日が金日成の後継者になったときに使われた呼称だが、与正を後継者と見るべきではない。

 なぜなら彼女は、脱北者を糾弾せよという指示を下して北朝鮮の全党、全軍、全国を動員するという、首領にしか許されない権力を行使したし、南北連絡事務所を爆破して国際社会にも権力を誇示したからだ。彼女は首領への忠誠心を最大の徳目とする後継者ではない。また、すぐに処刑されてしまう「第二人者」でもない。金正恩の代理人と見るべきだ。7月4日、情報源は現在、北朝鮮の軍部などでは、彼女のことを「もうお一人の領導者」「親近なる指導者」と呼んでいる、と伝えてきた。

 与正の登場は、金正恩の健康と直接的な関係があると思われる。金正恩がまだ若いという点を考慮したとしても、一人統治が命である北朝鮮でもう1人の統治者の登場は、深刻な民心離間現象を招きかねないからだ。このような危険を冒してまで金正恩が与正を表に出してきたのは、(医者から余命宣言を受けた)「期限付きの人生」を含む将来に対する不安が生まれ、生きる意欲さえも喪失しながら過ごしていることを裏付けている。

 4月11日に労働党中央委員会本部庁舎で開かれた党政治局会議を主宰した後、姿を消して非正常な姿で順川肥料工場竣工式に現れた金正恩の最近の動向は、室内中心、住民の生活向上という内容の発言を繰り返している。金日成と金正日が、亡くなる寸前まで人民生活向上のため努力したことを強調してきた北朝鮮公式媒体の記事掲載のしきたりを踏襲していると見られる》

韓国に3000個の風船を飛ばす?

 しかし早くも、与正は若さによる経験不足を露呈した。南北連絡事務所爆破の翌日である6月17日に出した同月3回目の談話で、「信義を裏切ったことがどんなに大きな代償を払うことになるのか、南朝鮮当局者らは流れる時間の中で骨身に染みるほど感じることになるであろう」として、対南挑発を続けると宣言し、同日、その指示を受けた軍総参謀部が「人民の対南ビラ散布闘争を軍事的に徹底的に保証」という文言を含む「対敵軍事行動計画」を発表した。

 さらに22日には、朝鮮中央通信が文在寅大統領の顔写真を汚したビラの写真入り記事で、1200万枚の各種ビラを印刷し、3000個余りの風船をはじめ、南朝鮮の縦深(最前線から後方にいたるまで=軍事用語)深くにまで散布することのできる様々なビラ散布器具、手段を準備した。「ビラとゴミ、それを収拾するのが、どれほど厄介で気分が悪いことなのかを一度はっきり経験させる」と対南ビラ送付を予告した。

 この動きを、韓国の専門家らは「夏に北朝鮮から風船を飛ばしても、南風のため韓国には届かない。与正はそのような知識すらないのか」とバカにしていた。ところが私のところに、「軍がドローンを数百台準備して、韓国の青瓦台を目指して風船送付を行う計画だ」という内部情報が届いた。その情報を聞いて私はドローンが数百台、軍事境界線を越えてソウル中心部に飛んでくれば軍事攻撃とみなされるはずで、韓国軍による軍事攻撃が始まり、それに対して北朝鮮軍が反撃すれば軍事衝突が起こりかねない、とたいへん緊張した。

 ところが23日、金正恩がこれまで1度も聞いたことのない「中央軍事委員会予備会議」なるものを、それもリモートで開き、「最近の情勢を評価して、朝鮮人民軍総参謀部が党中央軍事委員会に提起した対南軍事行動計画の保留」を決めた。

 この失態により、与正に処分が下るのかどうか注視してみていたが7月10日、今度は米国を相手にした長文の与正談話が公表され、金正恩の代理人としての健在ぶりを示した。内部情報によると、厳重注意処分を受けたが、その地位に変化はないようだ。その談話も、興味深い内容が多数含まれる。

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「経済制裁で苦しい」と認めた与正

 まず、米国側が米朝首脳会談を開きたがっていると書いた上で、「今年、朝米首脳会談が開かれることはあり得ないと思う」と言いながら、「両首脳の判断と決心によって、突然どんなことが起こるか、誰にも分からない」として、実現の可能性を示唆する。
 つまり、北朝鮮側こそ首脳会談を開きたいのだ。ただその条件は、米国側が対北敵視政策を変えることだとして、それがなければ昨年、金正恩が予告した「クリスマスプレゼント」「米国が極度に恐れること」が起きると脅迫している。

 次に昨年、ハノイと板門店で行われた米朝首脳会談を、彼女なりに総括している。この部分は特に興味深い。まずハノイ会談について、「米国はハノイで部分的な制裁を解除するような真似をして、われわれの核(開発の)中枢を優先的に麻痺させ、核計画をごちゃ混ぜにできる可能性を持っていた。その時は、われわれが取引条件が合わないにもかかわらず、危険を冒してでも制裁の鎖を断ち切って、1日も早くわが人民の生活向上を図ってみようと一大冒険をしていた時期であった」と書いた。
 つまり、制裁によって人民生活が困難になっていることを認めたのだ。先に見たとおり、39号室資金の枯渇が人民生活だけでなく、金正恩、与正の贅沢な生活維持をも阻害するほど効果を上げていた証拠だ。与正は若く経験不足のため、自らの弱みを談話に書いてしまった。

 板門店会談(米国側は外交案件を話し合う「会談」とは認めず、ただの「会合」としている)については、次のように総括した。トランプ大統領が「北朝鮮経済の明るい展望と経済的支援」について語り、「前提条件として追加的な非核化措置を求め」たが、金正恩は「経済繁栄の夢を叶えるために、われわれの体制と人民の安全、未来を、何の保証もない制裁解除と決して交換しない」とその提案を拒否し、「米国がわれわれに強要してきた苦痛が、米国に対する憎悪に変わり、われわれはその憎悪をもって米国主導のしつこい制裁封鎖を切り抜け、われわれの方法で、自力で生きていく」と宣言したと自慢している。しかし、ここでも経済制裁は苦痛だと認めているのだ。自力で生きていけるなら、首脳会談など必要ないだろう。

米朝会談を開きたくて仕方がない

 談話で与正は、「制裁解除は対米交渉の議題から捨てた」、「非核化と制裁解除」を交換するのではなく「敵視政策の撤回と米朝交渉再開」の交換が基本テーマだ、トランプ大統領と金正恩の関係はいいが、米国は敵視政策を続けている、米国はまず、自分たちの敵対的態度を変化させてから交渉に出て来い、われわれの核を奪うのでなく、核が米国の脅威にならないようになることを目指せ、朝鮮半島の非核化実現のためには、制裁解除以上の不可逆的な重大措置が同時並行しなければならない……などと、一方的な願望を述べている。制裁が効いていて、何とか米国が制裁を緩めてくれないかと、様々な表現で悲鳴を上げているのだ。

 とくに談話の最後の部分には苦笑を禁じ得ない。自分は米国の独立記念日のイベントのDVDを手に入れたい、金正恩はトランプ大統領のいい成果を祈っている、とかなり米国に擦り寄って談話を終えている。大統領選挙でトランプ大統領の再選を応援するという金正恩のメッセージまで伝えた。DVDを受け取るという名目で対米交渉を始めたいのだ。

 制裁は効いている。だからこそ、全被害者の即時一括帰国と核ミサイルの全廃が実現するまで、手を緩めずにいるべきだ。金正恩・与正政権がさらに追い詰められれば、無条件での会談を提案している安倍首相を平壌に呼ぶ可能性も出てくる。安倍首相には、慎重に相手の出方を見極めながらも、素早く機会をつかんで確実な行動を取ってほしい。
西岡 力(にしおか つとむ)
1956年、東京生まれ。国際基督教大学卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。延世大学留学。外務省専門調査員、月刊『現代コリア』編集長を歴任。2016年、髙橋史朗氏とともに「歴史認識問題研究会」を発足。正論大賞受賞。「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」会長。朝鮮問題、慰安婦問題に関する著書多数。

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