陛下訪中の失敗

髙山 香港やウイグル、チベットにおける中国の悪辣非道ぶりが、露わになってきている。ところが、日本は中国に対して甘すぎる。安倍さんは、習近平の国賓招待をやめるべきだ。

福島 習近平氏の執着ぶりを見ていると、そのカードはかなり強力ではないかと思います。なんとかして陛下に拝謁したいみたいですから、日本側も条件をいろいろつけるべきですよ。

髙山 靖國神社参拝しろとか(笑)。

福島 まずは尖閣でしょう。1年間、中国船を近づけないことを条件にすればいいんです(笑)。その間、日本は灯台や港を整備して、実効支配を強めればいい。

髙山 それはいいね。

福島 一方で、トランプ大統領はしたたかですよ。習近平氏と仲のいいフリをして、さっさと香港人権民主法にサインした。

髙山 中国お得意の遷延(先延ばし)策を日本もやればいいんだ。即位の礼・大嘗祭の後、初めての国賓が習近平だなんて、信じられない。無駄にハクをつけさせないほうがいい。

福島 習近平氏が周辺諸国でしていることは、21世紀最大最悪の人権弾圧、民族迫害と言っても過言ではありません。世界でもそういう認識が広まっているのに、なにゆえ日本だけ中国と上手に付き合おうとするのか。陛下の名誉に傷をつける事態になりかねません。前轍を踏むようなことは厳に慎むべきです。

髙山 そう、習近平国賓招待となれば、江沢民と同じく宮中晩餐会もしなければならない。それに続いて、中国は両陛下を国賓として招待するだろう。招待されたら無下に断ることはできない。そうなると、上皇、上皇后両陛下が天安門事件の3年後(1992年)、中国を訪問されたのと同じ格好になってしまう。

福島 いまだに、当時の両陛下のご訪問を好意的に評価するメディアや評論家がいるのも事実です。

髙山 実は、上皇陛下は訪中の数年後、そのときに同行した当時の外務省アジア局長、池田継に「私の中国訪問は良かったのだろうか」と話されていた。そういう質問をされること自体、あれは間違いだったと受け止めておられるご様子だったそうだ。それはそうだ。
 おかげで天安門事件を帳消しにしてもらい、国際社会に復帰し、日本から際限なくODAを要求し、感謝するかと思いきや、その後に国賓で招いた江沢民は宮中晩餐会の席で南京大虐殺の大嘘を並べて日本を非難した。それが陛下のご訪中の結果だとしたら、ご宸襟を相当に悩ませられたということだろう。
 大変な問題なのに、そのお言葉を伝える朝日は「陛下は訪問されたことを好意的に評価されている」と正反対の解釈を押し付ける。許されざるフェイク新聞だ。

福島 天安門事件以降、中国に経済制裁をかけていましたが、世界中が中国と早く貿易を再開したくてウズウズしていました。一番気が弱い日本が背中を突かれて制裁を解除し、陛下の訪中を実現せざるを得ない面があった。

髙山 そういう事情があるにせよ、当時の宮澤喜一首相による世紀の外交的失敗だった。

福島 ところが、日本は陛下訪中の失敗を反省していません。だから、現在、同じような状況が起きつつあるのに、習近平国賓の影響力を理解できていない。中国の人権問題に対して共通認識を持てば、正常な判断を下せるはずなのですが。

髙山 陛下のご訪中を正しく検証していない。何の進歩もないまま、ことなかれで誤魔化そうとしている。それに安倍さんも乗っかっているようなところがある。

目覚めるとき

福島 習近平国賓訪問とともに「第五の政治文書」も同時に発表すると、内々で取り決められていると言われています。これに「運命共同体」「一帯一路」というような習近平スローガンを組み込むよう要求されて、その要求を呑むようなことがあれば、最悪です。中国はそういう都合のよい政治文書を発表させるために、日本人をどんどん逮捕・拘束して交渉のために人質にしているのではないか、と言われている。

髙山 中国に騙され続けてきたわけだから、そろそろ目覚めるときじゃないか。韓国に対しては、レーダー照射問題や文在寅や国会議長の暴言、いわゆる徴用工問題などで、いかに韓国という国がどうしようもないかを国民レベルでも認知させたのは高く評価できる。あの朝鮮日報日本語版みたいな朝日ですら積極的に韓国擁護論を書けなくなった。でも、韓国にかまけている場合じゃない。韓国より数倍、性質の悪い中国の悪辣ぶりを国民に認識させるようにしなきゃいけない。

福島 中国から利益を受けている人たちがメディアや政界、財界に多数いるんでしょう。

髙山 拉致問題が発覚したとき、新聞やテレビは慰安婦問題を持ち出して、国民の関心をそらしてしまった。特に朝日は植村隆に吉田清治の慰安婦強制連行の派生記事を書かせ、さらには中大教授の吉見義明にいい加減な主張をさせて、宮澤喜一に朝鮮中国のデマを教科書に書かせる近隣条項を出させた。
 2年前に北朝鮮がミサイルをぶっ放し、国家安全保障が焦眉の急になったところで今度はモリ・カケ問題を持ち出してまた国民の目を誤魔化した。たった今も、香港やウイグルに対する習近平の横暴について米議会やホワイトハウスが真正面から取り組んでいるというのに、日本政府は何の対応もしない。国会に至っては朝日に乗せられて安倍さんの「桜を見る会」がどうのこうのと、国会を空転させて喜んでいる。これが主権国家の国会議員なのか、信じられないくらい堕落している。

中国の手口を暴露した本

福島 中国問題は今や世界の問題です。中国系の経済学者・ジャーナリスト、何清漣(かせいれん)氏の『中国の大プロパガンダ』(扶桑社)を翻訳出版しましたが、中国の手口を暴露した本です。この本によると、2009年から続けてきた中国のアメリカに対するプロパガンダ活動が失敗に終わったというのです。なぜ失敗に終わったかというと、何清漣氏の元原稿になる研究リポートがマルコ・ルビオ上院議員の目に留まったり、政府関係者に影響を与えるフーバー研究所のリポート「中国の影響と米国の利益:建設的警戒の推進」(2018年)に引用されたりしたことがきっかけだったと言われています。

髙山 それが2018年の「ペンス演説」につながったわけだ。

福島 その前から中国に対する警告はアメリカ議会でもたびたびあったのです。90年代、クリス・コックス下院議員が「コックス報告書」を発表しました。その内容は衝撃的で、アメリカの7つの最新熱核兵器に関する設計情報を中国が盗んだ等を告発していました。

髙山 中国のスパイ活動が実際にあったことも明確に記されていた。

福島 でも、コックス報告書が発表されても、時のクリントン政権はまともに取り上げませんでした。ところが、トランプ政権になり、中国侵略の恐ろしさを再認識し、排除に動いたことは、まさに画期的なことだったと思います。

髙山 考えてみると、クリントン、ブッシュ(子)、オバマ……と、長い間、米国政府は中国とズブズブの関係だった。『China 2049』(2015年/日経BP)で中国の100年マラソンの実態を暴いたマイケル・ピルズベリーが指摘していたように、80年代から、中国はすでにアメリカ侵略を始めていたわけだから、もっと早く指摘されていても良かったはずなのに。

福島 指摘が遅れたのは、政権中枢に存在するパンダ・ハガー派(パンダを抱く人=親中派)や学界に対して遠慮があったからだと言われています。中国とズブズブの関係にある事実を公表してしまうと、チャイナマネーに利用されてきた愚かな自分たちを認めなければなりませんから。

髙山 ひと言で言えば儲けていたんだな(笑)。

福島 ところが、何清漣氏の本は、中国のプロパガンダに騙された被害者という論点で書かれているので、逃げ口上として利用されているようなのです。いかに中国が悪辣な方法でアメリカを騙していたかという内容なので、親中派の連中はメンツを保ちながら、表舞台から去ることができた。

髙山 2017年、米国の政治家、ダイアン・ファインスタインが「中国はそれほど悪い国ではない」と発言した。彼女のスタッフの一人は中国のスパイだったことが判明している。米国側の親中発言は、彼女が最後じゃないか。
 それともう一つ興味深いのは、「ワシントン・ポスト」(2019年7月3日付)に、エズラ・ヴォーゲルやスーザン・ソーントン、ステープルトン・ロイら、民主党系の元政府高官や中国研究者ら100人が連名で「中国は敵じゃない」というトランプなどに宛てた公開書簡を掲載した。

福島 誰もかれも有名なパンダ・ハガーばかりです。

髙山 面白いのは、知日派だと思われていたジョセフ・ナイやジェラルド・カーティスもそこに名を連ねていた。そうしたら、同月18日には、トランプ政権の厳しい対中政策を支持する国防総省関係を中心とする専門家ら130人が「対中方針を堅持せよ」と題する反対書簡を、保守系の政治ウェブサイト「ワシントン・フリービーコン」に発表し、これに加勢する専門家が次々に名乗りを上げているそうだ。民主党も口を封じて、反中に転じているし、特殊な利益集団であるディープステートも中国離れが加速している。

福島 今や「ドラゴン・スレイヤー(竜殺し)派」(反中派)が表舞台に出てくるようになったのです。実際に、パンダ・ハガー派とドラゴン・スレイヤー派の対立はアメリカ国内で長く続いていました。何清漣氏の本には、パンダ・ハガー派が幅を利かせていた時代を「米中関係は晴天だ」と言い、ドラゴン・スレイヤー派が主導していた時代を「米中関係は曇天だ」と主張し合っていたと。トランプ政権の誕生までは圧倒的に晴れの日(パンダ・ハガー派が活躍する)が多かったのですが、トランプ政権が始まってから急に曇天ばかりになり、今や雷雨の前兆が出ています(笑)。

髙山 中国からすると、トランプはさぞ憎いことだろう(笑)。

レベルが変わった人質外交

福島 当初、トランプ大統領は対中政策に関して白紙だったと思います。

髙山 香港人権民主法に関しては、民主党はほぼ全会一致だった。一方で、トランプは「共和党を慮(おもんぱか)って署名した」と言っている。つまり、共和党のほうが民主党よりも中国に肩入れしている議員が多いわけだ。

福島 何清漣氏によれば、「抵抗、懲罰、さらには報復というやり方を用いて、中国の行動を改めさせなければならない」という方針で、アメリカ議会の与野党が一致したということです。

髙山 こういったアメリカの変化を、日本は感じ取っているんだろうか。

福島 トランプ・安倍両首脳は一緒にゴルフをして、仲良く話しています。中国の脅威が話題として出てこないとは思えません。ところが、日本は中国にいかにも気遣いしすぎている雰囲気を醸し出しています。

髙山 安倍さんは中国の関係を「完全に正常な軌道へと戻った。新たな段階へと押し上げていく」と言っている。冗談じゃない。尖閣諸島には毎日のように中国漁船や公船がやって来ているというのに。

福島 北大の岩谷將教授の拉致・拘束なんて、今までの人質外交とレベルが違いますよ。中国が人質外交に味を占めるきっかけになったのが、尖閣諸島の衝突事件を通じてフジタの社員四人を拘束したことから始まっています。

髙山 海上保安庁の巡視船みずきに体当たりした漁船の中国人船長の拘置期間は19日間だったけど、フジタの社員もまったく同じ日数、拘束されていた。

福島 明白な嫌がらせであり、報復措置です。中国からすると「こんなにうまく行くんだったら、もっと早くから使っておけば良かった」と気づかせる政策だったようです。

髙山 許しがたい行為だよ。

福島 フジタの社員の場合は、中国側も解放前提で拘束していました。ところが今や、この人質外交がエスカレートしています。国賓待遇でガタガタ言われたので、早めに岩谷教授を解放しましたが、早速、代わりとして50代の日本人男性を法律違反をしたとして逮捕・拘束しています。伊藤忠の社員も捕まり、実刑判決で懲役3年とのことですが、一体どういう罪があってのことなのか。

髙山 伊藤忠なんて親中企業の最たるものだろう。

福島 岩谷教授にしても、逮捕した理由がよくわかりません。読売新聞によれば、国民党の戦時資料を所持していたカドですが、そんな大昔の話、それほど大した機密資料のはずありません。そのころの内部文書なんて、歴史マニアが古本屋で買ってオークションに出すくらい、ありふれたものです。
 こんなことで学者が逮捕・拘束されれば学術交流なんて不可能です。日本の中国研究者たちの多くは親中派ですが、連名で抗議文を出すほどの衝撃がありました。

髙山
 朝日新聞の子飼いの学者、天児慧(あまこさとし/早稲田大学名誉教授)が大慌てだった。

日中友好人士の弊害

福島 習近平政権になってから、国際的な常識のタガが完全に外れたように思います。

髙山 意思統一して動いているんだろうか。

福島 習近平氏は常々「外国スパイに警戒しろ」というメッセージを送っていますから、その考えを忖度して各地方の行政府が動いているところがあります。それと同時に、アンチ習近平の人間が困らせたいと思ってやる場合もあるから厄介です。
 岩谷教授の場合は、習近平政権の指示の可能性が高いようです。その理由は中国社会科学院近代史研究所が一枚嚙んでいるからです。

髙山 社会科学院の招待で中国に渡り、ホテルまで用意されていた。

福島 中央直結のシンクタンクですから、関知していないと考えるほうがおかしい。

髙山 人質外交を本格化させようとしているんだろう。オーストラリアでは、ボー・〝ニック〟・ジャオの変死事件が発生した。彼は中国系オーストラリア人で、高級車ディーラーだった。中国はジャオに100万豪ドル(約7400万円)を与え政治工作員に仕立てあげ、メルボルンの選挙区から連邦議会選に立候補させようとしたそうだ。ジャオは寝返り、2018年、中国からスパイになるよう打診されたとASIO(オーストラリア保安情報機構)に明かした。ところが、2019年3月、モーテルの部屋で死亡しているのが見つかった。

福島 死因は薬物過剰摂取とされているようです。

髙山 暗殺の可能性が高いだろう。この事件が伏線になって、中国人の亡命が増えているとか。

福島
 台湾やカナダでも似たようなことが起きています。ただ、オーストラリアは特にひどかった。オーストラリアの学者、クライブ・ハミルトン氏の『サイレント・インベージョン』(静かなる侵略)という本が出版され、ようやく中国の悪行が白日の下に晒されるようになった。アフリカや南米でも、中国は世論誘導と政策誘導をさまざまな方法を駆使して、大枚を使ってやっていたのです。ただ、中国の手口がバレてしまったので、諸外国が警戒するようになったのも事実です。

髙山 中国の餌食になっていたのはスリランカやパキスタン、南洋諸島あたりだった。バヌアツでは、中国人に1万5000ドルでパスポートを売っていた。ファーウェイCEO、孟晩舟はたくさんパスポートを保持していたけど、そういうカラクリがあったわけだ。
 こういった中国の支配に対して、大国であるアメリカやオーストラリア、ニュージーランド、EUがもっと足並みを揃えて抗議すべきだし、日本もそれに乗っかる必要がある。でも、日本では孔子学院の存在だって放ったらかしのままだ。

福島 世界中が中国の危険性に気づいて動いているわけですが、日本は不思議なことに何ら手を打つ姿勢を見せていません。

髙山 前から不思議に思っていたことがある。2016年、日中青年交流協会の鈴木英司理事長が中国で拘束された。もう判決も出て刑務所にいるらしいけれど、別の記事で「日中青少年友好協会」というのが出ていた。調べてみると「日中□□友好協会」というのが、それこそ星の数ほど存在しているのを知った。こういった団体は外務省認定の任意団体とか公益法人とかになる。東京にオフィスがあって、事務所にいるのは1人なんていうのはザラらしい。

福島 日本には、同じような名誉職が多い。実利はなくても喜んで引き受けてしまいます。

髙山 中国からすると、そこが目のつけどころなんだろうね。「日中友好」という美名のもとで、中国の伸張を許してしまっている。

福島 面白いのですが、中国の対外プロパガンダ戦略の中で、日本だけが特異な方法を使用しているそうです。逆に言えば、日本でのやり方は他国で応用がきかないことが、何清漣氏の本にも書かれています。たとえば、日本以外の国では金をばら撒いて記者などを買収しています。ところが、日本の場合、JICA(国際協力機構)のトップや元政治家などが日中の懸け橋になろうと積極的に協力してくれるのです。

髙山 「日中友好人士」だ(笑)。

福島
 その人脈を丁寧に掘り起こすことで、ネットワークがうまく形成されています。

髙山 至極納得できる。

『聖書』すら書き換える

福島 中国の対外プロパガンダ誌の中で唯一、日本で発行されている『人民中国』だけが市場で生き残っています。他の国の対外プロパガンダ誌は中国共産党からの資金援助で支えられているのですが、日本の場合、日本人読者による購読料と広告費で賄える。その理由の第一が、雑誌の編集長がきわめて日本通であること。日本の一般読者に受け入れられやすい文化的コンテンツを提供しています。そして「中年、中産階級、政治的中立」を読者層に想定した誌面づくりを進めました。そうやって、うまく浸透することができているのです。 
 次に、それこそ日中友好人士が積極的に販売しているという事実があります。現に青森の日中友好協会の常務理事、藤巻啓森氏は『人民中国』の読者発掘のために、現地で読書会を発足している、と何清漣氏は本の中で指摘しています。

髙山 アホらしい(笑)。そうやって日本人が自ら積極的に団体を立ち上げて、中国人と一緒に中国旅行に行ったりしているわけだ。少しでも地位の高い人が挨拶に来て、「謝謝」と言って手を握れば、日本人はすぐに舞い上がってしまう。日本人からすると、自分の名刺に刷り込める肩書きになるから、喜び勇んで中国に協力する。

福島 中国側の要人とパイプがあれば、優越感がくすぐられるのでしょう。さらに、日本は中国文化に対する漠然とした尊敬が土壌としてあることも、付け込まれやすい要因であると言えます。

髙山 実際に尊敬に値しないことを伝える必要がある。「ニューヨーク・タイムズ」が、大勢のウイグル人迫害に関する中国政府の内部文書400ページ余りを入手したと発表した。

福島 パナマ文書告発にも関与しているICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)も、新疆(しん きよう)政策に関する内部文書を入手し、大規模な監視システムを使って一週間に1万5000人余りのウイグル人が収容施設に送られたといった内容を伝えています。

髙山 ところが、この一連の報道に対して、朝日はまたダンマリを決め込んでいる。中国は中国でウイグルやチベット、内モンゴルに関して、国際社会が文句を言うと内政干渉だとシャットアウトする。

福島 自分たちの言うことに逆らう人たちは、すべて力で封じ込めるという全体主義的なやり方は、時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ません。

髙山 宗教ですら封じ込める。ウイグルにあるモスクを潰してしまうなんて異常そのものだ。イスラムを棄教させるやり方は、中世のキリスト教の魔女狩りと似ている。

福島 習近平政権は『聖書』にすら手をつけています。中国の教会の壁などに掲げられていた「十戒」が削除されたとか。十戒は、古代イスラエルの指導者モーセが神から授かった、ユダヤ教やキリスト教における最も基本的な戒めですが、その1つ「あなたには、わたしをおいてほかに神があってはならない」が、共産党の思想に合わないと。神より上位に共産党思想があるわけですから。

髙山 ローマ教皇フランシスコは何の文句も言っていないのだろうか。

福島 中国はそのローマ教皇と、司教の任命権をめぐる「歴史的合意」を行っています。バチカンとの国交樹立を視野に取引を進めています。中国のカトリック市場は、バチカンにとって魅力的なんでしょう。

髙山 ヨーロッパではカトリック信者の数がどんどん減少しているね。だから、日本に来て、一所懸命お布施をもらっていた。それ以外にもタイに行ったり、中国には好き勝手にされていた司教任命権を結局容認したのも、新しい信者獲得のためか。

福島 中国共産党のほうが教皇よりも立場が上、ということも将来的に言い出しかねない。

髙山 白い服を着るのは教皇しか許されていないらしいけど、実は赤く染まっているんじゃないか(笑)。

フリーズした習近平

福島 ウイグル人の中にISに参加してテロ活動をしている人がいるとか、香港デモ隊の中には香港市民をリンチしたり、破壊活動をしている人間がいるという指摘があります。だからといって、ウイグル人全員がテロリストだとか、香港デモ全体を暴動、暴徒だとして鎮圧対象にすることは、間違っています。
 中国はこのあたりをうまく混ぜて世論誘導し、ウイグル人を弾圧しても良しとされる空気を生み出しています。日本でもその影響は受けていてワイドショー番組などのコメンテーターの中には香港デモの暴力映像を見て、「警察が実弾を使うのは正当防衛だろう」「中国が介入して、取り締まってもらうしかないんじゃないか」などと発言する人もいるので、びっくりしました。

髙山 絶対にあり得ない。

福島 ところが、今回の香港の区議選挙で民主派が圧勝しました。元『グローバル・タイムズ』(中国系メディア『環球時報』の国際版)の外国籍記者で、元フォーリン・ポリシー誌のシニア・エディターのジェームズ・パーマー氏のコラムによれば、これは中国政府にとって寝耳に水だったと評しています。中国当局は、市民はデモに賛同しておらず、親中派が選挙で圧勝すると信じて疑っていなかったと。

髙山 プロパガンダ工作が功を奏していると思い込んでいた。

福島 自家中毒化しています。自らが誘導しているプロパガンダに洗脳されてしまって、香港市民はデモ隊に辟易し、中国の支配を望んでいると思い込んでいたらしいのです。

髙山 中国はそんなに慌てていたの?

福島 選挙の結果と、トランプ政権の香港人権民主法のこんなにも早い成立は、中国当局は予想もしていなかったようです。
 当初、反応が鈍かったのは、ちょっとパニックに陥ってフリーズしていたとか。ようやく報復措置としてアメリカ軍艦は香港寄港ができないなどとしましたが、どこまで効果があるのか。

髙山 英国が中国に香港を引き渡すとき、少なくとも50年間は「一国二制度」を守り続けることを約束したのに、中国は簡単に反故にしてしまった。こんな約束も守れないのかと、香港市民は赤い共産党に馴染む意思を示さず対立している。さらにアメリカをはじめとした近代国家は、中国が国際的な約束を守れるかどうか注視しているし、正していこうとしているわけだ。

韓国のモデルは中国にあり

福島 習近平は演説のたびに「世界は100年に1度の変局に直面している」と言っています。今から100年前は1919年。第1次世界大戦が終わった直後です。このとき決められた国際秩序が大きくつくり替えられようとしている。つまり、欧米式の開かれた自由主義陣営と中国式の閉じられた全体主義陣営の対立。だから、さまざまなところで問題が噴出しているのです。ウイグル問題や香港問題、中国の覇権主義などは、全体主義的動きの帰結であり、習近平の世界史に対する挑戦でもあります。

髙山 ここまで中国をのさばらせたのは、日本の責任も大と言わなければならない。日本のODAがあって、中国は経済的大国になったわけだから。それに米国が便乗し、中国に壮大な奴隷工場をつくった。

福島 中国は中国でアメリカの技術を盗んでいったのです。

髙山 日本が嫌だと言えば、動かないことはたくさんある。現に今の韓国は日本に「ノー」を突き付けられたから、潰れそうになっている。韓国が歩んだ道のモデルは、すべて中国にあると思っている。韓国は日本からたくさんの援助と技術を引き出して、「漢江の奇跡」を成し遂げた。国民総生産が世界で10番目に入っているのは、日本のおかげとしか言いようがない。その拡大版が中国だと言える。技術や資金など、すべて日本が与えて、大きくなっていった。日本は朝鮮人にはハングルを与えたけど、中国人には日本語を与えた。

福島 宮脇淳子先生によれば「中華人民共和国」もすべて日本語とのことですからね(笑)。

髙山 日本が韓国にしている構図は、中国にも当てはまることを日本人は知るべきだね。

福島 日本は世界の秩序の鍵を握っているんですよ。中国の異常さにピンと来ていない日本人が多すぎます。講演会でも中国の異常さを話しますが、財界人の中には「でも、結局のところ、そのほうが発展速度がいい場合もありますよね」なんて言うんです(笑)。アリババのジャック・マー氏が引退したのは共産党の干渉が強くなったことに嫌気がさしたから、という噂があります。最近になって、民営企業のカリスマ・トップが一線を退いたり、企業資産が国有化されたりしています。それが全体主義の正体です。中国は鄧小平の改革・開放以降、経済は自由主義方向に舵を切ったので経済が急成長しましたが、習近平政権から全体主義に逆走しています。だから、急失速しているのです。
 習近平は今やヒトラー・スターリン、そして毛沢東と並ぶ独裁者である、という見方は国際社会に浸透しつつある。21世紀でこんなことをする国がまだあるのかと。しかも、世界で第2位の経済大国であり、国連の常任理事国なわけですから。日本人は呑気すぎる気がしてなりません。

髙山 中国の実態を新聞は書かない。その分、福島さんはもっと書いたり、話したりして、啓発していかなくちゃ。


髙山 正之(たかやま まさゆき)
1942年、東京生まれ。東京都立大学卒業後、産経新聞社に入社。社会部デスクを経て、テヘラン、ロサンゼルス各支局長。80年代のイラン革命やイラン・イラク戦争を現地で取材。98年より3年間、産経新聞の時事コラム「異見自在」を担当。辛口のコラムで定評がある。2001年~07年、帝京大学教授。著書に、『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』『白い人が仕掛けた黒い罠─アジアを解放した日本兵は偉かった』、共著に『こんなメディアや政党はもういらない』(和田政宗)(以上ワック)などがある。

福島 香織(ふくしま かおり)
1967年、奈良県生まれ。大阪大学卒業後、産経新聞社に入社。文化部、社会部などを経て、香港支局長、北京特派員、政治部記者を歴任。2009年からフリージャーナリストとして主に中国の政治、社会、経済などをカバーしている。著書に『日本は再びアジアの盟主になる』(宮崎正弘・石平共著、宝島社)、『米中の危険なゲームが始まった』(ビジネス社)、『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)、『現代中国悪女列伝』(文春新書)、『習近平の敗北』(ワニブックス)、『ウイグル人に何が起きているのか』(PHP)など多数。

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