#boycotttoyotaとBLM

 現在アメリカでトヨタが「差別企業」としてやり玉に上げられていることをご存じだろうか。これは今年の1月6日に、大統領選挙の結果認定に反対票を投じた議員がいたが、こうした議員が「民主主義の敵」だと扱われていることとも関わっている。トヨタはそれら「民主主義の敵」とされた147名の共和党議員の1/4に相当する37名に献金していて、反民主主義的な傾向が強い企業だと糾弾されているのである。
 ちなみに37名全員の献金額は、合計しても5万5000ドル(600万円)にすぎない。また当然ながら、トヨタはこの37名の議員にしか献金しなかったわけでもない。さらにトヨタのアメリカにある工場は、ケンタッキー、ミズーリ、ウェストバージニア、インディアナ、アラバマ、テキサス、ミシシッピと、共和党が強い州に圧倒的に偏っている。工場の地元の議員に献金するとすれば、共和党の議員が多くなる傾向が出てしまうのは必然だ。ちなみに民主党が強い州でトヨタの工場があるのはカルフォルニアだけである。
朝香 豊:トヨタが差別企業?#boycotttoyot...

朝香 豊:トヨタが差別企業?#boycotttoyota に見る米国の病

企業がつるし上げられる恐怖
 そんなことはお構いなしに、ツイッターには#boycotttoyotaといったハッシュタグが広がり、トヨタの不買運動が広がる気配が強まっているのだ。ここにはアメリカでBLM(ブラック・ライブズ・マター) が広がっていることと深い関係がある。

 BLMというと「黒人の命は大切」というスローガンのことだろうとか、そのようなスローガンを掲げている団体があるのだろうとかと思う方が多いのではないかと思う。だが、現実のBLMはそのようなレベルを遥かに超える存在のようだ。山中泉氏は著書「アメリカの終わり」の中で、BLMは既に全米で最大の圧力団体だと述べているし、本サイトで連載中の山口敬之氏のコラムでも、度々BLMの怪しい背景について言及されている。

キャンセルカルチャーの恐怖

 BLMを批判すると、批判した人の名前と住所が晒され、批判した人を雇用している企業はその人を解雇せざるをえないところにまで追い込まれる。企業経営者がBLM批判を口にすると、その企業の商品の不買運動が開始される。こうしたことがSNSなどを通じて一気に拡散されることになる。今やBLMに批判的なことを述べることは「ポリティカル・コレクトネス」(政治的公正)に反するとされ、社会的に抹殺される対象になっているのである。こうした文化のあり方を「キャンセル・カルチャー」というが、このキャンセル・カルチャーが私たちの想像以上にアメリカに大きく広がっているのだ。
 黒人のジョージ・フロイド氏が白人警察官に取り押さえられている最中に不幸に命を失った事件をきっかけにして、アメリカ全土に暴動が広がった。薬物フェンタニルの致死濃度は最低3ng/mLとされる中、フロイド氏の血中からはその4倍近くにも達する11ng/mLも検出されたこと、ジョージ・フロイド氏が「息ができない」と何度も訴えていたのは警官が膝でフロイド氏を押さえつける前からであり、「息ができない」原因は薬物中毒のせいであったと推定されること、警官が膝で圧迫していたのは首ではなく肩のようであり、フロイド氏の呼吸を警官は圧迫していなかったと思われることなどは無視され、警官には禁錮22年6ヶ月の有罪判決が下された。またミネアポリス市は警官の非を認めてフロイド氏の遺族に29億ドルを支払って和解している。こうした流れにもキャンセルカルチャーに汚染されたアメリカが見て取れる。
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聖人化されるジョージ・フロイド氏
 アップル、グーグル、ナイキなど、アメリカの名だたる企業がすべてBLMに協賛金を出しているのも、協賛金を出さなければ「差別的企業」として叩かれることを恐れているところがあるのだろう。そしてこうして集まった多額の協賛金は、民主党への政治献金としても利用されている。
 キャンセル・カルチャーは歴史認識にまで広がっている。ニューヨーク・タイムズ紙に「1619プロジェクト」という特集記事が組まれ、アメリカの真の建国は1776年ではなく、1619年だとする歴史観が展開された。すなわち、最初の黒人奴隷がバージニア植民地に連れてこられた1619年8月がアメリカの真の建国で、その後のアメリカの歴史というのは黒人迫害の歴史だったという歴史観である。1776年の独立戦争も奴隷制維持が主な動機だったと位置づけられ、初代大統領ワシントンとか第3代大統領のジェファーソンとかにしても奴隷を所有していたことが強調される。奴隷解放に貢献したとされるリンカーンにしても、先住民抑圧を正当化した差別主義者だったとの位置づけだ。そしてこの黒人などの迫害史としてのアメリカ史を否定することは、「白人至上主義」なのだと攻撃を受けることになるのである。

文革時の中国に似る現代アメリカ

 「1619プロジェクト」の編集者となったニコル・ハンナ・ジョーンズは、このプロジェクトを評価されて2020年のピューリッツァー賞(論評部門)を受賞した。このことは「アメリカ史=黒人らの迫害の歴史」という位置づけが、アメリカ国内でいかに広がっていて、これに異論を差し挟むことがいかに難しい環境にアメリカが置かれているかを如実に物語っている。

 民主党が強い州を中心に、アメリカではこの歴史観が学校でも教えられるようになっている。また、コロンブス、ワシントン、ジェファーソンらの偉人像が次々と撤去されている。こういうところにも「1619プロジェクト」的な歴史観が広がっていることが反映されていると言えるだろう。
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頭部が破壊されたコロンブス像(米・コネティカット州)
 アメリカにはBLMが支持する民主党やバイデンが正しく、これに反対するトランプやトランプに同調する共和党員は正しくないという流れができている。トヨタが批判にさらされているのも、トランプに同調する共和党員に献金するトヨタは正しくなく、「民主主義の敵」だと位置づけられるからだ。

 アメリカにはこのような全体主義が、あたかも「民主主義」の顔をして大手を振っている。そこには紅衛兵が大暴れした文化大革命期の中国にさえ似た雰囲気が漂っている。この点を見落としてアメリカを自由の国だと位置づけていては、アメリカの実像は見えてこないだろう。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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この記事へのコメント

ナイキいらない 2021/7/18 15:07

オニツカタイガーとナイキの関係を知れば、ナイキがいかにアジア人差別な企業かわかりますよ。あの朝鮮学校のCMを作ったのも納得できます。ウイグル問題にも加担しているような企業です、あの運動に賛同しているのは目眩しでしょう。
しかしアメリカがこのような国になるとは、このままでは第二の中国ですね。

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