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朝香豊:やはり社会主義礼賛――キューバ危機の再来にBLMの本性見たり!

社会主義国・キューバの「表」と「裏」

 キューバで現在、食料不足などに不満を訴える数千人による大規模な反政府デモが展開されている。キューバのディアス=カネル大統領はこれを体制の危機であると強く認識し、「われわれにはあらゆる手段を尽くす意思があり、街頭で戦うことになるだろう」「彼らが革命に挑みたいのであれば、われわれの屍の上を歩かなければならないだろう」と述べ、デモを繰り出す国民と徹底抗戦する意志を表明した。

 旧ソ連、中国、北朝鮮などにおける社会主義については否定的な評価を下しながら、キューバの社会主義に対しては肯定的イメージを持っている人は多い。確かに、キューバでは教育や医療は原則無料で、最低限の食料や生活物資も無料で配給されていると言われている。特に、キューバは医療分野には大変力を入れていて、多くの医師が海外に派遣されていることもよく伝えられる。キューバのGDPは公式発表では1000億ドルということになっていて、これを正しいとすると国民1人あたりのGDPは1万ドル程度あることになり、国民はそれなりの豊かさを享受していることになる。

 だが、現実はそんなに甘くない。社会主義は生産性の向上につながりにくいため、食料などの配給はどんどん貧しくなり、現在ではほとんど形ばかりのものとなっている。現在の配給水準で命をつなぎとめるのは無理がある。また医療が発達しているとされながら、実は基本的な公衆衛生水準は相当低いレベルにある。水道水にランブル鞭毛虫や赤痢アメーバが混入することも多く、赤痢や腸チフス、コレラが発生することも珍しくない。医療が大切だとキューバ政府が本気で思っているのであれば、こうした公衆衛生の向上には最優先で取り組むと思われるのだが、そうはなっていないのである。
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朝香 豊:やはり社会主義礼賛――キューバ危機の再来にBLMの本性見たり!

ホワイトハウス前では「キューバを助けろ」との運動も―

「負の循環」で貧困化する国民生活

 キューバ国民の1カ月の給与は平均20~30ドルであると言われ、彼らの年収はおよそ300~400ドルほどだ。もっとも、本業以外の仕事をこなすことで生活の足しにしていることが多く、この数字を鵜呑みにすることもまた危険ではあるものの、それでも1人あたり年収1万ドル水準の生活をしているというのは、まったくあり得ないのである。

 現在のキューバの窮状を生み出している要因として、コロナ感染の拡大による観光収入の激減が関係しているとの指摘がある。年間32億ドル程度がなくなったとされ、これは国民1人あたり300ドル程度に相当する。彼らの収入を考えれば、この収入が失われた影響がいかに大きいものかは想像に難くないだろう。

 また、トランプ大統領が政権末期にキューバ系アメリカ人に対し、キューバへの送金を禁じた影響も大きい。こちらも年間35億ドル程度とされているので、観光収入の減少以上の痛手を与えていることになる。キューバ政府は革命時にアメリカ人資産を接収した。亡命キューバ人の資産も接収しており、こうした接収資産の返還・賠償をキューバ政府に求めているが、キューバ政府は一向に応じない。このためにキューバに対して甘い対応を取るべきではないというのがトランプ政権の方針であった。

 観光収入の激減とアメリカからの送金の停止は、単に収入の減少にとどまらず、外貨の枯渇につながっている。キューバは慢性的に輸出よりも輸入が圧倒的に大きい国である。キューバは食料品の7割を輸入に頼っており、外貨の枯渇によって食料品の輸入すら十分にできなくなっている。加えて、医療用品も不足している。手術をしようにも、麻酔薬どころか普通の痛み止めの薬もないと言われているのが現状だ。キューバが医師の養成に力を入れてきたのも、実は医師を外貨獲得手段として位置づけていたことが大きいのである。

 それ以外にも、十分な化石燃料の輸入ができなくなり、電力不足も慢性化した。これにはベネズエラの経済崩壊によって、同じ社会主義国のよしみで安価に輸入できた原油の輸入が大幅に減ってしまったことも大きく影響している。この結果、今やキューバでは停電が当たり前となっている。

 その結果、慢性的な物不足は商品の売り惜しみを招き、悪性のインフレが広がるなかで国民生活は塗炭の苦しみを迎えている。インフレ率は500%に達し、中国のワクチンが効かないためにコロナ感染が拡大し、死者も急増しているのだ。

 コロナ対策として個人の自由が抑圧され、その結果として経済的発展も阻害されたことで、キューバは貧しさに喘ぐ〝負の循環〟を続けてきた。国を捨てた亡命キューバ人たちの金銭的支援がなければ国の経済を回せないところまで、キューバの国家経済は貧困化してしまったといえる。


 長々とキューバの現状を書き連ねてしまったが、コロナ禍はともかくとしてその他の経済制裁はトランプ政権の狙いであり、それは自由主義国に対して脅威になりかねないキューバという国の内から改革を促す狙いがあったと思われる。

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「社会主義・反米礼賛」が好物のBLM

 さて、読者の皆様ももう想像がついたかもしれないが、この実情に対して「何よりも平等と人権を大切にする」はずのBLM(ブラック・ライブズ・マター)はトランプ前政権の打ち出した厳しい対キューバ政策こそに問題があるとの判断を下している。

 つまり、彼らは、デモを起こしているキューバ人は食料品や医療物資の不足、電力不足など政府の新型コロナ対策に不満をいだいているだけで、社会主義という体制そのものには不満を持っているわけではないと言いたいのである。いかに彼らがキューバの社会主義体制に対し、甘い姿勢を持っているかがわかるだろう。

 このなかで、特にBLMは露骨にキューバ政府の擁護に回った。そこには自由を抑圧し、反体制派を逮捕、拘束して体制の維持を図ってきたキューバ政府のあり方に対する非難はなく、キューバの革命(現政府側)を抑圧するアメリカのあり方こそが今回のデモの原因であるとしている。

 こうした露骨なキューバの体制擁護姿勢を見せたことで、BLMの過去のキューバに対する発言がさまざまに発掘されるようになった。たとえば、彼らは革命を主導したフィデル・カストロが2016年に亡くなった際に、「フィデル・カストロのいない世界になったと気づいて、私たちは多くのことを感じている。恐怖と不安が絡まった、圧倒的な喪失感である」との声明を出し、その死を大いに悼んだ。また、アメリカで警官を殺したことで収監され、脱獄してキューバに逃げたテロリストの「アサタ・シャクール」を匿ったことでも、BLMはカストロを礼賛した。
Wikipedia (7356)

BLMが「礼賛」するフィデル・カストロ。国家元首として在職中、日本国内においては「カストロ議長」と呼ばれることも
via Wikipedia
 それではバイデン政権はどう動くだろうか。

 7/15日にバイデンは「キューバは破綻国家であり、自国民を抑圧している」と指摘し、キューバ国民の救済に向け「多数の可能性を検討している」と表明をしている(産経新聞記事より)。

 上記記事にもある通り、キューバへの姿勢をオバマ時代のように緩やかなものに戻すのか、トランプ同様に強硬姿勢を継続するのかが注目されていた中で発言であり、一見「強硬姿勢の継続」とも思えるが、果たしてそれが可能であろうか。

 米民主党の左派はBLMと深い関係を持っていることは周知のとおりだ。そして、前述のごとく、そのBLMがキューバに対して郷愁に近い礼賛姿勢なのである。おそらくは「甘い姿勢」を取ることをバイデン政権に求めてくるのではないだろうか。実際民主党左派はBLMと同様にトランプ政権の厳しい対キューバ政策を非難して、これを緩める動きに平然と出ている。

 であれば、バイデン政権が自由を求めるキューバ人を助けるために積極的な動きを示すことは難しいと私には思える。

 「人権尊重」を声高に謳う団体により、「人権が抑圧されている国家」がどんどん不幸になってゆく―。それが現実になるとすれば、キューバ人にとって最大の不幸であると言わざるを得ない。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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