【ノーベル賞受賞歴と日中韓の微妙な関係】中国/韓国を圧...

【ノーベル賞受賞歴と日中韓の微妙な関係】中国/韓国を圧倒してきた日本…今後は?!

日中韓_これまでのノーベル賞受賞歴を振り返る

 日本は中国・韓国に対し圧倒的なノーベル賞受賞数を誇る。昨年ノーベル化学賞を受賞した、リチウムイオン電池の開発者・旭化成名誉フェローの吉野彰氏を含め、これまでの受賞者は化学8名、物理学11名、生理・医学5名、文学2名、平和賞1名と日本人全体で28名(※)となる。これに対し、中国は全体で3名、韓国は2000年に受賞した1名のみと非常に少ない。
※うち南部陽一郎氏および中村修二氏は米国籍、カズオ・イシグロ氏は英国籍

国別受賞歴一覧と受賞者トピック

 2020年までの各国のノーベル賞受賞数では、アメリカが第1位、日本は8位に位置しており、中国や韓国はトップ20にも入っていない。ここで、日中韓の受賞歴を振り返っておこう。

【日中韓受賞歴一覧と受賞者概要】
・1949年(日本)    物理学賞・ 湯川秀樹 (ゆかわ・ひでき) 京都大学理学部教授
原子核の陽子と中性子を結びつける強い相互作用の媒介となる粒子、中間子の実在を1935年に理論的に予言した。

・1965年(日本)    物理学賞・朝永振一郎 (ともなが・しんいちろう) 東京教育大学教授
水素原子のスペクトルの観測データと予測値のずれの解決に超多時間理論が有効であると考え、これを発展させた「繰り込み理論」を完成させた。

・1968年(日本)    文学賞・川端康成 (かわばた・やすなり) 作家
代表作『伊豆の踊子』(1927)や『雪国』(1935-1937)を通じ、微細な感受性をもって日本人の心の神髄を表現した。

・1973年(日本)    物理学賞・江崎玲於奈(えさき・れおな) 米IBMワトソン研究所主任研究員
半導体におけるトンネル現象の実験的発見をした。

・1974年(日本)    平和賞・佐藤栄作 (さとう・えいさく) 元首相
「核を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を提唱、1970年核拡散防止条約に署名したことなど太平洋地域の平和に貢献した。

・1981年(日本)    化学賞・福井謙一 (ふくい・けんいち) 京都大学工学部教授
軌道の密度や位相によって、分子の反応性が支配されていることに関する「フロンティア軌道理論」を1952年に発表し、有機化学反応の有無について体系的な理論を確立した。

・1987年(日本)    医学生理学賞・利根川進 (とねがわ・すすむ) 米マサチューセッツ工科大学教授
V(D)J遺伝子再構成による「抗体の多様性生成の遺伝的原理」を発見した。

・1994年(日本)    文学賞・大江健三郎 (おおえ・けんざぶろう) 作家
『個人的な体験』などの作品を通じ、現実と神話が密接に凝縮された想像の世界をつくり出した。現代における人間の様相を衝撃的に描いたことで、作品の描く“現代性”が評価された。

・2000年(日本)    化学賞・白川英樹 (しらかわ・ひでき) 筑波大学名誉教授
電気を通すプラスチック、ポリアセチレンなど導電性高分子の発見をした。

・2000年(大韓民国)    平和賞・金 大中(キム・デジュン)韓国第15代大統領
約半世紀に及ぶ分断を経て歴史的な南北首脳会談を成功させ、南北の和解と協力に努めた。

・2001年(日本)    化学賞・野依良治 (のより・りょうじ) 名古屋大学理学部教授
遷移金属錯体触媒による不斉合成反応を研究。特にオレフィン類やケトン類の不斉水素化反応を開拓した。

・2002年(日本)    物理学賞・小柴昌俊 (こしば・まさとし) 東京大学名誉教授 
岐阜県に建設された素粒子観測装置、カミオカンデで素粒子ニュートリノを世界で初めて観測した。

・2002年(日本)  化学賞・田中耕一 (たなか・こういち) 島津製作所フェロー 
質量分析のための「ソフトレーザー脱離イオン化法」、生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発をした。

・2008年(日本)    物理学賞・南部陽一郎 (なんぶ・よういちろう)=米国籍 米シカゴ大学名誉教授
「自発的対称性の破れ」の発見をした。

・2008年(日本)  物理学賞・小林誠 (こばやし・まこと) 高エネルギー加速器研究機構名誉教授
「CP対称性の破れ」を理論的に説明した「小林・益川理論」を提唱した。

・2008年(日本)  物理学賞・益川敏英 (ますかわ・としひで) 京都大学名誉教授
同上

・2008年(日本)  化学賞・下村脩 (しもむら・おさむ) 米ボストン大学名誉教授
「緑色蛍光タンパク質(GFP)」の発見・開発をした。

・2010年(日本)    化学賞・根岸英一 (ねぎし・えいいち) 米パデュー大学特別教授 
「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」に成功した。

・2010年(日本)  化学賞・鈴木章 (すずき・あきら) 北海道大学名誉教授 
「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」に成功した。

・2010年(中華人民共和国)    平和賞・劉 暁波(りゅう ぎょう)元北京師範大学文学部講師 
中国における基本的人権のために長年、民主化運動を始め広範な人権活動を行った。

・2012年(日本)    医学生理学賞・山中伸弥(やまなか・しんや) 京都大学iPS細胞研究所長・教授
さまざまな組織の細胞になる能力がある「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発した。

・2012年(中華人民共和国)    文学賞・莫言(ばく げん)中国共産党員
マジックリアリズムの手法で中国農村を幻想的かつ力強く描き、幻覚的なリアリズムによって民話、歴史、現代を融合させた作品を残した。

・2014年(日本)    物理学賞・赤崎勇(あかさき・いさむ) 名城大学教授、名古屋大学名誉教授
青色発光ダイオード(LED)の開発に貢献した。

・2014年(日本)  物理学賞・天野浩(あまの・ひろし) 名古屋大学教授
青色発光ダイオード(LED)の開発に貢献した。

・2014年(日本)    物理学賞・中村修二(なかむら・しゅうじ)=米国籍 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
青色発光ダイオード(LED)の開発に貢献した。

・2015年(日本)      物理学賞・梶田隆章(かじた・たかあき) 東京大学宇宙線研究所所長
素粒子ニュートリノの振動を発見した。

・2015年(日本)    医学生理学賞 ・大村智(おおむら・さとし) 北里大学特別栄誉教授
亜熱帯地方に住む寄生虫の感染症治療薬開発に貢献した。

・2015年(中華人民共和国)    医学生理学賞・屠 呦呦(と・ゆうゆう)中国中医科学院
抗マラリア薬であるアルテミシニン(青蒿素)とジヒドロアルテミシニン(英語版)を発見。中国の伝統医薬から新薬を生み出し多くの命を救った。

・2016年(日本)    医学生理学賞 ・大隅良典(おおすみ・よしのり) 東京工業大学栄誉教授
細胞内で不要なたんぱく質を分解、リサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明した。

・2017年(日本)    文学賞 ・カズオ・イシグロ  作家 ※英国籍
感情に強く訴える小説群が評価された。

・2018年(日本)    医学生理学賞・本庶佑(ほんじょ・たすく) 京都大学特別教授
がんの免疫療法の開発をした。

・2019年(日本)    化学賞・吉野彰(よしの・あきら) 旭化成名誉フェロー
リチウムイオン電池の発明をした。

輝かしい日本の受賞歴  中国・韓国との明暗を分けるものとは?

 2020年までにノーベル賞を受賞した日本人は、日本出身の外国籍者を含めて28人。2001年に日本政府が「21世紀の前半50年で30人のノーベル賞受賞者を出す」との計画を発表したときより、日本人が年に平均1人受賞している。

 日本の輝かしい受賞歴の始まりは、1949年の湯川秀樹氏(ノーベル物理学賞)に遡る。その後も、1968年の川端康成氏(ノーベル文学賞)や1974年の佐藤栄作氏(ノーベル平和賞)など、昨年の吉野彰氏(ノーベル化学賞)の受賞まで続く。このようにノーベル賞を受賞する日本人が多いため、中国や韓国は日本に対し、強く憧憬の念を抱いているようだ。

 日本人が次々にノーベル賞を受賞している理由について、「民族性」や「文化」がよく挙げられるが、それだけではない。もちろん日本人の勤勉さなしには成し遂げられなかった側面もあるが、もう一つの理由として日本経済が大きく関係している。

 ノーベル賞は、数十年かけて積み重ねられた歴史的貢献であり、目の前の成果ではない。日本経済は、1950年代の高度経済成長期より成長し始め、70年代のオイルショックを経て、右肩上がりで成長を遂げてきた。経済が発展するにつれ、日本の科学研究や教育への資金投入は強化され続けたこと、そして教育経費が国民総所得に占める割合のうちで大きくなったことが、中国・韓国を引き離した輝かしい日本の受賞歴の理由であると考えられる。

「2020年ノーベル賞」概観と結果

 2020年のノーベル賞の発表は、10月5日から12日の間の6日間に及び行われた。5日の医学生理学賞を皮切りに、6日に物理学賞、7日に化学賞、8日に文学賞、9日に平和賞、12日に経済学賞が発表された。

【2020年ノーベル賞受賞者(団体)】
・医学生理学賞 マイケル・ホートン氏(英)、チャールズ・ライス氏(米)、
        ハーベイ・オルター氏(米)
・物理学賞 ラインハルト・ゲンツェル氏(独)、アンドレア・ゲズ氏(米)、
      ロジャー・ペンローズ氏(英)
・化学賞 ジェニファー・ダウドナ氏(米)、エマニュエル・シャルパンティエ氏(仏)
・文学賞 ルイーズ・グリュック氏(米)
・平和賞 国際連合世界食糧計画
・経済学賞 ポール・ミルグロム氏(米)、ロバート・バトラー・ウィルソン氏(米)

 なお、主催のノーベル財団は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、ストックホルムで開かれる予定であった授賞式を中止する方針である。受賞者は自国でメダルと賞状を受け取ることとなった。

発表前 各国の期待と思惑

 英調査会社クラリベイトは9月23日、ノーベル賞受賞の有力候補者として24人を発表した。24人のうち19人は米国の主要学問機関を基盤に活動しており、残りはカナダ、ドイツ、日本、英国、韓国の研究者であった。

 候補者の中でも特に注目を集めたのは、ソウル大学科学生物工学部碩座教授のヒョン・テクファン氏で、ノーベル賞の獲得が難航している韓国からの候補者であった。この報道に韓国では、ノーベル化学賞の初受賞に期待が高まっていた。

 日本人からは生理学・医学分野でがん研究会理事・がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔氏、化学分野で東京大学大学院工学系研究科教授の藤田誠卓越氏が候補者として挙がった。

発表後 各国の反応と評価

 2020年ノーベル賞の発表は各国で盛り上がりを見せたが、日本は2018年からの3年連続の受賞を逃す残念な結果となった。先述のとおり有力候補者に名前が挙がった韓国だったが、同じく受賞とならず、毎年のごとく様々な機関とメディアで一斉に韓国科学教育と研究条件について批判が出ることとなった。

 また、9,700万人の飢えた人々に食糧を届けた国際連合世界食糧計画(WFP)のノーベル平和賞受賞は、アメリカで話題となった。WFP事務局長であるデビッド・ビーズリー氏(アメリカ人)がトランプ大統領にゆかりのある人物であったからだ。トランプ大統領自身も2度ほどノーベル平和賞の候補者として名が挙がっている。

10年後の日本のポジションは?中国・韓国の逆襲

 これまで数々のノーベル賞を受賞してきた日本だが、今後のノーベル賞獲得が危機に瀕している。その原因のひとつとして、日本経済の成長の鈍化が続いており、科学研究へ投じられる資金にも影響が出ていることが挙げられる。日本政府の教育経費が国内総生産(以下、GDP)に占める割合は約3%にまで落ち込むなど、7年連続4%以上の中国を下回るようになってきた。ノーベル賞受賞者を多数輩出している東京大学や京都大学、名古屋大学は近年、世界大学ランキングで順位を落としており、日本の高等教育に以前ほどの活気が見られなくなっている。

 日本政府が発表した2018年の科学技術白書に「日本のテクノロジーイノベーション能力は衰退している」との指摘があるとおり、研究資金や論文数、論文の被引用回数はいずれも減少している。日本人の数十年後のノーベル賞受賞に影響が出ることは間違いないだろう。

 ノーベル賞の受賞は、経済成長を遂げ、研究開発への資金投資や強力な国のサポートがなければなし得ないのである。

 一方で、中国や韓国では、ノーベル賞は特に世界的な権威のあるものだと認識されており、ノーベル賞獲得のために研究者や研究機関へ巨額の予算を与えているとの話もある。では、実際に中国や韓国は、今後ノーベル賞受賞数を増やしていくことになるだろうか。

『中国は今後急激に受賞数を伸ばす』 自信の根拠とは

 中国国家統計局科学技術部が発表した2018年全国テクノロジー経費投入統計公報によると、中国全土の研究開発費は1兆9,677億9,000万元(前年比11.8%増)に達し、3年連続の2桁成長となった。中国の研究開発費への投資額は、2013年から世界第2位の地位を維持しており、論文数や特許取得数も激増している。中国が今後急激に受賞数を伸ばすことは間違い無いだろう。

 今後の中国の動向に敏感になっている者は少なくない。その1人として、現在大統領選真っ只中の米:ドナルド・トランプ大統領が挙げられる。欧米を凌駕しつつある中国の技術力の進化を鑑みて、「今後のノーベル賞受賞者が中国人だらけになるのでは」と危惧しているようだ。

『韓国は今後も伸びない』 これを示す韓国の異常性とは

 国家ブランド力の向上にこだわる韓国において、ノーベル賞の受賞は悲願だ。しかし韓国のノーベル賞受賞は、2000年の平和賞のみである。

 ノーベル賞受賞者を輩出するための環境とGDPは大きく関係している。経済成長を測るGDPの伸び率には、社会環境が整っていること、ひいては研究環境・設備が整備されていることが表れるからだ。現に、ノーベル賞受賞国のほとんどは、1人あたりのGDPが1万ドル以上の国である。韓国は、1960年代前半まで世界の最貧国グループに属していた。しかし、2017年には韓国全体のGDPが1兆5,310億ドルとなり、東京のGDP約1兆8,000億ドルを少し下回るほどにまで急成長を遂げている。ソウル首都圏には全人口5,000万人の約半数が居住し、世界都市圏人口の順位でも5位に位置している。

 韓国ほどの経済成長を遂げた国の中で、ノーベル賞受賞が1つしかない国はかなり珍しく、異常とも言えるが、これはなぜか。

 日本との比較分析から、「韓国の社会風土や民族性が要因である」という声が大きい。韓国は、世界有数の大学進学率の高さを誇る国だが、それは異常なまでの学歴社会であることも意味する。韓国は儒教の学識が権力と結びついた歴史を持っており、学術的な権威は重要なステータスなのだ。そのような風潮が科学研究の本質的な価値を見失い、『ノーベル賞の受賞』という目先の成功に没頭してしまっていることが、これまでの受賞歴の少なさ、そして「韓国は今後も伸びない」と言われている理由なのではないだろうか。日本人のように何十年もかけてコツコツと研究を積み重ね、真摯に打ち込む姿勢が必要だろう。
構成:Daily WiLL Online 編集部

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