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核兵器を持たない国は核兵器を持つ国の通常兵力により蹂躙(じゅうりん)される

核兵器を持っている国が核兵器を持たない国に戦争を

 核兵器を持たない国は核兵器を持つ国の通常兵力により蹂躙(じゅうりん)される。最近の例がウクライナだ。核保有国は常に核を持たない他国を攻撃する。それが歴史の事実だ。
 歴史のその時々における最新最強の大量破壊兵器を持った民族、国、団体がそうでない国に攻撃を仕掛けて“繁栄”を築いたというのが世界の歴史である。

 核兵器開発後の世界の戦争の歴史、すなわち第2次世界大戦後の戦争の歴史を見てみよう。
 一言で言うと、核兵器を持った国が持たない国に戦争を仕掛けてその国を壊滅させるか、弱体化させるか、属国化させるか、混乱の内戦化させるか、ということが繰り返されてきた。
 常に核兵器を持っている国が核兵器を持たない国に戦争を仕掛けてきたのだ。


 それが第2次世界大戦後の現代史である。
 逆に核兵器を持たない国が核兵器を持つ国に戦争を仕掛けた事実はない。常に戦争を仕掛けた戦火の発端を開いたのは、つまり口実をつくり戦争を仕掛けてきたのは、第2次世界大戦後、核兵器を有する国ばかりであった。

朝鮮戦争と中越戦争

 まずは朝鮮戦争。
 ソ連が英米についで公式に核保有国となったのはソ連による最初の核実験、1949年8月29日である。そしてそのソ連が北朝鮮をダミーとして、というよりも第2次世界大戦の戦局段階において、38度線までソ連が北朝鮮に侵攻し、それまで日本の領土であった北朝鮮を自国の領土とした。そのソ連が38度線を超え南に侵攻してきたのが朝鮮戦争の始まりである。

 ソ連が1945年8月に日本に対して宣戦布告、そして、いきなり北朝鮮の38度線まで侵攻してきたのである。北朝鮮、すなわち実質的にはソ連軍と中国軍が38度線を超えて南に侵攻してきたのが、1950年6月25日(ソ連が核保有国となったのは、先述した通り、公式には1949年8月29日)。

 まさに核保有国であるソ連が北朝鮮を使って非核保有国である韓国に侵入してきたのである。

 ソ連の動きに対して、急遽、国連の安全保障理事会が開かれ、国連軍が韓国側に派遣されることとなった。韓国は国連軍によって反転攻勢をすることとなったが、その国連軍の88%は、核保有国であるアメリカ軍であった。
 北朝鮮は今でもこの戦争状態にある。戦争継続中なのだ。

 中国が核保有国となったのは、最初に核実験を行った1964年10月16日である。以降、中国は核保有国の仲間入りを果たしたのだ。


 その核保有国中国が非核保有国であるベトナムに戦争を仕掛けたのが、いわゆる中越戦争である。口実はベトナム軍がカンボジアにその前年に侵攻したことであったが、翌年、中国は全面的にベトナムに対し戦争を仕掛けたのである。
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北朝鮮と韓国の国境

数々の戦争

 次にアフガン戦争であるが、これも核保有国のソ連が1979年12月に非核保有国のアフガンに侵攻したのが始まりである。

 そして2001年にはアメリカ、つまり核保有国がアフガンに侵攻している。一応、形式上はNATO40カ国がアメリカ側に付いているという形を取っているが、もともとはアメリカの単独侵攻である。

 つまり、核保有国のアメリカが非核保有国のアフガンに戦争を仕掛けた。理由はアルカイーダ及びタリバンの壊滅という形を取っているが、いずれにしても核保有国が非核保有国に戦争を仕掛けた事実には代わらない。

 次にイラク戦争であるが、これも核保有国のアメリカが2003年にイラクに侵攻したという戦争である。当時のイラクはサダム・フセインのイラクであるが、言うまでもなく非核保有国である。

 次に第2次インドシナ戦争、いわゆるベトナム戦争であるが、これは北ベトナム及びベトコンに対し、核保有国であるアメリカが南ベトナムを支援する形で行った激しい空爆を中心とする戦争である。

 ハイチ戦争(1994年)。アメリカがハイチに対して行った戦争。これも核保有国が非核保有国に行った。

 ボスニア戦争(1994年~95年)。核保有国であるアメリカがボスニアに対して空爆を行った。言うまでもなくボスニアは非核保有国である。

 コソボ紛争。アメリカを中心とするNATO軍がセルビア・モンテネグロに対して行った空爆を中心とする戦争である。これも核保有国であるアメリカ及びイギリスが非核保有国であるユーゴスラヴィア、セルビア・モンテネグロに対して行った戦争。

 クロアチア戦争(1992年)。核保有国であるイギリスが非核保有国ボスニア及びクロアチアに対して行った。

 フォークランド紛争(1982年)。核保有国であるイギリスが核保有国でないアルゼンチンに対して行った。

 パナマ戦争(1989年)。これは核保有国であるアメリカがパナマに対して行った戦争。ノリエガ将軍を捕まえアメリカの刑務所にぶち込んだ。言うまでもなくパナマは非核保有国。

 グレナダ戦争(1983年)。核保有国であるアメリカがカリブ海諸島の国グレナダに侵攻し社会主義政権を倒壊させた。グレナダは言うまでもなく非核保有国。

 ドミニカ戦争(1965年)。核保有国であるアメリカがその強力な海兵隊をドミニカ共和国に展開。ドミニカ共和国は言うまでもなく非核保有国。

 アルジェリア戦争(1954年~62年)。核保有国であるフランスがアルジェリアに対して行った戦争。アルジェリアは言うまでもなく非核保有国。
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軽空母「インヴィンシブル」(1981年撮影)。1980年に就役したばかりの当艦は、フォークランド紛争においてシーハリアーを搭載して活躍し、その有効性を証明した
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カダフィーが失脚したのはなぜ

 ウクライナ戦争(2014年)。これは核保有国であるロシアが非核保有国であるウクライナに対して行った侵攻である。クリミア半島を併合する。東ウクライナ地方のドネツク、ルガンスクに実質的にロシア軍が侵攻。

 実はウクライナはソ連崩壊の時点で、ソ連の保有した核兵器の約3分の1を保有する核保有国であったが、1994年、ウクライナは核拡散防止条約に加入し、これらの核兵器を破壊している。意図的に非核保有国になった。そこを狙って核保有国のロシアがウクライナに侵攻したのである。まさに核保有国が非核保有国に侵攻した例である。

 スエズ動乱(1956年)。これは核保有国であるイギリス、フランスがエジプトに戦争を仕掛けた。1956年10月、スエズ運河をイギリス、フランスが手中に収めようとして仕掛けた戦争である。

 リビア戦争。2011年のアラブの春がリビアに飛び火した。アラブの春でカダフィー大佐の政権がぐらつくや核保有国の米英仏が軍事介入、つまり、リビアに戦争を仕掛け、カダフィーは暗殺されてしまった。これこそまさに核保有国の米英仏が非核保有国のリビアに仕掛けた戦争及び指導者の暗殺である。

 なぜ、英米仏はリビアに戦争を仕掛けたのか? 
 それはリビアのカダフィーが核兵器を持とうとしたからである。

 リビアのタジュラに核兵器製造設備がある。核兵器を持とうとした、というところが重要である。つまり、まだ持っていない。しかし持とうとした、そこで米英仏が攻撃を仕掛けてカダフィーを暗殺したのである。

 イギリスのブレア首相(当時)が放ったトリポリに展開するスパイがカダフィーの核兵器導入計画を察知していた。同時にカダフィーは化学兵器の開発、蓄積を急いでいた。

 そこで英米はカダフィーに圧力をかけて核武装計画を放棄する約束を取り付けた。2003年12月20日のことである。リビアのカダフィーが大量破壊兵器を放棄すると発表したのである。一応形の上では歓迎表明をしたブレア首相とジョージ・W・ブッシュ(子)だが、機会があればカダフィーを攻撃する決意は崩さなかった。
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リビアのカダフィー大佐が攻撃された理由は
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シリアにミサイルを撃ち込んだトランプ

 アメリカのトランプ前大統領は、いきなりアサド政権のシリアにトマホークミサイルを59発を撃ち込んだ。2017年4月6日のことだ。
 これまさに核保有国アメリカが非核保有国シリアに対して仕掛けた戦争である。

 アサドはカダフィーの二の舞になるのか、カダフィーと同じ道をたどるのか、恐怖にかられたに違いない。

 核保有国は非核保有国の独裁政権に対して容赦ない攻撃をいつでも仕掛けてくる。それがこの59発のトマホークミサイルである。

 カダフィーとアサドはもともと盟友であった。そのカダフィーが英米により殺害されるのを目の当たりに見ている。アサドが生き延びる道はただ一つしかない。それはロシアが喉から手が出るほど欲しいものをロシアに差し出し、自らの身の安全を守ってもらうことである。
 ロシアが喉から手が出るほど欲しいものは何か? それはシリアの持つ地中海へのアクセスである。

 ロシアはクリミア半島を併合した(2014年3月)が、なぜか?
 ウクライナがNATO化した場合にクリミア半島までNATOの軍事基地が形成されると黒海へのアクセスをロシアは閉じられることになる。それでなくても黒海から地中海に抜けるボスポラス海峡はNATOの一員であるトルコの支配下にある。

 従って黒海からボスポラス 海峡を経由し地中海に抜けるという道はロシアにとって軍事戦略上いくらクリミア半島を併合したからといって完璧なものではない。どうしても地中海に直接出るアクセスが必要である。それをシリアが提供したのである。

 かくしてシリアのアサドはカダフィーの二の舞になることを防いだ。つまり核保有国の英米がシリアに軍事攻撃を仕掛け、アサドを暗殺することを防止できたのである。
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戦艦「ミズーリ」から発射されるトマホーク
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サダム・フセインの末路

 イラクのサダム・フセインも同じく核兵器を持とうとしてアメリカに殺され、体制転覆させられた1人である。
 サダム・フセインは1995年の国連によるイラクの核関連施設の度重なる査察にもかかわらず、核兵器保有の野望を追求していたのである。

 イスラエルがイラクのオシラク原子炉施設を攻撃して破壊した後、イラクは一気に核開発のスピードを早めた。要するにウラニウム濃縮技術の開発を一気に加速したのである。

 そして、1990年代の半ばにはサダム・フセインは一定の濃縮ウラニウムさえ手に入れることができれば、一気に原子爆弾を製造するところまで技術開発を成し遂げていた。

 問題はサダム・フセインがウラニウム235あるいはプルトニウムをどういうルートから手に入れるかであった。

 これはアメリカ以外の核兵器が最も多く存在する国のウラニウム235とプルトニウムの管理が杜撰(ずさん)なところから手に入れるということになる。
 それは、どこかはあえて書かない。当時の米国防長官のラムズフェルドがいみじくも指摘したように、それはいつ起こってもおかしくない状況であったのである。

 砂漠の嵐作戦(Desert Storm)で、サダム・フセインがアメリカにより血祭りに上げられた真の理由はここにある。

 まさに核保有国のアメリカが非核保有国の独裁者で核兵器に触手を伸ばした者を殲滅(せんめつ)したのである。
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イラクのサダム・フセイン

ウクライナを防衛するための諸条件とは

 ウクライナは次の2つの要件のうち、いずれか1つを満たしていればロシアに蹂躙されることはなかった。

(1)核兵器を独自保有していること
(2)核兵器を共有するNATOのメンバーであること

 問題はウクライナにとってどちらが達成容易な条件であったか、ということである。NATOのメンバーになるには、NATOの現メンバーから承認される必要がある。しかし、歴史的経緯及び現在の状況から言って、NATOのメンバーになることは、ウクライナにとって容易ではなかった。

 従って、ウクライナにとって、(1)の選択肢が残されていたのに、それをあえて選ばなかったのはウクライナ自身である。ソ連邦崩壊の1991年時点で、ソ連の核兵器の3分の1はウクライナが独自保有していた。
  ウクライナは1991年時点では1300 発のICBM を含む1700 発の核弾頭を保有する米露に次ぐ核兵器大国であったが、それを全て廃棄またはロシアに譲渡し、1994年、核拡散防止条約に入ったのは他ならぬウクライナである。ウクライナは自分から進んで核保有国から蹂躙されることを良しとしたのだ。

 しかも仮に NATOのメンバーとしても、アメリカがその若者をウクライナに派遣してウクライナを防衛するためには、次の要件が全て揃っていることが必要である。

(1)アメリカにとっての国家安全保障上の利益があること。つまり、アメリカの隣国である必要がある
(2)アメリカ軍の基地があること
(3)アラブ諸国のようにアメリカにとって必要な石油資源があること
(4)アメリカにとって極めて重要な貿易相手国、金融取引相手国であること

 ウクライナは、このいずれも欠いている。

バイデン大統領がウクライナに米軍を派遣しない理由

 しかし、過去においてアメリカは、これらの要件を満たしていない時にもアメリカ兵を現地に派遣して、アメリカから遠い国の戦争の当事者に加担したことがある。
 1995年のクリントン大統領(当時)のユーゴスラヴィア戦争の介入、2011年のオバマ大統領(当時)のリビアの内戦である。いずれも上記の安全保障上の理由がないにもかかわらず、人権問題としてアメリカが軍を派遣した。

 いずれも人権蹂躙を理由としてアメリカ軍を派遣したのに、なぜ、バイデン大統領はウクライナにアメリカ軍を派遣しないのか。

 理由は明白である。ウクライナにアメリカ軍を派遣すればロシアと敵対することになる。ロシアは核保有国であり、プーチンは核兵器を使うことを辞さない旨の発言をしている。明確に核兵器を使うという言葉は使っていないが、ロシアに敵対するものは今まで歴史上経験したことがないような被害を受けることになるという発言をしている。取りも直さず核攻撃のことを示唆している。バイデン大統領はとても怖くてウクライナを助けるためにアメリカ 軍を派遣することはできない。

 結論を申し上げると、ウクライナの選択肢の上記(2)のNATOのメンバーになっていれば、ロシアからの攻撃を避けられたかというと、答えは「否」である。いくらNATOのメンバーになっていても、自らが核攻撃の反撃を受けるリスクを犯してまでアメリカにとって安全保障上の利益がないウクライナに、アメリカ兵を派遣して助けることはしないし、できない。

 核保有国が通常兵力で攻撃を仕掛けてこないようにするためには、自ら核武装をする以外にないのである。
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バイデン大統領がウクライナに米軍を派遣しないのはナゼ?

ウクライナ進攻はロシアにとって自衛の措置

 筆者は『核武装する勇気』という本を日本で出版し、また『Nuclear Japan』という日本核武装論を米英でも出版し、中国、ロシア、北朝鮮という核保有国の仮想敵国に囲まれている日本の将来に対し、警告を発している。

 ちなみに、プーチンは何の合理的な根拠も大義もなく、いきなりウクライナに攻め入ったと報道されているが、それは間違っている。

 プーチンのウクライナ進攻はロシアにとっての自衛の措置であった。

 NATOは密かにウクライナの軍事を強化するために最新兵器を供与し、なかんずくウクライナからモスクワに届く中距離弾道ミサイル、巡行ミサイルなどをウクライナに運びこもうとしていた。プーチンにとって、それが実現するとモスクワが丸裸にされたと同然となる。プーチンにとってはギリギリの自己防衛の選択である。

 メディアではウクライナに進攻しても、プーチンはどうウクライナを統治するのか、終戦処理、戦後処理の全く見えない愚かな進攻を始めたと評価されているが、それも間違いである。

 プーチンの狙いはただ一つ。ウクライナに密かに運び込まれた西側の最新兵器をことごとく破壊し、ウクライナ軍の兵器、武器、弾薬及び軍事関連施設を全て破壊し、ロシア側の中距離弾道ミサイルを西側に向けてウクライナに数千発配備することが目的であり、それがウクライナ進攻の唯一の目的である。ウクライナを対NATOのロシア最前線基地にすることがプーチンの狙いだろう。

 ウクライナの政治的統治は、ウクライナからあらゆる武器を取り上げ、外交、軍事、警察はロシア が完全管理することさえできれば、あとはウクライナ人に自治を任せる。ただし、2度とNATOに近づかないようにするために外交、軍事はロシアのみが掌握する。ウクライナに与えられる自治は教育、医療、社会福祉という面に限られることになる。

 国際社会から孤立してロシア経済が破綻し、プーチンは失脚するという読みをメディアは伝えているが、それも間違いである。
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『核武装する勇気』(扶桑社)

戦前の日本との違い

 戦前の日本を見てみれば、それが間違いであることは明らかである。

 戦前の日本は今のロシアと同じで中国に進攻し、満洲国を建設したことで国際社会から完全に孤立し経済封鎖され石油も絶たれ、国際連盟から脱退した。では、それによって経済が破綻し、帝国陸軍を中心とする軍国日本が潰れたかというと逆である。パールハーバー(真珠湾)まで生き残り、その後、ミッドウェイ海戦までは互角に戦えたのである。

 ましてプーチンは石油/天然ガスを豊富に所有し、習近平中国という大国の盟友が隣国にいるので、当時の日本と比べれて、孤立によるダメージは低い。SWIFT からはじき出されても中国の金融機関がロシアに密かに協力すれば、実質的には手間がかかるだけで何の問題もない。当時の日本は石油もなく食糧もなく、ナチス・ドイツという盟友がいたが、遠い欧州という存在であった。
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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