ウクライナ人の国防意識
ウクライナの18歳~55歳の男女を対象にしたアンケートが、ノルウェーのオスロ国際平和研究所とウクライナの世論調査会社インフォサピエンスの協力のもと、ロシアによる侵略が開始された後の3月9日~12日にかけて調査された。
このアンケートは、以下の4つの質問事項に分かれていた。
①ロシア軍および親ロシア派との戦闘に野戦部隊として戦争に参加するか
②ウクライナ軍の要塞化された防衛基地内で戦争に参加するか
③ウクライナ軍への非軍事的支援(食料および弾薬補給や情報収集)などで戦争に参加するか
④ウクライナの負傷した市民や将兵などの医療や看護に関わる形で戦争に参加するか
このアンケートは実際に戦地に赴いた本人、または家族や親しい知人がロシア軍の攻撃で死傷した人々を過半数以上含む対象者から採られ、かつ男女の比率を集計した。それによると、戦場で移動しながら戦闘に参加すると答えたウクライナ人は男性のうち72%であり、女性のうち28%であった。また、防衛基地内での戦闘に参加すると答えたウクライナ人も男性のうち69%、女性のうち27%であった。
実際の国家存立危機事態であっても、銃を手に取って戦うと答えた女性は3割未満であった。しかし、戦闘参加ではなく、補給や医療など非戦闘任務に参加して戦争を支援すると答えたウクライナ人男性は81%であり、女性は78%の割合を示し、性別による差が縮小している。これは何を意味しているのだろうか。
現在、ウクライナでふるさとを守るために戦う多くの兵士たちの様子がニュースやSNSを通じて全世界に拡散され、その中でも女性兵士の姿が目立った。今こそまさに、「女性の戦争参加」について考えるべき好機であろう。
このアンケートは、以下の4つの質問事項に分かれていた。
①ロシア軍および親ロシア派との戦闘に野戦部隊として戦争に参加するか
②ウクライナ軍の要塞化された防衛基地内で戦争に参加するか
③ウクライナ軍への非軍事的支援(食料および弾薬補給や情報収集)などで戦争に参加するか
④ウクライナの負傷した市民や将兵などの医療や看護に関わる形で戦争に参加するか
このアンケートは実際に戦地に赴いた本人、または家族や親しい知人がロシア軍の攻撃で死傷した人々を過半数以上含む対象者から採られ、かつ男女の比率を集計した。それによると、戦場で移動しながら戦闘に参加すると答えたウクライナ人は男性のうち72%であり、女性のうち28%であった。また、防衛基地内での戦闘に参加すると答えたウクライナ人も男性のうち69%、女性のうち27%であった。
実際の国家存立危機事態であっても、銃を手に取って戦うと答えた女性は3割未満であった。しかし、戦闘参加ではなく、補給や医療など非戦闘任務に参加して戦争を支援すると答えたウクライナ人男性は81%であり、女性は78%の割合を示し、性別による差が縮小している。これは何を意味しているのだろうか。
現在、ウクライナでふるさとを守るために戦う多くの兵士たちの様子がニュースやSNSを通じて全世界に拡散され、その中でも女性兵士の姿が目立った。今こそまさに、「女性の戦争参加」について考えるべき好機であろう。
女性の戦争参加――三つの目的
まず、女性の戦争参加は、大別して次の3つの目的に分類できる。
第1に、自らが一般女性とは異なる「特別な女性」であることを証明するため
第2に、男女平等の理念を実現する政治的イデオロギーのため
第3に、共同体存立危機に対処するには男性だけでは足りないため
第1の「女性」は、ベルギー王国のエリザベート・ド・ベルジック王女が18歳になり成人すると、王立士官学校に入学してアサルトライフルの射撃訓練を受けるなどした様子が指摘できる。欧州にある11王家はいずれも戦争指揮と王権の確立が歴史的に密接しているため、王族は軍事訓練を受ける伝統がある。そこで、平民女性と王族女性はその義務が異なる事実を示す目的で、「儀式」として戦争参加意思を内外に示す必要がある。ほか、多数の女性とは異なり、軍隊に自ら志願した少数の女性にも「特別な存在である理由」があるといえるだろう。
第2はジェンダー平等の実現を意識した女性徴兵だ。ノルウェーが2015年に、スウェーデンが2018年に女性の徴兵義務を法制化したのは、男女の生物学的性差を度外視したとしても、ジェンダー平等の政治的理念を社会で実現するためには、女性も男性と同様に銃を手に取る必要があるという結論にたどり着いたためである(性差は考慮されないため、兵役中は「男女同室」で寝泊まりすることが行われ、数々の性犯罪の温床となった)。
第3は、国家の存立危機事態が現に生じており、これに男性だけでは対応する人員を確保できない事情がある場合である。周辺を宗教の異なる国々に囲まれ、戦争が日常となったイスラエルなどがこれに当てはまる。それでも、男性の兵役は3年であるのに対して、女性の兵役は2年である「性差」は守られている。
歴史的には、第3の理由で女性が戦争に参加しているケースが多い。たとえば、ソ連軍では独ソ戦開始初期にスターリンの粛清とドイツ軍の活躍によって、多くの将兵が失われた。このため、女性兵士の登用が促進され、女性戦闘機パイロットから女性戦車長がT34戦車を操縦した事実が記録されている。また、イギリス空軍でも女性情報官が登用され、ドイツ軍の空襲情報の伝達係(電話交換手など含む)として軍に登用されている。
第1に、自らが一般女性とは異なる「特別な女性」であることを証明するため
第2に、男女平等の理念を実現する政治的イデオロギーのため
第3に、共同体存立危機に対処するには男性だけでは足りないため
第1の「女性」は、ベルギー王国のエリザベート・ド・ベルジック王女が18歳になり成人すると、王立士官学校に入学してアサルトライフルの射撃訓練を受けるなどした様子が指摘できる。欧州にある11王家はいずれも戦争指揮と王権の確立が歴史的に密接しているため、王族は軍事訓練を受ける伝統がある。そこで、平民女性と王族女性はその義務が異なる事実を示す目的で、「儀式」として戦争参加意思を内外に示す必要がある。ほか、多数の女性とは異なり、軍隊に自ら志願した少数の女性にも「特別な存在である理由」があるといえるだろう。
第2はジェンダー平等の実現を意識した女性徴兵だ。ノルウェーが2015年に、スウェーデンが2018年に女性の徴兵義務を法制化したのは、男女の生物学的性差を度外視したとしても、ジェンダー平等の政治的理念を社会で実現するためには、女性も男性と同様に銃を手に取る必要があるという結論にたどり着いたためである(性差は考慮されないため、兵役中は「男女同室」で寝泊まりすることが行われ、数々の性犯罪の温床となった)。
第3は、国家の存立危機事態が現に生じており、これに男性だけでは対応する人員を確保できない事情がある場合である。周辺を宗教の異なる国々に囲まれ、戦争が日常となったイスラエルなどがこれに当てはまる。それでも、男性の兵役は3年であるのに対して、女性の兵役は2年である「性差」は守られている。
歴史的には、第3の理由で女性が戦争に参加しているケースが多い。たとえば、ソ連軍では独ソ戦開始初期にスターリンの粛清とドイツ軍の活躍によって、多くの将兵が失われた。このため、女性兵士の登用が促進され、女性戦闘機パイロットから女性戦車長がT34戦車を操縦した事実が記録されている。また、イギリス空軍でも女性情報官が登用され、ドイツ軍の空襲情報の伝達係(電話交換手など含む)として軍に登用されている。
女性全体が国防に関わるべし
わが国では、大東亜戦争の末期であっても大陸と南方に数百万の正規軍が無傷で残された状態での降伏であるため、あえて女性を軍隊に登用する必要性がなかったものの、1945年6月には義勇兵役法(昭和20年法律第39号)が施行され、17歳以上45歳未満の妊婦を除く女性の国防義務が法定された。ただし、女性の実戦投入の計画はなかった(よく女性が竹やりで訓練をしている様子が写真撮影されているため、実際に竹やりでアメリカ軍との戦闘に参加するつもりだったという誤解が広まっているが、これは士気高揚のためのスポーツであったことが、女子は訓練科目を薙刀(なぎなた)と竹槍〈銃剣道〉で選択できたことからもいえる)。
ここから、今後のわが国の「国防における男女共同参画」についていえることがある。それは、国家存立危機事態であっても野戦に参加すると答えた女性は3割未満であったが、後方支援に参加すると答えた女性は約8割であるというウクライナの実情をわが国にも生かせないかということだ。
実際に、ジェンダーフリーという政治的イデオロギーのため自動小銃を手に取ることを女性に強要したならば、強い反発が起きるだろう。しかし、国家の存立が脅かされ基本的人権の保障が終了しかねない事態に限り、女性は約8割が後方支援に志願できるのである。つまり、女性は「儀式・アイデンティティー」や「政治的イデオロギー」のために戦争に参加することは少数であっても、実際の危機に対しては戦争参加を厭(いと)わないのである。
ウクライナがロシアの軍事力によく対抗しているのは英米の傭兵や活躍や軍事支援だけではなく、国民がよく訓練されているという事情を無視することはできない。
現在のわが国の「女性の国防」は、少数の女性だけが国防に参加する形式を採用しているが、これからは女性全体が国防にかかわるようにしていくべきではないだろうか。
わが国では、2021年3月末の時点で女性自衛官は、約1.8万人(全自衛官の約7.9%)が任官しており、これは過去に比べて最も多い割合となっている。しかし、これはあくまで「志願」を前提している数値である。つまり、個々の女性の特別に強い愛国心に立脚したものである。国を守るという根源的な目的を実現するために、政府はあくまで「個別的な愛国心」に依存している。果たしてこのままで良いのだろうか。
現在の日本を取り巻く情況を俯瞰(ふかん)すると、中国軍の圧倒的軍事力に日本の国防は脅(おびや)かされている現実を見ることができる。しかも、中国は「国防動員法」という法律をすでに施行し、健康な中国籍の成人男女に対して戦時における「国防任務」を義務付けている。在日中国人でこの「国防任務」を法律上の義務とする人数はすでに100万人近くに迫り、これはわが国の自衛官と警察官を足した総数よりも多い。このことからも、戦時においてわが国の防衛は非常に不安定である。
ここから、今後のわが国の「国防における男女共同参画」についていえることがある。それは、国家存立危機事態であっても野戦に参加すると答えた女性は3割未満であったが、後方支援に参加すると答えた女性は約8割であるというウクライナの実情をわが国にも生かせないかということだ。
実際に、ジェンダーフリーという政治的イデオロギーのため自動小銃を手に取ることを女性に強要したならば、強い反発が起きるだろう。しかし、国家の存立が脅かされ基本的人権の保障が終了しかねない事態に限り、女性は約8割が後方支援に志願できるのである。つまり、女性は「儀式・アイデンティティー」や「政治的イデオロギー」のために戦争に参加することは少数であっても、実際の危機に対しては戦争参加を厭(いと)わないのである。
ウクライナがロシアの軍事力によく対抗しているのは英米の傭兵や活躍や軍事支援だけではなく、国民がよく訓練されているという事情を無視することはできない。
現在のわが国の「女性の国防」は、少数の女性だけが国防に参加する形式を採用しているが、これからは女性全体が国防にかかわるようにしていくべきではないだろうか。
わが国では、2021年3月末の時点で女性自衛官は、約1.8万人(全自衛官の約7.9%)が任官しており、これは過去に比べて最も多い割合となっている。しかし、これはあくまで「志願」を前提している数値である。つまり、個々の女性の特別に強い愛国心に立脚したものである。国を守るという根源的な目的を実現するために、政府はあくまで「個別的な愛国心」に依存している。果たしてこのままで良いのだろうか。
現在の日本を取り巻く情況を俯瞰(ふかん)すると、中国軍の圧倒的軍事力に日本の国防は脅(おびや)かされている現実を見ることができる。しかも、中国は「国防動員法」という法律をすでに施行し、健康な中国籍の成人男女に対して戦時における「国防任務」を義務付けている。在日中国人でこの「国防任務」を法律上の義務とする人数はすでに100万人近くに迫り、これはわが国の自衛官と警察官を足した総数よりも多い。このことからも、戦時においてわが国の防衛は非常に不安定である。
国防のために国民ができること
では、どうすれば良いのだろうか。2つの提案がある。
まず、大学教育に予備役将校訓練課程(Reserve Officers' Training Corps 通称ROTC)を導入することである。これは、アメリカの大学では一般的な制度であり、カリキュラムの一つとして軍事訓練を受けることが出来る。そして、一定の単位を履修すると予備役将校訓練課程研修士官(Simultaneous Membership Program)として「士官実習」に参加することが出来る。つまり、教職課程のように単位履修をすると実際の「現場」に出て、教職資格を得るように指揮官である「将校資格」を取得できる制度だ。
アメリカでは、単に将校資格を取得できるのみならず、奨学金獲得の理由にもなる。日本でも戦前は似たような制度があったが、あくまで「基礎訓練」のみであり、指揮官としての技能を育成するカリキュラムではなかった。このため、大東亜戦争においては日米で顕著な差が出たのである。つまり、アメリカの大学生は軍事訓練を受けている者が多かったため、政府から言われるまでもなく愛国心によって軍隊に志願して戦場に赴いたが、日本の大学にそのような制度はなかったため、あくまで政府に強制される1943年まで大学生が戦場に出てくることはなかったのである。このため、若く体力があり、一定の知的能力を有する20代の現場指揮官の数が日米では圧倒的に異なっていた。
2001年から陸上自衛隊に限り「予備自衛官制度」が導入され、戦闘能力のみならず法務や医療など幅広い分野の人材を防衛に役立てることが可能となっているが、あくまでこれは既存の社会で育成した技能を役立てるというものであり、新たに指揮官の数を担保するものではない。
政府は予備役将校訓練課程の導入を急ぐべきである。平成30年の時点で女子の大学等進学率は57.7%を超えているため、女性の半数が将校になる道を選択できる社会はわが国の独立を守る意義において重要である。
第2の提言は、18歳以上の健康な男女に対する「実習」の導入だ。徴兵というのは実際の国防任務を担わせるものであるが、国防とは銃を手に取るだけが全てではない。補給や医療など幅広い分野の仕事がある。いざ戦争になったとき、目の前に医薬品やトラックが余っているのに扱える者が誰もいないという事態は、亡国の直接的原因になる。
大学生がよく普通運転免許取得のため、自動車学校に泊まり込みを楽しくしている様子があるが、あのような様子をそのまま防衛技能の取得に役立てるべきである。
ウクライナの国家存立危機事態を真の当たりにして、「今までと同じで良い」と考えるのではなく、小さな変化であっても受け入れて前に進むことが大切だ。それが、危機を憂う1人ひとりの気持ちが国を守るのである。そして、「銃を撃つだけが防衛ではない」という意識の改革が今後必要である。
女性の8割は「後方支援」ならば、有事の際の戦争参加意思を有しているのである。
まず、大学教育に予備役将校訓練課程(Reserve Officers' Training Corps 通称ROTC)を導入することである。これは、アメリカの大学では一般的な制度であり、カリキュラムの一つとして軍事訓練を受けることが出来る。そして、一定の単位を履修すると予備役将校訓練課程研修士官(Simultaneous Membership Program)として「士官実習」に参加することが出来る。つまり、教職課程のように単位履修をすると実際の「現場」に出て、教職資格を得るように指揮官である「将校資格」を取得できる制度だ。
アメリカでは、単に将校資格を取得できるのみならず、奨学金獲得の理由にもなる。日本でも戦前は似たような制度があったが、あくまで「基礎訓練」のみであり、指揮官としての技能を育成するカリキュラムではなかった。このため、大東亜戦争においては日米で顕著な差が出たのである。つまり、アメリカの大学生は軍事訓練を受けている者が多かったため、政府から言われるまでもなく愛国心によって軍隊に志願して戦場に赴いたが、日本の大学にそのような制度はなかったため、あくまで政府に強制される1943年まで大学生が戦場に出てくることはなかったのである。このため、若く体力があり、一定の知的能力を有する20代の現場指揮官の数が日米では圧倒的に異なっていた。
2001年から陸上自衛隊に限り「予備自衛官制度」が導入され、戦闘能力のみならず法務や医療など幅広い分野の人材を防衛に役立てることが可能となっているが、あくまでこれは既存の社会で育成した技能を役立てるというものであり、新たに指揮官の数を担保するものではない。
政府は予備役将校訓練課程の導入を急ぐべきである。平成30年の時点で女子の大学等進学率は57.7%を超えているため、女性の半数が将校になる道を選択できる社会はわが国の独立を守る意義において重要である。
第2の提言は、18歳以上の健康な男女に対する「実習」の導入だ。徴兵というのは実際の国防任務を担わせるものであるが、国防とは銃を手に取るだけが全てではない。補給や医療など幅広い分野の仕事がある。いざ戦争になったとき、目の前に医薬品やトラックが余っているのに扱える者が誰もいないという事態は、亡国の直接的原因になる。
大学生がよく普通運転免許取得のため、自動車学校に泊まり込みを楽しくしている様子があるが、あのような様子をそのまま防衛技能の取得に役立てるべきである。
ウクライナの国家存立危機事態を真の当たりにして、「今までと同じで良い」と考えるのではなく、小さな変化であっても受け入れて前に進むことが大切だ。それが、危機を憂う1人ひとりの気持ちが国を守るのである。そして、「銃を撃つだけが防衛ではない」という意識の改革が今後必要である。
女性の8割は「後方支援」ならば、有事の際の戦争参加意思を有しているのである。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。