"極右"ゼムールの躍進
フランスでは、来年4月に大統領選挙がおこなわれる。事前の予想では、現職のマクロン大統領と、「極右」のマリーヌ・ルペン氏の一騎打ちになるだろうと予想されていたのだが、ここに来て異変が起きている。
10月22日のフランス紙『ルモンド』が報じた来年の大統領選挙に関する世論調査結果によると、まだ出馬宣言していない政治コメンテーターのエリック・ゼムール氏(63)が16%の支持率を獲得して、現職のマクロン大統領(24%)に次ぐ2位につけたのである。
前回、マクロン氏と決選投票のすえ敗れた極右政党「国民連合」党首のマリーヌ・ルペン氏の支持率は15%で、ゼムール氏は同じ「極右」にカテゴライズされながらルペン氏を抜いてしまったのである。
フランスの大統領選挙では初回に過半数を獲得した候補者がいない場合に、上位2人による決選投票がおこなわれる。もしゼムール氏がルペン氏を上回れば、マクロン氏とゼムール氏の一騎打ちになる可能性が出てきたことにある。
マクロン大統領が所属する共和党はフランスでは「中道右派」に位置する。国際主義をとり環境問題に率先して取り組んでいるマクロン政権は、私には「リベラル左派」に見えるのだが、社会主義が抵抗なく取り入れられているフランスでは、そのマクロン大統領ですら「右寄り」になる。
共和党の候補は12月4日の党大会で選出され、マクロン大統領の出馬でほぼ決まりだろうが、その共和党内でも、極右のゼムールを台頭させたのはマクロン大統領の責任を取り沙汰されるほどゼムール人気は不安を持ってとらえられているのだ。
10月22日のフランス紙『ルモンド』が報じた来年の大統領選挙に関する世論調査結果によると、まだ出馬宣言していない政治コメンテーターのエリック・ゼムール氏(63)が16%の支持率を獲得して、現職のマクロン大統領(24%)に次ぐ2位につけたのである。
前回、マクロン氏と決選投票のすえ敗れた極右政党「国民連合」党首のマリーヌ・ルペン氏の支持率は15%で、ゼムール氏は同じ「極右」にカテゴライズされながらルペン氏を抜いてしまったのである。
フランスの大統領選挙では初回に過半数を獲得した候補者がいない場合に、上位2人による決選投票がおこなわれる。もしゼムール氏がルペン氏を上回れば、マクロン氏とゼムール氏の一騎打ちになる可能性が出てきたことにある。
マクロン大統領が所属する共和党はフランスでは「中道右派」に位置する。国際主義をとり環境問題に率先して取り組んでいるマクロン政権は、私には「リベラル左派」に見えるのだが、社会主義が抵抗なく取り入れられているフランスでは、そのマクロン大統領ですら「右寄り」になる。
共和党の候補は12月4日の党大会で選出され、マクロン大統領の出馬でほぼ決まりだろうが、その共和党内でも、極右のゼムールを台頭させたのはマクロン大統領の責任を取り沙汰されるほどゼムール人気は不安を持ってとらえられているのだ。
「エリック・ゼムール」とは何者か?
日本でもゼムール氏の躍進は伝えられるようになったが、まだ知名度は高くない。
ゼムール氏はパリ郊外のモントルイユ出身で、アルジェリア系ユダヤ人の両親をもつ移民出身の家庭であるのが特徴的だ。フィガロなどの政治記者として活躍したのち、テレビコメンテーターとして人気を博している。
2011年には黒人とアラブ人に対する人種差別的発言で有罪判決を受けており、フランスにおいてはまごうことなき「極右」だ。
日本では2008年に『女になりたがる男たち』(新潮新書)という本が出版されている。男性が中性化に向かう世相を嫌い、「男はより男らしく」を説くあたり、日本で言えば父性の復権を唱える文芸評論家の小川榮太郞氏に似たところがあるかもしれない。
ゼムール氏の政治スタンスは、「ド・ゴール主義者(ゴーリスト)」を自称することからも明らかだろう。ド・ゴール主義の根幹は、米英などの外国の影響力から脱し、フランスの独自性を追求して「フランスらしさ」を極めようとすることにある。そのためは政府が経済などに積極的に介入することもいとわない官僚主導の「国家資本主義」を希求する。
EUとユーロの創設に尽力して国際主義を目指したミッテラン大統領とは相反する立場にあると言っていいだろう。
フランスにおける現在の対立は、親ミッテランのマクロン大統領と、反ミッテランのゼムール氏にあると見ていいだろう。つまり、EUを軸に国際主義をとるか、自国ファーストに切り替えるかということにある。
ゼムール氏はパリ郊外のモントルイユ出身で、アルジェリア系ユダヤ人の両親をもつ移民出身の家庭であるのが特徴的だ。フィガロなどの政治記者として活躍したのち、テレビコメンテーターとして人気を博している。
2011年には黒人とアラブ人に対する人種差別的発言で有罪判決を受けており、フランスにおいてはまごうことなき「極右」だ。
日本では2008年に『女になりたがる男たち』(新潮新書)という本が出版されている。男性が中性化に向かう世相を嫌い、「男はより男らしく」を説くあたり、日本で言えば父性の復権を唱える文芸評論家の小川榮太郞氏に似たところがあるかもしれない。
ゼムール氏の政治スタンスは、「ド・ゴール主義者(ゴーリスト)」を自称することからも明らかだろう。ド・ゴール主義の根幹は、米英などの外国の影響力から脱し、フランスの独自性を追求して「フランスらしさ」を極めようとすることにある。そのためは政府が経済などに積極的に介入することもいとわない官僚主導の「国家資本主義」を希求する。
EUとユーロの創設に尽力して国際主義を目指したミッテラン大統領とは相反する立場にあると言っていいだろう。
フランスにおける現在の対立は、親ミッテランのマクロン大統領と、反ミッテランのゼムール氏にあると見ていいだろう。つまり、EUを軸に国際主義をとるか、自国ファーストに切り替えるかということにある。
マリーヌ・ルペンとの違い
いわずもがなだが、マスコミは国際主義をとることが多く、自国ファーストは「極右」と呼ばれるが、これは著しくバランスを欠いた呼び方である。
ゼムール氏が躍進してきた背景には、ルペン氏が元欧州議会議員であり、同性愛や妊娠中絶に肯定的なリベラル派の土台があるからではないだろうか。
ルペン氏は現在、反ムスリム移民に舵を切っているものの、それはイスラム教が同性愛を認めていないことから発している。一方、国民戦線創始者で、初代党首である父親(ジャン=マリー・ル・ペン氏)を、反ユダヤ主義的発言を理由に、激しい権力闘争ののちに除名している。
マクロン政権の法人税減税・燃料税増税の国際主義的政策に反発している地方のフランス人は、エリート政治家でありリベラルな土台のあるルペン氏よりも、テレビでわかりやすい右寄りのコメントを出し続けているゼムール氏を支持し始めていると言うことだろう。
日本から見ればリベラル政策をとり続けるマクロン大統領が「右寄り」とされるフランスでは、ルペン氏とゼムール氏はともに「極右」にカテゴライズされて、両者の政治スタンスの違いが見えにくいが、両者はフランスの足場をEUにとるか、自国にとるかどうかで明らかに異なっていると考えるべきだろう。
ゼムール氏が躍進してきた背景には、ルペン氏が元欧州議会議員であり、同性愛や妊娠中絶に肯定的なリベラル派の土台があるからではないだろうか。
ルペン氏は現在、反ムスリム移民に舵を切っているものの、それはイスラム教が同性愛を認めていないことから発している。一方、国民戦線創始者で、初代党首である父親(ジャン=マリー・ル・ペン氏)を、反ユダヤ主義的発言を理由に、激しい権力闘争ののちに除名している。
マクロン政権の法人税減税・燃料税増税の国際主義的政策に反発している地方のフランス人は、エリート政治家でありリベラルな土台のあるルペン氏よりも、テレビでわかりやすい右寄りのコメントを出し続けているゼムール氏を支持し始めていると言うことだろう。
日本から見ればリベラル政策をとり続けるマクロン大統領が「右寄り」とされるフランスでは、ルペン氏とゼムール氏はともに「極右」にカテゴライズされて、両者の政治スタンスの違いが見えにくいが、両者はフランスの足場をEUにとるか、自国にとるかどうかで明らかに異なっていると考えるべきだろう。
トランプ現象との類似性
いったいゼムール氏がどんな主張をしているのか。これまでの報道をまとめると、次のようにまとめられる。
(1)国民第一主義。不法移民よりもフランス国民へのケアを優先すべきである
(2)寛容な受け入れ政策に反対。不法移民や難民の人権を重んじる人権派のスタンスには反対。
(3)フランスに同化しない移民を受け入れるべきではない。
(4)フランスに来た移民の子供には、フランス人の名前を付けるべきである。
(5)生活保護などはフランス国籍者に限定すべきである。
(6)40年間移民を拒否してきた日本を見習うべきだ。
「日本を見習うべきだ」とするあたりからも、日本の保守派に近い立場であり、読者の中には親近感をもつ人も多いだろう。
ゼムール氏人気は、アメリカで起きたトランプ現象に似たところがある。それはどちらも「テレビスター」として人気を博し、官僚が支配する政治に嫌気が差した人たちが、政治の「アウトサイダー」であるテレビスターに期待を込めた点にある。
また、ゼムール氏の支持層は、2018年から断続的に起こっているいわゆる「黄色いベスト運動」を主導した地方の中間層を中心にしていると考えられる。地方にいて燃料税増税やディーゼル車の廃止の影響をもろに受ける層だ。その点で、「ラストベルト」と呼ばれるかつての工場地帯の熱狂的な支持を集めたトランプ氏に似たところがある。
ともに「没落した中間層」の回復運動なのである。
ゼムール人気は、アメリカで起きたトランプ現象の「フランス版」と言ってもよく、ゼムール氏への支持がさらに拡がれば、フランスにも大きな変化が起き、それがEUに大きなインパクを与える可能性もある。
(1)国民第一主義。不法移民よりもフランス国民へのケアを優先すべきである
(2)寛容な受け入れ政策に反対。不法移民や難民の人権を重んじる人権派のスタンスには反対。
(3)フランスに同化しない移民を受け入れるべきではない。
(4)フランスに来た移民の子供には、フランス人の名前を付けるべきである。
(5)生活保護などはフランス国籍者に限定すべきである。
(6)40年間移民を拒否してきた日本を見習うべきだ。
「日本を見習うべきだ」とするあたりからも、日本の保守派に近い立場であり、読者の中には親近感をもつ人も多いだろう。
ゼムール氏人気は、アメリカで起きたトランプ現象に似たところがある。それはどちらも「テレビスター」として人気を博し、官僚が支配する政治に嫌気が差した人たちが、政治の「アウトサイダー」であるテレビスターに期待を込めた点にある。
また、ゼムール氏の支持層は、2018年から断続的に起こっているいわゆる「黄色いベスト運動」を主導した地方の中間層を中心にしていると考えられる。地方にいて燃料税増税やディーゼル車の廃止の影響をもろに受ける層だ。その点で、「ラストベルト」と呼ばれるかつての工場地帯の熱狂的な支持を集めたトランプ氏に似たところがある。
ともに「没落した中間層」の回復運動なのである。
ゼムール人気は、アメリカで起きたトランプ現象の「フランス版」と言ってもよく、ゼムール氏への支持がさらに拡がれば、フランスにも大きな変化が起き、それがEUに大きなインパクを与える可能性もある。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。