【濱田浩一郎】

【濱田浩一郎】

米国・ホワイトハウス前で米中貿易協定に抗議の声を上げる人々

勇気ある告発と報道

 漫画家の清水ともみ氏が、中国共産党によるウイグル弾圧を漫画で告発した『命がけの証言』(ワック刊)が話題を集め、版を重ねている。清水氏は、これまでにも、ウイグル弾圧の実態を描いた『その國の名を誰も言わない』『私の身に起きたこと~とあるウイグル人女性の証言~』を描き、大きな反響を得ている。命がけの証言をしたウイグルの人々はもちろんだが、清水氏の勇気と努力にも敬意を表したい。

 さて、中国が新疆ウイグル自治区の人々に一体、何をしてきたのか。その実態が、海外の報道番組によっても、徐々に明らかとなってきている。特に、イギリスBBCは、この問題に対して、貴重な報道をしている。最近(2021年2月6日)では、新疆ウイグル自治区の少数民族・ウイグル族らの監視・統制を目的とした「再教育」施設で、収容中の女性らに対し性的暴行や虐待、拷問が組織的に行われていたと報じた。

 昨年(2020年7月)には、イギリスのドミニク・ラーブ外相がBBCの番組に出演し「おぞましく、甚だしい人権侵害が起きていることは明らかだ」と述べ、中国共産党のウイグル人弾圧を非難した。また同外相は「事態を非常に深く憂慮しており、強制不妊手術や教育収容所など人的な側面への影響に関する報告は、私たちの目に長年みられなかったことを思い起こさせる」とも発言している。

 「長年みられなかったこと」――この言葉を聞いて、読者は何を思い浮かべるだろうか。私は、中国の行為は、「民族浄化」に等しいものだと思う。このような行為は、90年代に入ってからも、例えば、ユーゴスラビア内戦、アフリカのルワンダでのフツ族とツチ族間で見られた。しかし、その最大なものは、ナチス・ドイツによって行われたユダヤ人の大量虐殺であろう。虐殺の犠牲となった人々の数は、一説には約600万人にのぼると言われている。

 ナチス・ドイツは、ポーランド等に作られた絶滅収容所のガス室において、ユダヤ人などを殺害した。中国共産党政権も、ウイグル自治区において「再教育」施設という名の強制収容所において、ウイグルの人々を殺し、拷問し、苦しめているのだ。そのことは、清水氏の漫画、ウイグルの人々の証言、国内外の報道、そしてジャーナリスト・福島香織氏の著書『ウイグル人に何が起きているのか』(PHP新書、2019)などによって、明らかである。

中国共産党のウイグル人“絶滅”計画【WiLL増刊号#431​】

在日ウイグル人による「命がけの証言」動画はコチラ

ホロコーストを想起させる「民族浄化」

 中国共産党は、ナチス・ドイツのようにガス室はつくっていない。しかし、ウイグルの町自体が既にインターネット監視網によって強固で巨大な「監獄」となっており、そのなかで、人々の殺害・拷問や民族の歴史・文化の抹殺が行われているのである。ウイグル語教科書を編集し、使用した者が「重大な規律違反」に問われ、死刑(執行猶予付き)判決を受けたとの事実があるが、これなどは、中国共産党がウイグルの言葉を潰しにかかっていることを示す顕著な例だろう。

 ルーマニアの思想家・エミール・シオラン(1911~1995)に「祖国とは国語」という名言があるが「国語」を失うということは、祖国が亡びるということと同義でもあるのだ。民族の歴史や伝統を消し去ることは、静かなるジェノサイド(国家あるいは民族・人種集団を計画的に破壊すること)といって良いであろう。ウイグルの慈善家・経営者も「過激化の兆候あり」として逮捕されており、これは資産の没収が狙いだとも言われている。ナチス・ドイツも、ユダヤ人の資産を没収したが、中国共産党の行為もそれを想起させる。「再教育」施設に入ったまま戻ってこなかった人が多数いることは、ウイグル人の証言から分かるが、これもしっかりと調査すれば、相当な数の人々が殺害・虐殺されている可能性が高い。

 しかし、駐英中国大使は、ウイグル人の強制移送や収容を否定している。列車による、目隠しされたウイグルの人々の移送を「時には移送することもある。受刑者を刑務所から、これはどんな国でもあることです」などとBBCの番組に出演し、言い張っているのだ。西側の情報機関が、デマ情報をでっち上げ、中国を攻撃しているとも語っていた。ウイグル人女性の強制不妊手術の件も「政府の方針ではない」としつつも「単発の事例の可能性を除外できない」などと苦しい「言い訳」をしている。

 列車による強制移送、強制収容所、拷問・殺害…これらの単語によって想起されるものは、ナチス・ドイツによるホロコーストである。私は、拙著『小説アドルフ・ヒトラー』(全3巻)を書くために、ホロコーストの歴史を調べたし、ポーランドにあるアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所も訪問した。だからこそ余計に、ナチス・ドイツと中国共産党による民族浄化が重なって見えるのかもしれない。

 ナチス・ドイツがユダヤ人大虐殺を公にしなかったように、中国もウイグル人の弾圧を「フェイク・ニュース」と言っている。しかし、この言葉を心ある者ならば、誰が信じるであろうか。中国共産党政権は、いざとなれば、自国民を弾圧し、殺害する軍事独裁政権だ。その事は、天安門虐殺事件や香港の民主活動家弾圧を見ても明らか。そのような強権的な独裁政権の主張を簡単に信じることなどできない。
youtube (4946)

「再教育」とは名ばかりの人権弾圧だ
via youtube

国際社会ができること・すべきこと

 中国に弾圧されるウイグルの人々をどのようにして、救い出すことができるのか。ナチス・ドイツの絶滅収容所は、戦争の結果、解放された。しかし、この問題に関して、戦争は現実的な問題解決ではないだろう。では、どうすれば良いか。日本人にできることは、日本ウイグル協会などと連携し、声を上げ続けること。その声を具体的な行為にしていくことだ。その1つが、北京五輪のボイコットでも良い。

 香港問題もそうだが、中国共産党独裁政権によるおぞましい人権侵害。このような問題を放置・無視して、ちょうど1年後に予定されている冬季北京五輪に日本は参加するのだろうか、いや、世界の国々は参加するのだろうか?私はそれはあり得ないと思う。  

 何度でも言うが、中国共産党の人権侵害は、ナチスによるユダヤ人の強制収容所送りにも等しい行為だ。

 森喜朗氏のいわゆる「女性蔑視発言」や一連の騒動は、世界にも注目・報道された。であるならば、森氏の発言の何億倍も憂慮すべき問題が中国で起きていることを世界の人々は認識し、行動に移すべきではないのか。私は、その第一歩が北京五輪のボイコットだと思うのである。習近平国家首席の国賓訪日の話が、いまだ生きているのか、死んでいるのか、よく分からないが、もし生きているなら、訪日を拒否することも、中国に抗議する手段の1つであろう(尖閣問題で、あれほど中国に舐められて、それでも国賓訪日を要請する日本政府の気が私にはしれないが…)。

 とにかく、日本は、欧米や東南アジアなど世界の国々と連携し、中国に対し「自国民、民族弾圧を継続するなら、北京五輪をボイコットする」動きを広めていくことだ。民族を弾圧して、得なことは1つもありませんよということを、具体的な行動でもって示していく事が重要であろう。英国のラーブ外相は英議会で、中国・新疆ウイグル自治区での人権侵害を理由に2022年の北京冬季五輪をボイコットする可能性を示唆したとされる。

 だが、今の日本の政治家や官僚にそうした骨のある行動ができる人が何人いるだろうか。

 米国務省が中国による新疆ウイグル自治区での行動を「ジェノサイド」と認定したことを巡り、外務省の担当者は1月26日の自民党外交部会で「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」との認識を示したことも、日本の官僚の無関心と気骨のなさを示すものではないか。

 北京五輪ボイコットの動きに対し、中国共産党系のメディア『環球時報』は「中国は経済大国であり政治的な影響力も拡大している」としたうえで、「どこかの国がボイコットするなら必ず猛烈に報復するだろう」と牽制した。中国メディアのこの態度を見て、(特に日本の選手の方々には申し訳ないが)私は余計に北京五輪をボイコットせよと主張したくなった。なんという上から目線、傲慢な態度であろうか。このようなことを言う国の五輪に参加したいだろうか?

 日本政府が「ウイグル問題」で動かないなら、我々、国民が団結して動き、声を上げていくしかない。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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