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ゼロコロナ対策にこだわる習近平の意図とは――

低成長に突入する中国経済

 中国の1~3月期における経済成長は4.8%という、まずまずの数字だった。たしかに中国政府は成長率目標5.5%という数字を掲げているが、中国最大の経済都市である上海や深せんのロックダウンが続いている中では、4.8%という数字は「予想以上の良さ」である。

 数多くの大型工場を抱える上海のロックダウンは世界経済に大きな影響を与えている。

 現在は、多くの製品で国際サプライチェーンが確立されており、その中心地はいまだに中国である。だから、上海がロックダウンしたことで、打撃を受けている企業はかなりの数にのぼると見られる。

 それにしても、各国が新型コロナウイルス対策を緩和している中で、中国のゼロコロナ政策は異様である。

 また、中国政府にとって経済成長目標の達成は最も重要なものだ。5.5%という数字は低成長の続く日本から見ると高いが、低所得にあえぐ人民が圧倒的に多い中国では、決して高いとは言えない。

 ただでさえ貧富の差が拡大し、人民の不満は鬱積(うっせき)している。それも経済成長で毎年生活が豊かになるのならいいが、低成長で明るい未来が見えなくなれば、どうなるかわからない。社会が不安定化する可能性は日々高まっていると見るべきだろう。

改革路線を捨てる習近平

 昨年、習近平指導部は、経済成長優先から庶民ための政策に大きく舵を切った。格差の根本原因となっている不動産にメスを入れ、不動産投機の動きを封じる策に出たのである。

 その結果、中国第2位の不動産ディベロッパーである恒大集団は経営危機に陥り、世界中に衝撃を与えた。恒大集団はいまだに営業を続けており、不動産不安は遠のいたかのように感じている人がいるかもしれないが、そうではない。実際は、中小の不動産会社の倒産が激増している。

 それでも「貧富の差の解消」という大目標に向かって、習近平指導部は大改革を断行しようとしたわけである。

 中国共産党支配する中国が不安定化するとすれば、社会格差がさらなる社会分断を生んで、人民が中国共産党打倒に動くときだろう。圧倒的な監視体制のもとで人民が中国共産党に反旗を翻すことは不可能に近いが、「数は力」であり、人民の多くが不満を持てば、社会動乱の引き金を引くことになる可能性は依然としてある。

 これは「日本にとって」ではなく、あくまで「今の中国の存続のため」にという観点からであるが、この改革路線を私はおおいに評価すべきだと考えている。少なくとも、「検討」ばかりして、一向に改革などやってこなかったどこかの国の政権より、よほどマシではないだだろうか。

 ところが、この改革の御旗は、オミクロン株の拡大と大都市の長期間のロックダウンであっさり下ろされてしまうのである。

 しかも、「脱中国」の動きが始まっている中でのロックダウンであるために、中国に工場を持つ多くの国で脱中国の動きが加速しつつある。

 さらに、経済成長を犠牲にしてのゼロコロナ政策でもある。このままゼロコロナ政策を続けて経済成長目標5.5%に達成するためには、またしてもインフラ投資に頼らざるを得なくなるだろう。

 そうなればまさに元の木阿弥で、本気に見えた改革路線を、習近平指導部はあっさりと投げ捨てることになる。

 誰がどう考えても、やめるべきは改革ではなく、ゼロコロナ政策のほうだろう。ゼロコロナをウイズコロナに代えるだけで、中国の改革路線は歩みを止める必要がなくなり、わざわざ国際サプライチェーンの「脱中国」を加速させることもない。
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ロックダウンされた上海は今

ゼロコロナ政策の理由

 では、なぜ習近平指導部はゼロコロナ政策を捨てられないのか。

 1つには、中国ワクチンでは集団免疫が獲得できなかったことだろう。つまり、ワクチンの質が英米製と比べると、かなり低かったことが挙げられる。

 もう1つは、医療体制が貧弱なため、患者が増えると医療機関があっという間にパンクしてしまうことが挙げられる。

 もしゼロコロナ政策をやめてコロナ患者が激増したら、容易に医療崩壊が起こり、人民の不満が爆発する可能性がある。それに比べて、中国お得意の「監視」によって人民の動きを封じたほうがましという判断になるわけである。

 また、現在の習近平氏には、対抗できるライバルがいない。最大のライバルになると見られていた人物は次々と潰されており、反対の声がほとんど上がることのないままに異例の3期目を確実にしている。

 習近平氏にすれば、いかに上海市民が苦しもうとも、不満を爆発させようとも、監視体制を強化し取り締まり続けて、このままゼロコロナ政策をやったほうが得策なのである。結局は、習近平氏の「改革」も「ゼロコロナ」も保身にすぎないと言っていいだろう。

 だが、ロックダウンには限界がある。他国を見るとオミクロンは従来型のオミクロン株1カ月、新型のオミクロン株1カ月の合計2カ月でピークアウトすることが前提になる。それ以上となれば、多くの市民の精神が持たない。

 もしロックダウンが予想をはるかに超えて長引いてしまうと、怒りが大爆発して社会動乱にならないとも限らない。中国監視体制からすればその可能性は決して高くないが、全くないとも言えないだろう。

 このように「すべてが監視頼み」というのが中国の実情なのである。そして、その根本にあるのはすべて習近平氏の「保身」である。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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