【朝香 豊】バイデン政権 対中強硬発言の真意(朝香豊の...

【朝香 豊】バイデン政権 対中強硬発言の真意(朝香豊の日本再興原論㊱)

対中強硬は口先だけか

 トランプ政権からバイデン政権へと、アメリカの政権が交代した。これによりアメリカの対中政策がどの程度変わるのかというところには、非常に強い注目がなされている。

 マスコミの論調としては、アメリカ一国で中国に戦いを挑んでいたトランプ政権の単純な対決政策よりも、同盟国との共同戦線を張ることで中国包囲網を目指すバイデン政権の方が、より効果的に中国に対峙できるとの見方が強い。バイデン政権は余計な波風を立てずに対決と協調をうまく使い分けて中国をよりうまく御していくというわけだ。

 バイデン政権で閣僚となった面々も、対中国では強気の発言が続いている。ブリンケン新国務長官は連邦議会の公聴会で「トランプ政権の中国への厳しいアプローチは正しかった」とし、トランプ政権が新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒少数民族の弾圧を「ジェノサイド」(民族大量虐殺)だと認定したことについても、その認識は変わらないと発言した。

 イエレン新財務長官も「不当廉売や貿易障壁、不平等な補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要など、中国の不公正な慣行は米企業の力をそいでいる」とした上で、「政権横断で、あらゆる手段を講じて対抗する」と述べた。こうした新閣僚たちから飛び出す対中強硬発言に期待を向ける向きも多い。

 だが本当にそうなのだろうか。アメリカ国民は香港でのあのひどい有様をずっと見てきた。今の段階で親中的な発言を行うことなど許されない。そうした国民の空気を読んだ上で、口先だけ強硬になっているという可能性を疑ってみるべきではないかと私は思う。
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バイデン政権で新財務長官となったイエレン氏

「戦略的忍耐」の継承

 事実、次期商務長官候補のジーナ・レモンド氏は「バックドアの影響から米国民と我が国のネットワークを守るため、私の裁量で強力な手段を最大限行使する」などとファーウェイの脅威に対して全力で立ち向かう姿勢を示しながらも、ファーウェイを取引禁止のエンティティリストに残すかどうかを尋ねられたら明言を避けた。バイデン政権はすでに発足2日目に国務省のページの「政治課題」の一覧から「中国の挑戦」「5Gセキュリティ」などを密かに削除していたことも明らかになった。

 その他にも、アジア系米国人への差別を生むという理由ながら、新型コロナウィルスを「中国ウィルス」「武漢ウィルス」と呼んではならないという大統領令をいち早く出しているところも気になるところだ。

 バイデン政権は二酸化炭素削減を求めるパリ協定に復帰する方針を打ち出し、これを通じて中国と対話の道を開く姿勢を示したが、これに対して中国外務省の趙立堅副報道局長は「中米の具体的な分野での協力は中米関係全体と密接な関係があり、米側が中米の重要な分野での協調と協力に有利な条件を作り出すことを希望する」と応じた。これは「環境問題でバイデン政権のポイントを稼げるような方針を打ち出すから、その他の分野で中国を利する見返りが欲しい」との意味合いではないのか。

 バイデン政権のサキ報道官は対中国政策で「戦略的忍耐」という言葉を早速使っている。「戦略的忍耐」というのは、中国が横暴なことをやってきても、少々のことでは波風を立てずに我慢し続けるということである。中国はこの言葉を自分たちに向けられたサインとして当然受け取っているだろう。

 オバマ政権期の話になるが、日本の領土である尖閣列島の上空に中国が防空識別圏を設定した際に、これに反対する共同声明を出してほしいとの安倍総理の要求を、当時副大統領だったバイデンが袖にしたのを忘れてはならない。バイデン政権が肝心なところで「戦略的忍耐」によって中国の行動を黙認する可能性は十分あるのだ。

政権幹部とバイデン家

 さて、ブリンケン国務長官の名前はハンター・バイデンの〝例のパソコン〟のメールの中にも数回登場し、ブリンケンがハンターのアドバイス役となっていたことは知っているだろうか。ブリンケンはバイデン一家と深いつながりを築いてきた人物である。

 ブリンケンとバイデンの関係で言えば、ペンシルバニア大学にあるバイデンの名前を冠にした「ペン・バイデンセンター」という外交問題を扱う研究所のことも覚えておきたい。ここには中国側からの匿名の献金が実に多く集まり、この怪しい献金状況は後に米国内では問題にされたのだが、同センターの運営責任者(Managing Director)となっていたのもブリンケンだった。このような不透明な中国資金との深い関わりを持つのがアメリカ外交に責任を持つ国務長官のブリンケンであることを忘れてはならない。

 バイデン政権の気候変動問題担当の大統領特使に選ばれたジョン・ケリーは、かつては民主党の大統領候補にもなった大物議員だ。バイデン新政権では国家安全保障会議(NSC)のメンバーにもなり、今後の外交・安全保障にも大きな影響力を持つのは確実である。この点でケリーの義理の息子のクリス・ハインツが、ジョー・バイデンの息子のハンター・バイデンのビジネスパートナーであることを見過ごすわけにはいかない。バイデン新大統領は中国の習近平総書記との間に深い個人的関係を築き、中国はハンターの「ビジネス」に大いに便宜を与えてきた。この関係の中に深く絡んできた人物がケリーなのだ。そしてブリンケンもその仲間なのである。

 また、国家安全保障のためにトランプ政権が課した中国向け輸出などの厳格な規制について、アメリカの産業界が緩めるように求める動きが活発化している。こうした財界の動きに応える動きをバイデン政権が見せる可能性は決して低くはないだろう。事実サキ報道官は「トランプ前政権の中国との通商取り決めのすべてを見直す」との発言も行っている。
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バイデン家と深いつながりのあるブリンケン新国務長官

シナリオは仕組まれている

 トランプ政権は政権離脱のギリギリまで激しい対中政策を打ち出し続けた。また、超党派の米議会の諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」が昨年12月に出している報告書も、また2021年度版の「国防権限法」も、非常に厳しい対中姿勢を打ち出している。だからバイデン政権が一気に親中に舵を切ることは難しいというのは事実だ。また中国が一見空気を読まない強気な態度でアメリカを威嚇しており、これに対する妥協的な態度はいくらバイデン政権でも極めて取りにくい。少なくとも口先では厳しい対中姿勢を崩すことはしないだろう。だが、我々が重視すべきなのは「言葉」ではなく「行動」だ。この肝心な行動を「戦略的忍耐」という言葉で早くも封印することを中国側に明かしたバイデン政権を、我々は信頼できるのか。

 さらに言えば、環境問題をめぐる対話を通じて、中国側が環境政策でバイデン側にリップサービスするだけでなく、「アメリカとの信頼関係が回復した」として、一気に軍事的緊張を緩めるような動きに出たとしよう。この時に世論はどう動くのだろうか。「単純な圧力路線だったトランプの政策はやはり間違っていた」、「圧力と対話をうまく使い分けるバイデン政権は素晴らしい」ということにならないだろうか。

 こうして中国との緊張緩和が実現できたことを理由として、対中制裁を緩める方向にシフトしていくというのは、私はかなり可能性の高いシナリオだと思っている。

 そしてこのシナリオは、中国国内でも「バイデン政権をグリップするには習近平が欠かせない」という話になり、習近平体制の固定にも役立つはずだ。そしてこの流れをアメリカの産業界も大歓迎する。バイデン推しを続けてきた主流派マスコミにも大いにメンツが立つ。バイデンと習近平と米財界とマスコミはWin-Win-Win-Winの関係になる。私はこんなシナリオが既に用意され、それに基づいて動いているような気がしてならない。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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