【濱田浩一郎】中国の「ウイグル弾圧否定」プロパガンダの...

【濱田浩一郎】中国の「ウイグル弾圧否定」プロパガンダのデタラメ

告発者を「うそつき」呼ばわり

 中国によるウイグル人ジェノサイドへの国際社会の反発が高まるなか、中国は、それに対し、反撃を仕掛けてきた。例えば、中国外務省の汪文斌副報道局長は2月23日の定例記者会見で、新疆ウイグル自治区の収容施設での性的暴行を証言した少数民族ウイグル族の女性の写真を手に「うそつき」「米国で(反中)勢力の訓練を受けた後に説明を変えた」「中国を中傷し攻撃するための役者にすぎない」と非難。女性の証言を報じた英BBC放送についても「多くのデマをまき散らしてきた」と批判したのである。

 だが、中国側の主張こそ、いかがわしいものと言わざるを得ない。汪報道局長はウイグル女性の証言を「米国で(反中)勢力の訓練を受けた後に説明を変えた」と述べるが、それも当たり前の話である。中国には、言論の自由がなく、共産党政府批判をしたら、本人ばかりか家族までもが、被害を被る可能性が高いからだ。逮捕・投獄、最悪の場合は、拷問死、あらゆることが頭をよぎり、本当のことは、とても言えないだろう。本当のことを話してほしいなら、中国共産党政府は、言論統制をやめるべきだ。香港の民主活動家への弾圧をやめるべきだし、天安門事件のことをネット規制することもやめるべきなのだ。

 汪報道局長は、1人のウイグル人女性の写真をかかげ「うそつき」と非難したが、暴行の実態を証言しているのは、彼女だけではない。複数の女性が証言しているのだ。これは、極めて信憑性が高いというべきだろう。「米国で(反中)勢力の訓練を受けた後に説明を変えた」と主張する汪報道局長。ならば、米国内の反中勢力とは如何なるもの(人・組織)で、いつ、どのような訓練を行ったか、詳しく説明してほしいものだ。そのくらいの詳細な主張をして初めて、まともな「反撃」ができるといえよう。
wikipedia (5405)

中国・汪文斌副報道局長
via wikipedia

「あいつも昔悪いことしてた」論の幼稚さ

 アメリカ・バイデン政権も、中国のウイグル問題に対して、制裁を発令するなど強い措置をとっているが、それに対抗するつもりなのだろう、中国外務省の報道局長である華春瑩は、ツイッターに20世紀初頭に撮影された米ミシシッピ州の綿花生産者の白黒写真を投稿。その隣に、新疆ウイグル自治区で綿花の収穫作業をするウイグル人とみられる労働者3人のカラー写真を並べ「1908年のミシシッピ vs. 2015年の新疆ウイグル自治区」というタイトルを添えた。さらに、白黒写真の中央付近に写っている白人が銃を持っていることに言及して、「ショットガンと数匹の猟犬vs. 笑顔と収穫。強制労働はどっち?」と書き足したのだ。

 この投稿の目的は、新疆ウイグル自治区には、強制労働などなく、人々は笑顔で生活を楽しんでいる、アメリカ南部で綿花の収穫をしていた約100年前の労働者よりもずっと良い暮らしをしていることをアピールしたかったのだろう。しかし、これも、中国共産党政府によるいかがわしい宣伝だと言わざるを得ない。ウイグル人が写っている写真は、いかにも宣伝写真のようで、ウイグルで生活するウイグル人の真の生活を映したものとは、とても思われないからだ。

 華報道局長は、アメリカにも過去から現在にかけて人権問題(黒人差別の問題等)があることを宣伝し「あなたの国の人権問題はどうなんですか?私たちばかりを非難するな」とでも言いたいのだろう。

 華報道長はこれまでにも「2世紀にわたるアメリカの歴史は、先住のインディアンの血と涙で汚されている。彼らのほうが先にこの大陸に住んでいたのに、19世紀以降アメリカは西漸運動を通じて、武力に物を言わせて先住のインディアンを排除し、虐殺して、広大な土地を占領し、膨大な自然資源を収奪してきた」「そればかりか、アメリカは先住民に同化政策を押し付け、彼らを殺し、排除し、追放して、市民権を認めなかった」などと歴史問題を持ち出して、アメリカを非難してきた(2020年12月4日)。

 確かにこれは、華報道官が言うように、アメリカの歴史の暗部であろう。コロンブスが到達後の100年間に、ヨーロッパ人の侵攻による感染症や戦争などで、南北米大陸では、約560万人の先住民が殺されたとの研究もある。これは、アメリカの「血塗られた歴史」であり、非難されても仕方がない。
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どの国の歴史の「暗部」はあるが、そのことで現代の人権侵害を正当化することはおかしい

日本は明確に反論せよ

 しかし「歴史問題」を持ち出して、現在進行形のジェノサイドを否定したり、帳消しにしようとする試みには、断固、反対し、警戒を怠らないことが肝要だ。どこの国の歴史でも、素晴らしい面ばかりではなく、暗部はあるだろう(中国共産党政府設立以前の歴史でも、革命と戦争と民衆蜂起が長く続いてきた)。
 
 だが、それをほじくり返して、自らが行っている問題行為を正当化しようなどとは、ずるい「戦法」というべきだろう。この流れでいくと、もし、日本が中国のウイグルジェノサイド問題を強硬に批判したら、中国は日本による「過去の侵略」や「南京大虐殺」などの歴史問題を持ち出して、非難してくることは、目に見えている…そう書こうとしていたら、中国、実はもう歴史問題を持ち出して、非難してきているのだ。こういうことにかけては、何と手が早いことか。

 3月25日、華報道局長は、日本政府が新疆ウイグル自治区の人権侵害に「深刻な懸念」を表明したことについて「日本は慰安婦問題という人道上の犯罪で言葉を濁している。彼らは人権を尊重していると言えるのか」「日本の侵略戦争で3500万人を超える中国人が死傷し、南京大虐殺で30万人以上が犠牲になった」「歴史を直視し深く反省し、言葉を慎むように望む」と述べたのだ。先ず、歴史問題以前に「言葉を慎むように望む」とは、何と上から目前で傲慢な態度であろうか。日本を見下していること、甚だしい。許しがたい傲慢さである。こんなことを言われて黙っているようでは、日本政府は嘗められて終わりだ。欧米諸国と組み、ガンガンに中国のジェノサイドを告発するべきである。

 華報道局長は「日本は慰安婦問題という人道上の犯罪で言葉を濁している」というが、とんでもないウソである。言葉を濁すどころか、日本政府としても「心からお詫びと反省の気持ちを表明」してきたし、アジア女性基金への協力もしてきた。これ以上、何をしろというのであろうか。謝って、金銭的な補助をしても「まだまだダメだ」という言動こそ、おかしなことではなかろうか。

 逆に言うと、中国共産党政府は、香港の民主活動家の人々に謝ったか?弾圧したウイグルの人々に謝ったか?謝るどころか、ジェノサイドはなかったと言い張るばかりだ。日本政府と中国共産党政府、どちらが誠実でまともな対応をしているかは一目瞭然であろう。

 我々、日本人もそして世界の人々も、中国共産党政府の嘘とプロパガンダには用心し、反撃せねばならない。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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