【門田隆将】野党ヒアリングという“暴力”は許されるのか

【門田隆将】野党ヒアリングという“暴力”は許されるのか

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 1本の音声データが波紋を広げている。10月4日、森友学園に関する決裁文書の改竄問題で自殺に追い込まれたとされる財務省近畿財務局職員の遺族が上司の音声データを大阪地裁に提出したのだ。

 職員の死後、上司が遺族に語ったこの音声は、報道陣にも公開された。マスコミは「これで再調査が必要になった」と安倍政権と財務省の責任を追及する論陣を張った。いつもの〝印象操作〟である。

 だが、当初からこの問題の本質を追及するジャーナリストたちは、一般の報道とは全く異なる感想を持った。「ついに自殺の本当の原因と思われるのが出てきたね」というものである。それは、極論すれば、野党ヒアリングという〝暴力〟がいつまで許されるのか、という問題でもある。

 詳細に入る前に簡単に森友問題を振り返ろう。もともと無所属と共産党の2人の豊中市議が「教育勅語を暗唱させるような幼稚園を豊中に来させるわけにはいかない」と始めたものだ。実にローカルな豊中市議らの政治的思惑からスタートした問題である。

 当該の土地は大阪空港騒音訴訟の現場であり、最高裁まで争った末に国が土地を買収。できれば国は売却したくて仕方がない土地である。売れれば御の字で、実際に当該の土地の隣は民主党政権時代、実質98.5%の値下げで豊中市に売却され、現在、公園になっている。国から買収用の補助金がブチ込まれ、最終的に豊中市の負担額は2,000万円に過ぎなかった。

 しかし、マスコミはここに安倍首相のお友達に対する値下げという〝疑惑〟をつくり上げた。籠池泰典氏と安倍首相は面識もないのに、「お友達への国有財産の8億円値下げ」なる疑惑が出てきたわけである。

 さて、当の上司の告白を聞いてみよう。NHKの「NEWS WEB」には公開された音声データが出ている。
「あの売り払いをしたのは僕です。国の瑕疵が原因で小学校が開設できなかったら損害額が膨大になることを考えた時に相手に一定の価格、妥当性のある価格を提示し、納得できれば丸く収まる。撤去費用を試算した大阪航空局が持ってきたのが8億円だったので、それを鑑定評価額から引いたというだけなんです」 

 この部分を聞いただけで膝を打つ人もいるだろう。改竄前文書が明らかになった時、価格交渉が暗礁に乗り上げた際の籠池夫妻の抗議が記されていたことだ。「とんでもないことを言うな。学校建設は中止。訴訟する」「新たに地中からダイオキシンが出たという情報もある。とんでもない土地であると踏まえて金額を出すべきだ」と夫妻は近畿財務局に迫っている。

 財務局側が譲歩し価格が決まったのは2週間後の6月1日。上司は延々続いたこの交渉を語っているのだ。そして政治家についてこう告白する。

 「僕は安倍さんとか鴻池さんとかから声が掛かっていたら、売るのはやめていると思います。だからあの人らに言われて減額するようなことは一切ないです」

 これも注釈が必要だ。騒動の渦中で公開された当の改竄前文書には、これが「鴻池案件」と呼ばれていたことや、実際に近畿財務局に連絡してきたのは鴻池祥肇、平沼赳夫、鳩山邦夫の3氏だったことが記されていた。もとより安倍首相の名など全くないのだ。その上で、上司は改竄理由をこう語る。

 「少しでも野党から突っ込まれるようなことを消したいということでやりました。改竄なんか、やる必要もなかったし、やるべきではありません。ただ追い詰められた状況の中で少しでも作業量を減らすためにやりました。何か忖度みたいなのがあるみたいなことで消すのであれば、僕は絶対に消さないです」

 つまり上司は、改竄理由が野党にあったことを吐露しているのだ。国会では野党が安倍首相や佐川局長を糾弾し、同時に公開ヒアリングと称して官僚を吊るし上げるニュースが続いたことを思い出して欲しい。

 彼らは2018年3月5日、近畿財務局に乗り込んだ。福島瑞穂(社民)、森ゆうこ(自由)、今井雅人(希望)、森山浩行(立民)、桜井周(立民)の5氏だ。近畿財務局に入った彼らは数時間も居座り、職員らの写真を撮り、押し問答を続けた。また東京では翌6日、杉尾秀哉(民進)、小西洋之(民進)の両氏が財務省に乗り込み、約1時間、職員を吊るし上げている。

 当該職員の自殺はその翌日の3月7日。もちろん自殺の原因はわからない。だが野党やマスコミが今回のことで再調査を要求しているので私も賛成したい。

 ただし、テーマは「野党議員吊るし上げの弊害」だ。自分たちの行動で人々がどれほど傷つき、国益が損われているか。是非、国会で激論を交わして頂きたい。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。

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