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ウクライナ情勢の発言が物議を醸している橋下徹氏

国を捨てて逃げろ?

 元大阪府知事の橋下徹氏のウクライナ問題に関する発言が注目を集めている。

 橋下氏は、ウクライナ国民に対し、
「国を捨てて逃げる選択もある」
「戦う一択ではない」
 と主張。

 さらに、3月6日放送のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」では、自民党の高市早苗政調会長と対談し、橋下氏は、日本が同じ状況になった場合、兵士を「どこをゴールにして戦わせる?」と質問。高市氏が「申し訳ないですけど最後まで戦っていただく」と言うと、後にツイッター上で「戦況によっては戦闘員の被害が拡大する」「戦う一択は危険だ」と批判したのである。

 それら諸々の発言が、賛否両論を呼んでいる。
 橋下氏は「住民保護・避難」の観点から「戦う一択ではない」と主張している。

《歴史を振り返っても包囲戦は悲惨です。今の段階から逃げられる人はどんどん逃げないと手遅れになります。しかし現地では祖国防衛、国際秩序維持の精神で逃げることが憚られているのではないでしょうか?》(3月6日、ツイッター)

 との言葉からそれが分かる。
 
 さらに橋下氏は、戦争が始まったら「逃げることは恥ずかしいことでも何でもない。国を捨てることでも何でもない。まずは一時避難なんだってことを進められるような、そういう戦争指導をやっていただきたいなと思います」と述べている。

 では、もし仮に、日本がウクライナと同様の事態に陥った時はどうすれば良いのか?
 非戦闘員は都市部から疎開させることも大切だと思う。「逃げる」というから、何か恥ずかしい、後ろめたいという意識を生むのであって、それは疎開と言い換えた方が良いだろう。非戦闘員でも志願して「兵士」になる者もいても良いし、一方で疎開する日本人もいても良い。それは、個々の日本人の判断に任されることになろう。しかし、侵略には断固として戦うという日本人が多ければ多いほど、侵略を跳ね返す力になることは、今のウクライナを見ていて事実であろう。

 私は避難するウクライナ人もいても良いし、戦うウクライナ人もいても良いと思う。それは、ウクライナの人々、個々人の判断に任されるものだろう。
 橋下氏が言うように、住民(非戦闘員)保護の観点から「戦う一択ではない」ということは理解できる。

 ちなみに、ウクライナ出身の政治学者グレンコ・アンドリー氏は、
「この状況で戦いたくない人には、その自由は今でも保障されています。皆が強制的に送り出されてるわけではありません。強制されているというのは間違いです」(めざまし8、フジテレビ)
 と主張しているが、「ウクライナ国籍の18~60歳の男性は出国できない。外国人を装って国外に逃げる者が出ないよう、男性は一人ひとりが厳重な審査を受けている」(読売新聞2022年3月2日付)との報道もあり、どちらの情報が正しいのかは分からない。

レッテル張りに過ぎない

 さて、橋下氏は高市氏のことを「戦う一択」の指導者のように論じているが、私は番組での高市氏の発言を聞いていて、決してそうではないと感じた。
 首相に就任したと仮定した上で、高市氏が自衛隊員に対しては「最後まで戦って頂く」と言うのは当然の話である。「途中で逃げても良いですよ」「中途半端に戦います」と言って、戦争などできるはずもないし、士気が上がるはずもない。首相が戦う姿勢を示すのは当然のことである。

 そして、重要なことは、高市氏は、戦う一択ではなく「あらゆる交渉をしますよ」「国際社会の協力も得ます」「どこかで停戦(終戦)ができれば良いんですよ」ということも番組で同時に述べている点だ。

 橋下氏は、高市氏の発言を踏まえて、《戦う一択の高市さんは国家指導者として危険だ》とツイッターで非難しているが、それは違うのではないか。
 高市氏は、侵略に対しては、当然、自衛隊でもって頑強に抵抗するが、それと同時に、外交・交渉でもって、上手い具合に着地点を見出していくことを念頭に置きつつ、発言したのだろう。
 高市氏の「最後まで戦って頂く」という発言のみをクローズアップして取り上げ、その他の言葉を全て捨象してしまうのは、牽強付会(けんきょうふかい)、レッテル張りではなかろうか。
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橋下氏のツイッター。高市氏の発言のキリトリではないか

なぜ中国を重視する?

 橋下氏の発言で疑問を覚えるのは、中国を絡めてくることである。
《僕はNATOとロシア・中国で協議し、大政治をやって妥結しろ!という立場》(3月5日、ツイッター)
 という発言もそうである。

 橋下氏が中国を絡める理由・論拠は、
《中国を取り込めていない経済制裁でロシアが瓦解するのはいつ?この答えを持ち合わせていないなら、ウクライナの犠牲を最小限にできるのは、NATO・ロシア・中国による政治的妥結しかない》(同日、ツイッター)という。
 つまり、中国を含めないで協議しても、ロシアへの経済制裁は実効性がない、だから中国も交渉・議論の場にということであろう。

 しかし、中国指導部の姿勢は、明らかにロシア寄りである。中国はロシアのウクライナ攻撃を「侵略」という表現は使わず公式な非難を控えているし、ロシアとの友好関係は「揺るぎない」「いかに国際情勢が厳しくても中国とロシアは戦略的決意を維持し、新たな時代の包括的戦略パートナシップを推進し続けていく」(中国の王毅外相)と述べていることからも、そのことが分かる。
 一方で、中国赤十字が早急にウクライナに支援を提供するとしている点が、中国のしたたかなところだが。

 それはさておき、橋下氏が主張するように、仮に中国を議論の場に立たせて、経済制裁らしきものを中国も発動するといっても、それは建前だけのものになる可能性が高い。「経済制裁してますよ」という振りをして、裏で支援するなど、幾らでも方法はある。それを非難されても、中国はどこ吹く風だろう。中国が北朝鮮を支援しているのと同じである。中国を交渉の場に立たせることは、ロシアに援軍を送るようなものではないか。

 中国がロシアに真に厳格な経済制裁を課すならば、話は若干変わってくるかもしれないが、外相の発言からもそれは期待薄。そうであるならば、中国をNATO・ウクライナとロシアとの交渉の場に立たせるのは、百害あって一利なしと思うのだが、どうであろうか。
 ウクライナの人々も、直接、紛争とは無関係の(しかもロシア寄りの)中国が交渉の場に、しゃしゃり出てくることに、不快感と拒否感を持つのではないか。大国同士の取引の場にウクライナが陥ることをウクライナの人々はどのように感じるか? その思いに寄り添うことも重要ではないか。


 橋下氏の発言に疑問を覚えるのは、高市氏への発言で分かるように、全体を見ずに一部の発言を切り取り、後で「レッテル張り」をすることである。
 今回の一連の発言をみて、つくづくそう感じる次第である。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』『日本会議・肯定論!』『超口語訳 方丈記』など。

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