「太田光」が大炎上

白川司:太田光「炎上」がしめすテレビ局の奢り

白川司:太田光「炎上」がしめすテレビ局の奢り

自民党議員に「失礼」なだけの質問ばかり浴びせた太田光。
via twitter
 総選挙の開票日である10月31日に放送されたTBSテレビの選挙特番『選挙の日2021 太田光と問う!私たちのミライ』でMCを務めた、爆笑問題の太田光氏が「炎上」した。

 これまでも政治番組にも関わったことのあるベテラン芸人ゆえの起用だったのだろうが、政治家に対する太田氏の一連の発言がSNSなどで大バッシングに発展したのだ。

 特に酷かったのが自民党の甘利明幹事長に対するものだった。

 太田氏は甘利氏に対して、出口調査などから事前に自民党が選挙戦で苦戦していると報じられたことを念頭に「どのへんが原因だと思いますか? 甘利さん、負けたら戦犯ですよね」などと、「戦犯」という厳しい言葉を使う。

 さらに、さらに自民党が敗北することを前提に進退問題に触れ、「勝ったとしても総裁に任せるんですか。総裁がOKと言えば、自分からは身を引かないってこと?」と追いうちをかけた。

 それに対して、甘利氏が「そういう状況になったら、しっかり相談したい。そういうことを聞く番組ですか?」と遠回しに抗議すると、太田氏は「そういう番組なんですよ。甘利さん日焼けしてますけどゴルフ焼けですか」「相当ショックな状態になってると思いますので、いろいろこれから考えてください。アッハッハ。ご愁傷さまでした」と大笑いしたが、甘利氏は大人の対応でやり過ごした。

 ほかにも、二階俊博前幹事長には、「いつまで政治家続けるつもりですか?」と質問して「当選したばかりで失礼だよ! 言葉を選びなさい」とたしなめられてしまうなど、ベテラン政治家をコケにするような発言を続けた。

 このような一連の発言に怒った視聴者がSNSで太田氏の批判をして大炎上となった挙句、「ご愁傷さまでした」がツイッターのトレンドワード入りした。

「芸」とは言えない低レベル

 私は芸人として太田氏を評価しているし、芸人が反自民党であるのはよくあることなので(寄席など演芸の舞台で政権批判が出ることは珍しいことではない)、自民党批判をすること自体は気にならない。

 また、「馬鹿にする」というスタンスが一種の「芸」になることもある。

 たとえば、過去には石原慎太郎氏が野党議員をコケにするようなことがしばしば批判の対象になった。ただ、それは盛んに批判的に報道されてたりもしたが、進退問題などに発展することはなく一時的にマスコミで話題になるだけだった。

 それが可能だったのは、石原氏が実績のある、思想的にも政治的にも成熟した政治家だったからである。

 石原氏の発言には、同氏の政治的信念という裏付けがあり、多くの人がそれを知っているからこそ、「そういうもの」として受け流していたのである。

 もし太田氏に政治の知識が豊富にあって、批判に裏付けが見えていればさほど問題にはならなかっただろう。

 だが、私が見ていた限り、太田氏の一連の発言からは、政治コメンテーター水準の知見は感じられず、単にコケにしようという姿勢だけが先走るだけで、ことごとく薄っぺらな発言に終始していた。与党の政治家が抗議しにくいことをいいことに、公共の電波を使って馬鹿にするという態度は、私も受け入れられないし、自民党支持者ならずとも「芸」にもなっていない単なる悪口を聞かされ続ければ、不愉快になって当然だ。
白川司:太田光「炎上」がしめすテレビ局の奢り

白川司:太田光「炎上」がしめすテレビ局の奢り

毒舌にしても、相手に対する「敬意」は必要であろう―(写真はイメージ)

芸人で「保険」を掛けるテレビの卑怯

 そのことで太田氏だけを攻めるわけにはいかない。テレビ芸人は、基本的に番組の指示どおりに動かなければならないからだ。自民党議員を徹底的にコケにすることは太田氏だけの意志でできるはずもなく、むしろ忠実に番組側の指示に従っただけではないだろうか。

 そうやって考えると、太田氏の発言はTBS内の雰囲気をそのまま伝えていると考えていいだろう。TBS内では自民党議員を馬鹿にするのが当たり前で、むしろ自民党を評価するような発言をしたら浮いてしまうのかもしれない。

 だが、それでは視聴者とはかなりギャップがある。

 少なくとも投票した者の半分は自民党を支持していたのであるから、太田氏がTBS内の雰囲気のまましゃべれば、視聴者の多くと大きなギャップが生じたのは当然だろう。

 もちろん番組側はわかってやっていると考えるべきだ。選挙特番での太田光の起用は、「お笑い芸人を使って、自民党の政治をコケにする」というプロットが先にあってのことだろう。

 もし同じ事を局アナやMCのジャーナリストがやったら、取り返しの付かないほどの大問題になりかねない。お笑い芸人であれば、最後の最後はいくら炎上しても「俺芸人だから」で逃げられる。
太田光「炎上」が示すテレビ局の奢り

太田光「炎上」が示すテレビ局の奢り

いまだにテレビは人々を操っているつもりなのか?
 つまりお笑い芸人であることは「保険」だ。太田氏のMC起用は、最初から批判を受けることを前提としていたのである。

 ここにテレビ局の奢りと勘違いがある。

 テレビ局はあくまで公共の電波を国民から借りている業者に過ぎない。だからこそ広く国民の意識に合わせて、報道が公正であることを求められる。また、公正な報道はテレビのみならず一般的に要求されており、一度に数千万人という数の人たちが見るテレビ番組であればなおさらのことだ。

 だが、特にテレビ局は特権意識でもあるのか、自民党の政治家を馬鹿にし、それを支持する国民を馬鹿にし続けて、それを良としている。

 テレビ局側が「お笑い芸人」という保険のある太田氏に政治家をコケにさせて喜んでいただけだとしたら、もう「報道」をやる資格はない。次の選挙特番から『選挙バラエティ・太田光が政治家に失礼につっこむ』といったタイトルにでもしてはいかがだろう。

 今のテレビ局のレベルにぴったりだと、むしろ好感を持たれるかもしれない。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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