白川司:立憲民主の敗北を招いた ひどすぎる「経済オンチ...

白川司:立憲民主の敗北を招いた ひどすぎる「経済オンチ」っぷり

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枝野氏の頓珍漢な「アベノミクス全否定」

 立憲民主党が大方の予想に反して前回から議席を減らした。その一方で、自民党は「過半数前後」という予想を覆して、マスコミの予想を上回る議席を獲得した。

 共産党との「共闘」を恃みにし、政策内容では≪アベノミクス批判≫を基本にした立憲民主党の枝野幸男代表の選挙戦略は、ほぼ効果を上げなかったと見ていいだろう。

 選挙運動中、枝野氏は徹頭徹尾、アベノミクスを批判しつづけた。

 「そもそもこの9年間、経済はよくなっていないんです。安倍さんに『悪夢の民主党政権』と呼ばれる筋合いはない」
 「我々に至らないことはあった。民主党政権3年3か月、経済の数値はよくなく、胸を張るつもりはありません。でも安倍政権より2倍近く、悪夢の民主党政権のほうが経済は伸びていた。悪夢より悪ければ地獄か!」
 「株を持っている人やごく一部の大企業だけが儲かった」 (10月28日東スポWeb

 まず批判対象がおかしい。


 岸田政権はたしかにアベノミクスの基本は受け継いでいるが、岸田首相は再配分を重視していると総裁選から明言して、地方の活性化から日本経済を立て直すと述べている。

 にもかかわらず、いまさら安倍首相がやってきたアベノミクスを攻撃して、有権者が岸田自民党をやめて立憲民主党に投票しようと思うだろうか。ピンとこない人のほうが多いだろう。

 もしかしたら枝野氏は安倍首相(当時)から国会で「悪夢のような民主党政権」と言われたことをいまだに根に持ち、自己正当化しつづけているだけではないのか。だとしたら、愚かなことこの上ない。

実際に「悪夢」だった民主党政権

 枝野氏は否定するが、民主党政権の3年間は間違いなく「悪夢のような」と形容すべきものだった。

 民主党政権は1ドル90円を大きく割り込む超円高を放置し続けた。

 その間、日本国内にある工場が中国や東南アジアに移転して、地方経済を支えていた大型工場が国内から次々となくなった。地方の雇用は空洞化した。

 それと同時に、超円高は国内になんとかとどまって生産が続けられていた日本製品の国際競争力を奪い続けた。

 特に産業構造が「日本経済の縮小コピー」で、日本製品と同じようなラインナップを持つ韓国製品が、歴史的な円高とウォン安を背景に次々と日本製品からシェアを奪った。

 それまで圧倒的な強さを見えていた白物家電でも韓国製や中国製が目立つようになり、国内家電メーカーの衰退が始まってしまったのである。三洋電機の家電部門は中国企業に、シャープは台湾企業に買収された。

 製造業が衰退して、日本経済はサービス業化した。そのため、賃金が伸びなくなり、一時期収まるかに見えていたデフレは、また悪化の一方をたどった。

 民主党政権がやったことは、結局日本経済の足腰を弱めて、中国製品や韓国製品の躍進を許したのに過ぎないのだ。

 たしかに、超円高でドル建てのGDPの額は膨らんだ。だから、民主党政権で「GDPは高かった」というのは正しい。でも、見かけだけに過ぎない「ドル建て」のGDPが膨らんだからと言ってなんだというのか。それこそ、高級な外国製品を購入できる富裕層には恩恵はあっただろうが、庶民の生活をボロボロにしただけではないか。
白川司:立憲民主の敗北を招いた ひどすぎる「経済オンチ...

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悪夢!
 それを救ったのがアベノミクスである。

 アベノミクスによって超円高が是正されて、日本製品は逆に韓国製品のシェアを奪い返し始めた。もともと品質やイメージでは日本製品のほうが上なのだから、価格競争力で負けなければそもそも日本製品が優位である。それはとくに自動車で顕著だった。ただ、家電などは取り返しのつかないことになってしまった。

 枝野氏がアベノミクスを全否定すればするほど、それは立憲民主党の経済政策のデタラメさを露呈するだけだ。相変わらずのアベノミクス批判を続けて「立憲民主党が政権を取ったら、日本経済は確実に死ぬ」と思う人たちがどれほどいるか想像がつかないのだろう。

 いやそれどころか、枝野氏は日本経済を衰退させたことを「民主党政権の功績」のように言い続けた。本気で言っているのかどうか疑わしいが、もし本気だったら救いようのない経済オンチである。

 もともと、公約になかった5%から8%の消費税増税を決めたのは民主党政権であり、枝野氏は当時「増税すると経済が良くなる」という信じがたい迷言まで放っている。こんな代表のいる党に日本経済を任せられられるわけがない。

「NISA課税」発言で経済オンチ確定

 日本経済の最大の問題は貯蓄の多さにある。総務省によると、2020年の1世帯(2人以上)当たり貯蓄現在高は1791万円で、コロナ禍にもかかわらず前年に比べ2.1%増加している。また、貯蓄保有世帯の中央値は1061万円もある。

 これらの一部が消費や投資に回るだけで、経済はかなり良くなる。だから「貯蓄から投資へ」のシフトが必要であり、それは民主党政権でも言われていたことである。

 いちばん効くのは株高であるが、株高は狙えばやれるというものではない。金融緩和を土台に経済対策を打つことが重要になる。金融商品として持っていたほうが大きく有利であれば、貯金より投資信託などにしようと思う人が増えるのは理の当然である。

 もう1つが投資優遇だ。その代表がNISA(少額投資非課税制度)なのであるが、10月28日のテレビ番組で立憲民主党の江田憲司氏が「金融所得に関する税率をせめて30%、国際水準並みにしていく」と言ったあとで、「NISAにも課税する」と取り返しのつかない失言をしてしまった。

 選挙戦では再配分の議論が多かったが、再配分するためには、経済自体が強くなければならない。全く経済成長を見せない日本経済を大きくする具体策なしで再配分ばかり議論することも愚かしいが、NISAの制度的意味すら理解していないと思しき江田氏の発言は、立憲民主党にまともな経済政策がないことを露呈させた。

 しかも、江田氏は立憲民主党の経済政策を代表する人物なのである。江田氏はすぐに訂正して謝罪したが、あまりにも半端な訂正と謝罪で、立憲民主党には大きなダメージとなった。
白川司:立憲民主の敗北を招いた ひどすぎる「経済オンチ...

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江田氏の発言は「失言」だったのか、それともそもそもNISAを理解していなかったのか…
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 このように今回の選挙戦では立憲民主党の特に経済政策に関するお粗末さばかりが目立った。

 再配分の問題はたしかにある。現在の再配分の問題は年配者中心であることだ。近年は子供に対する政策はおこなわれるようになったが、20代から50代の現役世代が置き去りになっている。とくに、未婚女性とシングルマザーに対する対策は必要だろう。

 だが、最大の問題は日本経済を成長させることである。それができない政党にゆめゆめ政権をにぎらせてはいけない。

 弱者を守れるのは強い国だ。国の経済が弱くなっては弱者は守れない。そんなことすらわからない政治家は二流以下だ。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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