中国が開発中のHGV『東風17(DF-17)』

中国が開発中のHGV『東風17(DF-17)』

 アメリカ軍の制服組トップ、マーク・ミリー統合参謀本部議長は27日、中国が今年8月に極超音速滑空体(HGV)の発射実験を行っていた事を、アメリカ政府関係者として正式に認めた。
山口敬之:日本の「スプートニク・ショック」を伝えない媚...

山口敬之:日本の「スプートニク・ショック」を伝えない媚中メディアと政治家

マーク・ミリー統合参謀本部長
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極超音速滑空体(HGV)の特徴

極超音速滑空体(HGV)の特徴

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 そして、
 「我々が目にした極超音速兵器の実験は極めて重大な出来事だった」と強調し、「非常に懸念している」と繰り返した上で、この実験の衝撃を「スプートニク級」と表現した。
 
 この中国の実験をスクープしたイギリスの新聞『フィナンシャル・タイムズ』(FT)の10/16の記事については、10/22の本稿で詳報した。

 FTは、中国が今年8月弾道ミサイルで打ち上げたHGVが地球を周回した後に下降して、設定した標的付近に着弾したと伝えていた。

 この報道やミリー議長の発言に対して中国側は「宇宙船の再利用技術の実験」などとしてHGVとする報道内容を否定。 

 中国外交部の汪文斌副報道局長は28日の定例会見で「中国を仮想敵とする冷戦思考はやめるべきだ」と抗弁した。

スプートニク・ショックとは

 ミリー統合参謀本部議長が言及したスプートニクとは、1957年10月4日に旧ソ連がバイコヌール基地(現カザフスタン共和国)から打ち上げた世界初の人工衛星の名前である。
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世界初の人工衛星「スプートニク」
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 直径58cm、重量83kgあまりのアルミニウム製の球体に2.4mの4本のアンテナが付いている。中には窒素ガスが充填された。

 元々大陸間弾道ミサイルとして開発が始まったR-7ロケットによって打ち上げられたスプートニク1号は、地球から一番遠い所で高度947km、最も近い所で228kmの楕円軌道に乗って、地球の周りを96.2分で周回した。衛星本体からは2種類の電波が発信され、この電波は世界各地で受信された。

 世紀の実験の成功を受け、旧ソ連と共産主義陣営は大いに盛り上がり、各種イベントが開催された。

 発売された記念切手にはスプートニクの地球周回軌道が誇らしげに強調された。
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スプートニクの地球周回軌道を描いた記念切手
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 しかし、内蔵された電池が22日で切れて電波は止まり、57日後には大気圏に再突入して燃え尽きた。

 簡単に言えば、スプートニク1号自体は原理的には中学生でも作れる、単なる球体の発信機だったのだ。

ショックの本体は「核ミサイル」

 しかし、スプートニク1号の打ち上げはアメリカと西側世界を震撼させた。
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当時の驚愕を伝えるNYタイムズの記事
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 なぜ、たかだか成人男性ほどの重さの発信機が、西側世界を震撼させたのか。

 脅威の本質は人工衛星スプートニクそのものではなく、それを上空約950kmまで打ち上げたR-7ロケットだった。
 
 1949年8月29日、原子爆弾の開発に成功しアメリカに次いで世界で2番目の核保有国となったソ連は、翌年には本格的な弾道ミサイルの開発に着手。1953年には5.5トンの弾頭を8000km飛ばす大陸間弾道ミサイル(ICBM)としてR-7ミサイルの設計作業を開始した。

 そしてわずか4年後の1957年、スプートニク1号をR-7で周回軌道に投入する事に成功した。スプートニクショックの本質は「核保有国であるソ連が世界に先駆けてICBMの開発に成功した」という事実だったのである。

 あとは、ICBMのペイロード(積載可能重量)が焦点となった。もしソ連が当時2トン程と見られた核弾頭をICBMに搭載できるようになれば、アメリカ全土のみならず欧州各地にもに核ミサイルを打ち込める。

 ソ連がその気になれば、西側各国の主要都市や軍事拠点を核爆弾によって瞬時に壊滅させる事が出来るという事態がすぐそこに迫った。

 民主主義と共産主義の対立という冷戦構造の中で発生した軍事的アンバランスによって、アメリカと西側社会全体が陥ったこの恐怖の連鎖を「スプートニク・ショック」と呼ぶのである。

 特に、それまで軍事力のみならず宇宙開発、科学力、特に最先端技術の研究開発において世界を圧倒していると自負していたアメリカの受けた衝撃は並大抵のものではなかった。

 当時民主党の上院議員として軍事費拡大の論陣をはった第36代アメリカ大統領のリンドン・ジョンソンは、こうコメントしている。

 「我々は大変な衝撃を受けた。アメリカ以外の国が、偉大な我々の祖国よりも優位に立つ技術を開発することが可能であることを知ったからだ」 
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のちに大統領となるリンドン・ジョンソンもスプートニク・ショックの脅威についてコメントを残した
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 もちろん、アメリカは諦めなかった。強いショックをバネに、敵国から圧倒的に出遅れた軍事・宇宙開発に、総力を挙げて邁進した。まず翌年1958年には、言わずと知れたアメリカ航空宇宙局(NASA)を設立、同時に軍事力開発と表裏一体のマーキュリー計画を始めた。

 さらに同じ年、国家防衛教育法を成立させ、教育投資を6倍に増やした。経済的には圧倒的優位に立っていたソ連に宇宙開発で遅れを取ったのは、「数学と科学への投資が不足していた」と総括し、巨額の資金を投じて抜本的対策を打った。

 こうしてアメリカでは、「技術革新」と「教育」は単なる文化事業ではなく、国土と国民を守る安全保障上の最優先課題と位置付けられたのである。

 スプートニク・ショックをバネに一気に加速したアメリカ軍事と宇宙の開発は、11年後のアポロ11号による世界初の月面着陸として結実する。

 この時3人の宇宙飛行士を月に送り込んだサターンVロケットも、アメリカ陸軍弾道ミサイル局の研究に端を発する軍備研究の賜物だった。

 このように、そもそも宇宙開発は軍事開発と平和利用が渾然一体として進められてきたのであり、最初からデュアル・ユースが大前提だった。

 一方で、「スプートニク・ショック」から60年以上が経ち令和の世になってなお「一切の軍事研究に加担しない」という日本学術会議の頑迷固陋なアナクロニズムには、言葉もない。

切迫した危機にされされるのは日本

世界最強のアメリカ軍で制服組の最高位を務めるミリー統合参謀本部議長が、今年8月の中国のHGV実験を「スプートニク級」と表現した事の意味は大きい。

 スプートニク・ショックの本質は、旧ソ連がいつでもアメリカ全土に核ミサイルを打ち込む事が可能で、しかもアメリカ側にはそれを防御する手段がない事だった。

 米軍トップがその衝撃を「スプートニク級」と表現した以上、中国のHGVがアメリカの誇るミサイル防衛システム網を掻い潜って飛翔し、アメリカ全土を攻撃できるという事を意味する。

 確かに今回のHGVは、飛翔中にグライダーのように滑空して軌道を自由に変えたため、アメリカが巨費を投じて開発・配備した、アメリカの弾道ミサイル防衛システムを完全に無力化してしまう可能性がある(参考記事)。

 仮に、アメリカのミサイル防衛を掻い潜って中国のHGVが運搬する核弾頭がアメリカの主要都市と軍事拠点で炸裂し、それらの都市と拠点を壊滅したする。

 アメリカは原子力潜水艦57隻を保有しており、この内2/3程度が常時世界中の海中を航行している。

 アメリカ本土が核攻撃されれば、40隻程度の原子力潜水艦から、中国全土に向けて潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)が発射され、米中両国は国家として事実上壊滅する。これが東西冷戦以来世界戦争を抑止してきた「相互確証破壊」(MAD)と言われる力の均衡だ。

 中国のHGV実験成功によっても、このMAD均衡は保持されており、中国のHGVがアメリカのミサイル防衛システムを完全に突破する能力を獲得したとしても、米国本土への攻撃を習近平が躊躇う十分な理由が残されている。
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新兵器が開発されたとはいえ、米国の軍事力を考えると、米中の直接衝突は起きづらいか―
 ところが、日本の場合はどうだろうか?日本はアメリカのイージスシステムによって弾道ミサイルから守られている。先の例と同様に、尖閣奪取を決意した習近平政権が、最新型HGVによって在日米軍基地や日本の主要都市に小規模な攻撃を仕掛けたと仮定する。

 これに対し、アメリカが核ミサイルによって中国本土に報復すれば、中国は7隻の094型(晋級)原子力潜水艦からのSLBMやHGVによってアメリカ本土に再報復攻撃を仕掛ける事ができる。

  ここでアメリカ大統領は「究極の選択」を迫られる事になる。日本のために報復すれば、アメリカ本土が中国の原潜による核攻撃に晒されるのだから、「同盟国のために報復するか」「自国民の安全を優先して中国への報復攻撃を控えるか」。全ては時のアメリカ大統領の一存という事になる。日本は無数の核ミサイルを全土に浴びて壊滅的被害を受けても、中国は無傷のまま、という最悪のシナリオすら否定できないのだ。

 要するに、中国のリーダーにとってHGVは、日米のミサイル防衛システムを掻い潜っての日本攻撃が可能であり、しかもアメリカの報復確率を相当程度低減するという、尖閣や台湾侵攻に向けて、現状を大きく変更する「ゲームチェンジャー」なのだ。

日本の「ノーテンキ」メディアと「媚中」政治家

 10/16のFTのスクープ以降、私は本欄でも自身のメルマガでも、繰り返し事の重大さを訴えてきた。

 ところが、この中国の最新兵器の問題について日本では、総裁選・総選挙や、眞子内親王の会見などに紛れて、大手メディアの報道からは深刻さが十分に伝えられていない。

 ミリー議長が世界に危機を訴えた27日、媚中派で知られる福田康夫元首相は講演で、米中の軍事衝突の懸念について「あり得ない。具体例を言えば、台湾海峡で戦争は起こり得ない」と、根拠を示さず言い切った。

そして
 「周りの国が敵であれば、いくら頑張っても日本を守り切れない。敵を作らないことが必要だ」
 「敵基地を攻撃するという言葉自身が、敵を作らないという道に反する。日本と他国との関係をよくすれば、そうした議論はしなくて済む」と続けた。
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相変わらず「中国とは仲良く」としか言わない福田康夫元首相
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 中国の台湾侵攻をめぐっては、アメリカのインド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官が10/6、
 「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある。中国の急速な軍備拡大により中国が一方的に現状変更を試みるリスクは高まっている」と述べた。
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2019年に日本を訪問したフィリップ・デービッドソン前司令官
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 デービッドソン氏の後任のアキリーノ・インド太平洋軍司令官も
 「中国は台湾を軍事的に圧倒することを目的に兵器やシステムを急速に増強しており、軍事行動を起こす可能性がある」
 「この問題は大半の人が考えているよりもはるかに切迫しているというのが私の意見だ。われわれは受けて立たなければならない」と述べ、中国は台湾に対する支配権を取り戻すことを「最優先課題」と位置付けていると繰り返し指摘している。
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中国への台湾侵攻が「切迫している」と述べたアキリーノ・インド太平洋軍司令官
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 アメリカの現役の軍幹部が強く懸念している中国の台湾侵攻を、日本の元首相が根拠も示さず全否定する。

 習近平は、本当の脅威を伝えない日本のメディアや、国土と国民を守る意思のない福田康夫の言動を、さぞ喜んでいるだろう。
 
 国家存亡の危機にあってどう対応するかこそ、政治家の真価を決める。アメリカは1957年のスプートニク・ショック当時のケネディ政権から、次のジョンソン以降ニクソンから1989年に退任したレーガンまで、歴代大統領が一貫して軍事・宇宙開発に邁進し、その結果ソ連を崩壊に追い込んだ。

 その一方、日本の戦後の政治家は目の前の危機から逃げ続けた。国を守る気概も戦略もない福田康夫の発言は、引退した政治家の戯言ではない。その「敵前逃亡」「国家防衛に必要な軍備増強の放棄」という精神は、河野太郎や公明党の「敵基地攻撃能力は古めかしい昭和の議論」という主張に見事に引き継がれている。

 そして、滑空体が極超音速で自在に飛翔するためのスクラムジェットエンジンや耐熱素材などHGV開発に不可欠な先端技術が、日本の大学の研究から流用されていた可能性が極めて高い事も明らかになった。

 科研費という日本の税金によって日本の大学で進められている先端技術研究が、日本人を殺戮する大量破壊兵器開発に使われているという恐るべき実態を初めて暴いた自民党の長尾敬氏は、総選挙で公明党の支援を得られず惨敗した。
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中国「国防7校」と日本の大学の関係を指摘した長尾氏のツイート
via twitter
 中国による日本の侵略は、社会的・メディア的には完成段階に入っている。最後に来るのが、核ミサイルである。
山口 敬之(やまぐち のりゆき)
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック)。

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この記事へのコメント

ホッとした人2 2021/11/9 19:11

記事の内容が重過ぎて、いまだに何と書いたらいいのか迷っている。
他の人達も同じではなかろうか。

9条という綺麗事を「金科玉条」のように有難がる日本国民。
中韓北に煽られ騙されているとも知らず、
耳に心地いい事しか聞こうとしない。
日本人として腹を括らねばならない時が、いよいよ来たのだろう。
タイムリミットは最大で6年。
その間に我が国が核武装する確率はほぼ「0」

この国に生まれて良かったのか、悪かったのか。
戦争で負けた為に「自国の生存を他国に委ねる」という
有り得ない事態を生み出した。

然も世界でも稀にみる
お花畑で「能天気」な民族は、中国・朝鮮・ロシアからの核攻撃で
滅びるしかないのか。

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