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驚きの発言をした日本共産党の志位和夫委員長

その前にやるべきことがある

 日本共産党の志位和夫委員長は4月7日、党本部での会合でウクライナ情勢を踏まえ、
「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬくのが党の立場だ」
 と述べた。

 発言自体はごもっともな内容だが、共産党の志位委員長がこのような発言をしたことに驚きを禁じ得ない。もっと言えば、ご都合主義も甚だしい。

 上記の発言をする前に、やるべきことがあるだろうからだ。それは、共産党の綱領の改定である。同党の綱領には、自衛隊に関して、どのように述べているか。

 そう、「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」と主張しているのだ。

 他国による侵略があった時、自衛隊を含めてあらゆる手段を使い、国を守るのならば、軍縮をしていたのでは守りきることはできないだろう。

矛盾だらけ

 特に綱領の中にある「憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」という文言・目標は削除するべきだろう。自衛隊の解消を目標にしているような政党が、都合の良い時だけ、自衛隊を使って国を守ってほしいなどとは、あまりにもおかしな発言だ。

 共産党の綱領には「全般的軍縮とすべての軍事同盟の解体、外国軍事基地の撤去をめざす」との文言もある。この文言も、志位氏の「自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」に矛盾する。

 侵略戦争がある云々以前の問題として、戦争を起こさないようにするには、軍事同盟というものが極めて有効であるからだ。例えば、ウクライナが早期にNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟に加盟していたら、ロシアもウクライナに侵攻しなかった可能性が高い。強固な軍事同盟は抑止力となるのだ。その軍事同盟の解体を目指しているようでは、逆に戦争を招き寄せる危険性もあろう。

 何より、共産党は、憲法9条を厳密に守りたい政党ではないか。
 第9条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とあり、戦争放棄・戦力の不保持・交戦権の否認が規定されている。

 共産党の綱領にも「現行憲法の前文をふくむ全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施をめざす」とある。それを踏まえると、綱領と、志位氏の「自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」との言葉に著しい矛盾が生じる。
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憲法9条で国を守れるのか

信念も何もない

 日本共産党はこれまで「いまの自衛隊のあり方、ついに海外派兵までやるようになった現状が憲法違反であることは明らかであって、自衛隊を違憲の存在だとするわれわれの立場は少しも変わりません」(「日本共産党 自衛隊をどうする」)との立場だったはずだ。

 自衛隊を「違憲だ、違憲だ」と散々批判してきたのに、ウクライナ戦争があった途端、自衛隊で国を守るとは、共産党には信念も何もないのだろうか。

 共産党は「安保条約と自衛隊なしに日本の安全は守れないということが、それこそ、国をあげてという形で広められてきました」(同前)と、さも自衛隊では国の安全を守護できないかのような言説を主張してきたが、ウクライナ戦争を受けて、武力が国を守る事が実感できたのではないか。

 いや、彼ら(日本共産党の人々)は、そんなことは、とっくの昔に本当は分かっていたのだろう。しかし、護憲の党という名目のため、その主張を翻すのは、自らの党の存立に関わるということで、自衛隊の段階的解消を唱えてきたのではないか。
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自衛隊を違憲と言うばかりで

共産党思考では国を守れない

 先述したように共産党は何よりも「憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」「全般的軍縮とすべての軍事同盟の解体」という文言を綱領から削除するべきだ。

 あと、綱領にあるアメリカへの敵意むき出しの文言も削除した方が良いだろう。
「アメリカ帝国主義は、世界の平和と安全、諸国民の主権と独立にとって最大の脅威となっている」「アメリカは、地球的規模で軍事基地をはりめぐらし、世界のどこにたいしても介入、攻撃する態勢を取り続けている。そこには、独占資本主義に特有の帝国主義的侵略性が、むきだしの形で現われている」などが該当する。
 このような、文言がある限り「自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬく」のが困難になるからだ。

 同盟関係にある国に対し、このような文言を書き連ねている政党が仮に政権をとったとして、有事の際、アメリカが日本を守るため軍隊を派遣しようなどと思うだろうか?

 今回の志位氏の発言を見るに、共産党が政権をとったら、これまでの方針を翻して、時と場合によっては、アメリカに擦り寄る、急に親米化することも十分考えられるが、それはまたご都合主義というべきであろう。

 有事の際、アメリカが必ず日本を守ってくれると考えるのは、まさに「お花畑」思考である。だからこそ、侵略者には、基本的には自国の防衛力で立ち向かう確固とした体勢を整えておくことが重要なのである。そのためには憲法を改正し、自前の軍隊を整備することが急務なのだ。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』『日本会議・肯定論!』『超口語訳 方丈記』など。

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