gettyimages (11271)

志位和夫委員長、暴力的な革命を党の要綱として廃止していないのでは?

八代弁護士の「暴力革命」発言

 2021年9月13日、弁護士の八代英輝氏が出演中のTBS系『ひるおび!』で共産党に関する発言を謝罪した。

 その前の週の放送で野党共闘について扱った際に、
「(日本共産党は)まだ暴力的な革命というのを党の要綱として廃止していない」
 と発言したことについて、八代弁護士は、
「日本共産党の綱領にそのようなことは書かれていませんでした。訂正してお詫びします」
 と謝罪し、
「先週の私の発言について、私の認識は、閣議決定された政府見解に基づいたものでした。一方で日本共産党はたびたび否定していることも併せて申しあげるべきでした。申し訳ありませんでした」
 と述べて、重ねて謝罪した(産経新聞/2021年9月13日付)。


 ところが、これについて共産党の志位委員長はツイッターで、
「コメンテーターの発言は『暴力的な革命を党の要綱として廃止していない』という虚偽発言への撤回・謝罪になっていない」
 と再抗議している(日刊スポーツ/2021年9月13日付)。

 八代弁護士は「政府見解と共産党とで意見が分かれていることについて、一方の意見だけ言って両論に触れなかった」と謝罪しているのだが、共産党側は、「政府見解は虚偽であり、政府見解を述べたそのことが、撤回と謝罪に値する」と述べたことになる。

 これは言論の自由を無視した暴論と言わざるを得ないだろう。

3つの段階で「民主主義革命」

 では、実際に共産党の綱領ではどうなっているのだろうか。

 まず、党是を表すと見られる「目的」として、次のように記されている。

【目的】社会主義革命ではなく、異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破のための民主主義革命を起こすこと

 社是は「社会主義革命」ではなくて、「民主主義革命」を起こすことだとしているのである。
 そこで民主主義革命の中身がどんなものか見ようと読んでいくと、綱領の16に次のような記述がある。

(一六)日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる。

 これらを総合すると、日本共産党は次の3つの段階で「民主主義革命」を達成しようとしていると考えられる。

【第1段階】民主連合政府の樹立
【第2段階】X(ブラックボックス)
【第3段階】社会主義・共産主義の社会が成立

 問題は、共産党を含む民主連合政府のあとにあるべき「第2段階」が省かれていることだ。その第2段階がなければ、社会が共産化するわけがない。
 しかも、先に見たように、共産党は党是として「異常な対米従属と大企業・財界の横暴な支配の打破」を唱えている。

 これはマルクス・レーニン思想の「2段階革命論」を援用したものではないだろうか。

【第1段階】絶対君主制や封建制度などを廃止するブルジョア民主主義革命
【第2段階】資本主義が発展した後に社会主義革命(プロレタリア革命)

 両者を比較すると、共産党の綱領で省かれてブラックボックスになっているところに「プロレタリア革命」を入れるときれいに完成する。なにしろ、2段階革命論でも第3段階は全く同じだからである。

 もしそうであれば、暴力革命を「否定」していないどころか、「言っていないだけで、前提としている」ということになる。
 八代弁護士が述べたように「綱領ではまだ暴力的な革命というのを党の要綱として廃止していない」は事実だろう。
gettyimages (11272)

カール・マルクスの肖像(1818-1883)

日本の政党として異常

 そもそも八代弁護士が述べた内容は、本人も「私の認識は閣議決定された政府見解に基づいたものだった」と述べているように、あくまで政府見解である。政府見解を言って執拗に撤回・謝罪を求めるというのは、日本の政党として異常だとしか思えない。

 実際、このあとの2021年9月14日に加藤勝信官房長官が記者会見で「政府としては日本共産党のいわゆる『敵の出方論』に立った暴力革命の方針に変更はないものと認識している」と述べている(産経新聞/2021年9月14日付)。

 志位委員長は「敵の出方論」について「どんな場合でも平和的、合法的に社会変革の事業を進めるという共産党の一貫した立場を説明したものにほかならない」と述べているが、「敵の出方のこちらの程度が決まる」というのなら、どう考えてもこれが「平和的」だというのは無理があるだろう。そもそも政府やほかの政党を「敵」と認定すること自体が異常ではないのか。

 ちなみに、公安調査庁は共産党について「革命の形態が平和的になるか非平和的になるかは敵の出方によるとする『いわゆる敵の出方論』を採用し、暴力革命の可能性を否定することなく現在に至っている」と指摘している。

ウクライナで変わった国民意識

 その共産党だが、最近、改憲の動きに対してかなり敏感になっている。

 岸田政権になってこれまで滞っていた改憲議論が進むようになったが、ロシアがウクライナを軍事侵攻したことで、多くの国民のあいだで「9条は変えるべきではないか」という意見が強まっている。

 2021年2月25日の共産党の機関誌『赤旗』では「ウクライナ問題 日本は9条生かし 力尽くせ 改憲より命と平和」と題して、次のような主張をしている。

《参院で来年度予算案の実質審議がはじまった24日、衆院第2議員会館前で定例国会前行動が行われました。コロナ禍のもと、大軍拡と改憲に突き進む岸田政権や自公、補完勢力を批判し、「改憲よりも国民の命を守る議論を」と訴えました》

 経済安全保障には熱心ではあるが、リベラル色の強い岸田政権が「大軍拡」に進んでいるというのは違和感がある人が多いのではないだろうか。そもそも改憲議論は「国民の命を守る」ためのものであって、「改憲よりも国民の命を守る議論を」と分離するのはおかしな話だ。

 2つは分離できるものだと強弁するのなら、まずそれを証明してもらいたい。
 中国の軍事的な危機が迫っているのに、改憲議論を封印しようとしている共産党は、もしかしたら日本人の命を危うくしたいのか。

 さらに、志位和夫委員長は2月26日に、次のようにツイートしている。

《憲法9条で戦争を放棄したのは、「再び侵略国家にならない」という決意とともに、自ら進んで「正義と秩序を基調とする国際平和」を樹立しようという決意が込められている(『註解日本国憲法』)。これは憲法学のイロハのイだ。その双方において、憲法9条の生命力は今日いよいよ輝いている》

「侵略国家にならない」はいいとして、では、侵略国家に侵略されたらどうなるのか。
 (11273)

志位委員長の仰天ツイート(2月26日)

改憲阻止に潜む恐ろしい意図

 ロシア事情に詳しい佐藤優氏は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻の目的として、次の3点を挙げている。

(1)ゼレンスキー政権の打倒。傀儡(かいらい)(政権)を立てるのではなく、現政権内部からロシアに融和的な人が出ることを期待しているだろう。ここはウクライナ側に忖度(そんたく)させる。
(2)ウクライナに住んでるロシア人に圧迫が加えられないようにする。
(3) (ウクライナを)へなへなにする。米国が占領下の日本でやったように憲法9条のようなものを定めてウクライナの非軍事化を進める
(東京スポーツ/2021年2月25日付)

(3)に注目してほしい。ロシアはウクライナに日本の憲法9条のようなものを押しつけ、2度とロシアに刃向かえないようにしたいというのである。

 ここからわかるように、憲法9条とは強者が弱者に押しつけるものである。そもそも9条は相手国には採用してほしいが、自国では採用したくない。そのように、持たない者にこそ都合の良いものだ。そうでなければ、世界中で採用されていないとおかしいはずだ。

 では、なぜ共産党はかたくなに憲法9条を守りたいのか。
 ここでポイントになるのが、先に触れたように共産党がプロレタリア革命を否定していないという事実だ。つまり、共産革命をするときに、軍が存在しないほうがやりやすいということではないのか。

 そう考えると、共産党が平和平和と連呼するときの底意が透けて見えないだろうか。私は彼らが9条だけは死守しようとしていることに、時に背筋が凍る思いがする。
gettyimages (11274)

憲法9条は守り続けるべきものか(画像はイメージ)
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く