白川司:二階俊博の落日にみる "利権誘導型" 政治家の終焉

白川司:二階俊博の落日にみる "利権誘導型" 政治家の終焉

結果的に「媚中」となっただけ?

 二階氏が幹事長を退任した。ご存じのように、二階氏はこの重職を安倍・菅両政権で5年間にわたって死守してきた自民党屈指の大物政治家である。

 しかし、ここ数年二階俊博氏ほど、多くの国民の批判にさらされた政治家はいないだろう。幹事長という自民党の最大実力者であるが、本来なら表にはさほど出てこない役職であるにもかかわらずである。

 それなのに、多くの国民が常に「二階幹事長」の存在を感じて、その存在を忌まわしく思っていた。それはあたかも、日本政治の決定権は二階氏にあるのではないかと多くの国民が思っているかのように。

 だが、それは幻想だろう。

 二階氏にはこれといった政治信条がない。「親中派」「媚中派」とも言われるが、それすら政治信条に基づいていたのかも怪しいと思っている。

 二階氏は自分の味方にできるものは片っ端から仲間に引き入れた。公明党や野党はもちろんのこと、自党に造反するような政治家ですら守ろうとした。中国ですら、二階氏にとっては「何でも仲間に引き入れる戦略」の駒の一つではなかったのだろうか。

 二階氏に「権力の源泉」というべきものがあるとすれば、それはおそらく「節操なく味方に引き入れる」という資質から来るものだろう。

 節操なく味方に引き入れた結果として、いろんなところに「恩」が売れて、その結果として多方面にパイプができていったのだ。

地元での人気も「利権」あってこそ

 だが皮肉なことに、その二階氏は最後は自分が支えてきた(と本人は考えていたはずの)菅義偉首相に「裏切られる」という形で今回の退任となった。

 10月4日の朝日新聞に「地元から見た二階俊博」という記事が掲載されている。地元和歌山の名士の意見としては「日本の宝、もったいない」「国の方向性を見て、ご意見役としてものを言える人なのに、もったいない。がんばってくれました」という言葉が発せられたそうだ。

 和歌山は熊野古道や高野山や白浜温泉など観光資源に恵まれた観光県だ。だからこそGo Toトラベルという究極の観光業救済策が二階サイドから出てきたのだろう。実際、この政策は野党に邪魔されなければ、観光業の救世主になったはずで、二階氏は地元の人たちにとっては「日本の宝」に見えて当然だ。そもそも高野山や熊野古道の世界遺産登録も二階氏がいなければもっと遅れていたかもしれない。また、高速道路建設でも二階氏の力が大きい。

 ただ、その評価は県の北部と南部で少し色合いが違うそうだ。選挙区のある南部にはかなり力を入れてきたが、北部に対しては少し冷淡だったという。二階氏が地元に利益を与えることで支持を集める「利益誘導型政治家」だったことの証左だろう。
白川司:二階俊博の落日にみる "利権誘導型" 政治家の終焉

白川司:二階俊博の落日にみる "利権誘導型" 政治家の終焉

熊野古道の世界遺産登録など、確かに地元にもたらしたものは大きいのかもしれない―

日本の「対中意識」を見誤り、転落

 その二階氏の力が落ちるきっかけになったのが、2016年に長男の二階俊樹氏が御坊市長選に敗れたことだ。

 当時、「もうすぐ80になる」と焦っていた二階氏にとって、「次」が期待できないというのは、レームダック化を意味する。長男の御坊市長選の敗北は和歌山「二階王国」の崩壊のきっかけとなるのみならず、のちに自民党内においても「二階神話」の崩壊にもつながることになった。

 そして、盟友とも見られていた菅首相から切られて、次期総裁の有力候補である岸田文雄氏にも切られる憂き目にあった。いやむしろ、岸田氏の「二階切り宣言」は岸田文雄という政治家への評価につながり、総裁選で圧勝するきっかけを作ったと言ってもいい。それくらい二階氏は国民から愛想を尽かされていたのである。

 二階氏の誤算は、中国がそれほど日本人に嫌われていたことに気づかなかったことだ。グローバル化以前であれば、中国は脅威ではなかったが、もうそのような時代ではない。中国と一緒に自分も嫌われることになった。

 利益誘導型政治家の最後の生き残りのような二階氏はいつの間にか「国民の敵」になった。いつの時代も、引け際を間違えた政治家には、あまり幸せでない終わりが待っているのだ。

実は今回敗北した「小石河」も古いタイプの"利権誘導型"政治家であった―という白川さん解説の動画はコチラ!
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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