自国民の気持ちを平気で逆なで

 立憲民主党の泉健太代表が2月6日、北朝鮮拉致被害者である横田めぐみさんが拉致された現場を視察して、次のように語った。

「わが党にとっても拉致問題は最重要課題。改めて寄居中学校からの足どりを辿らせていただいて、起きてはならない、ありえないことが起きてしまった。めぐみさんが早くお母さんのもとに戻ってこれるように、われわれも取り組まなければいけないという思いを改めて強くした」
「被害者のご家族の皆様もご高齢になり、(めぐみさんの父親である横田滋さん、被害者である田口八重子の兄である飯塚繁雄さんなど)お亡くなりになられた方もいる。時間がない。政府を挙げて取り組んでいただきたい。与野党はない」
(いずれも、2月6日『にいがた経済新聞』より

 立憲民主党はこれまで北朝鮮のおこなった国際犯罪である日本人拉致問題について、積極的に発言してこなかった。

 それどころか、2021年9月23日には立憲民主党の生方幸夫衆議院議員が千葉県での会合で「日本から連れ去られた被害者というのはもう生きている人はいない。政治家は皆そう思っている」と、拉致被害者家族を愚弄(ぐろう)する発言をしている。

 また、同党所属で前衆議院議員の辻元清美氏が、社会党系であったときに「拉致事件はなかった」と言い放ったのはあまりにも有名だ。

 北朝鮮を擁護して、家族を失って悲嘆に暮れている自国民の気持ちを平気で逆なでできる政治家がいるのが、立憲民主党という政党である。そんな党に政権を任せたいなどと思う国民はどれだけいるだろう。

 だが、これまで拉致被害に冷淡だった立憲民主党の党代表が拉致現場を視察したのは、かなり大きな出来事だとよい。

 泉代表を中心とする中間派の、左派や一部の外国勢力を代弁するかのような現体制を変えようとしている姿勢は評価していいだろう。
立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

立民新代表の泉健太氏

いきなりスキャンダル

 新代表になったばかりの泉氏は、いきなりスキャンダルが襲われている。

 インターネット報道のChoose Life Project(CLP)に立憲民主党が1500万円もの資金を提供していたことだ。山口敬之氏が本サイトでこの問題を扱っているが、そこではこの問題が「左翼ネットワーク」とでも言うべきつながりの中にあることを指摘している。
《CLP問題~TBSと立憲民主党を結ぶ“赤い糸”》

 詳しくは山口氏の記事を読んでいただくとして、この問題がユニークなのは、それを糾弾したのが、これまで「立憲民主党応援団」かのように活動してきた津田大介氏や小島慶子氏などの左派文化人であったことだ。

 もちろん、自分の出演するネット番組に政党が支援していたから怒るというのは理解できないことではない。

 ただし、立憲民主党が左派主導から中間派主導になったとたんのタイミングであったことで、このことを知らなかった泉代表が対応に追われることになっている。

 言い換えると、この話は「左派」が現在の立憲民主党を掌握する「中間派」を攻撃していることにほかならない。「お仲間」のメディア関係者に資金提供を続けた「左派」ではなく、むしろ左派から中間派に対する揺さぶりではないのか。

 実際、泉代表は立憲民主党を現実路線に大きくシフトさせようとしており、左派にとっては都合の悪い代表だと言えるだろう。

 とくに、国家安全保障戦略やインド太平洋地域に対する積極外交など、外交・安全保障に関するワーキングチームを立ち上げて、議員の外交や安全保障政策に関する「プロ化」をはかっている点は評価すべきだろう。

 これまで立憲民主党は自公政権の政策にあからさまな反対姿勢だけを見せて、反対運動をパフォーマンス化するだけの存在だった。この党の「何でも反対」というイメージは、大手マスコミの実質的な支援のもと、政府の安全保障強化策を「危険だ」と連呼して、社会運動化するだけだったことが大きい。

 とくに共産党と連携することが多かったことで、「左翼」の色彩を強めたことは、立憲民主党の勢力拡大には大きなマイナスに働いている。その究極の結果が、2021年総選挙の共産党との選挙協力と、予想外の敗北だろう。「反自民」のみで、政権の受け皿になる気がさらさら見えないことで、徐々に離脱者が増えていったのだ。

 それだけに、第1野党である立憲民主党を、共産党から再び切り離して、現実路線に戻そうとしている泉代表の頑張りには期待が高まっていた。
立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

辻元清美氏は参院選出馬が噂されるが……

この期に及んでアベノマスク

 だが、この泉代表の頑張りを水泡に帰すような幹部がいる。政調会長の小川淳也氏である。

 小川氏は2020年にNetflixで公開されドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』に出演して高い知名度を誇るが、代表戦ではさほど目立つことができなかった。

 その小川氏がFNNオンラインでインタビューを受けている

 このインタビューを読んで驚いたのは、小川氏が昨年の総選挙での大敗を反省することなく、いまだに共産党との選挙協力にこだわっていることだ。

 しかも、泉代表の現実路線を気遣ってか、「立憲民主党を中心として、維新から共産党までの全野党の合併」という、大胆というか、呆れた構想を述べている。政治に詳しくない者が思いつきで言いそうな案を、第一野党の政調会長がメディアで大々的に発表するとは、どういうつもりなのか理解できない。

 さらに小川氏は、時事通信の「立民『愚策』、岸田首相『希望殺到』 アベノマスク再配布で論争 衆院予算委」という記事を引用して、次のようなツイートをしている。

今日の予算委員会、十分詰め寄れず忸怩たる思いもあります。しかし限られた国政の人的・財政的資源は、本当に必要不可欠な分野に、絞り混んで効率的に投入して欲しい

 54分もの質問時間の中で、布マスク再配布問題について迫ったことを「手柄」であるかのように誇ったのである。

 安倍政権がパンデミックの最中に「布マスクを配布する」とアナウンスして、マスクが市場にマスクが流通し始めてマスク不足が解消したことは記憶に新しいが、その余ったマスクの再配布について、貴重な質問時間を使ったことを誇らしげにツイートしている。

 布マスクに「アベノマスク」という名前を付け、いまだに反安倍運動を続ける朝日新聞をはじめとする大マスコミに迎合してしまっているのである。会計員が対象にするかしないかもわからない程度のことを、マスコミがさも大問題のように論じることには呆れるが、そえに追従して悦に入る議員が、第1野党の幹部で、54分もの質問時間を任せられるということには落胆すら感じる。

 泉代表がいかに立憲民主党を現実路線に戻そうとしても、小川氏のような共産党の連携にこだわる左派が上層部に存在する限り難しいだろう。そうなれば「立憲民主党は所詮、立憲民主党」である。

 泉代表は立憲民主党の現実路線について、党内左派に対して「できればリベラルの人たちはおとなしくしていてほしい」と述べているが、彼らがおとなしくしているはずもない。なにしろ、共産党と一緒にやりたいグループなのだから、「現実」に関心はないのである。

 やれやれ、先が思いやられる。
立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

立憲民主党は所詮、立憲民主党【白川司】

アベノマスクは争点になるのか(画像はイメージ)
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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