【白川 司】立憲民主党に安倍前首相を批判する資格はない

【白川 司】立憲民主党に安倍前首相を批判する資格はない

安倍事務所の補填問題

 「結果として事実に反するものがあった。改めて事実関係を説明し、答弁を正したい」

 2019年12月25日の議院運営委員会で、安倍前首相が「桜を見る会」前日にホテルで催された懇親会の補填問題について謝罪した。

 懇親会が東京都心の1流ホテルを使用したために、1人5,000円の会費ではまかなえないはずと安倍首相(当時)は野党から追及された。安倍首相は一貫して否定していたが、約1年経った昨年に、1人3,000円程度が安倍事務所から補填されていたことが発覚した。

 問題はこれが利益供与にあたるかどうかだが、安倍氏は地元でほとんど政治活動していない。それどころか選挙期間もほとんど帰れないほど多忙を極めており、それでもトップ当選が確約さているほど盤石である。

 つまり、利益供与する必要などはない立場だ。したがって、利益供与で起訴されることはあり得なかったといえる。安倍事務所側の「選挙のために差額を寄付した意識はなかった」という証言は事実だろう。むしろなぜこのレベルの問題に、東京地検特捜が出てきたのか不思議でならない。不起訴は当然であり、検察審査会にもかけられても、新材料は出てきようもなく、結果が変わることはないだろう。

 推測するに、「第3次安倍政権」を阻止したい勢力がこの問題を仕掛けたのではないだろうか。要は政局にすぎないということだ。

 政治家が懇親会など飲食を伴うイベントを主催することは多々ある。だが、そのすべてが「会費をかっちり集めて、余ったら返却し、足りなかったら再度集める」といったことをやっているとはとうてい思えない。

 また、支援者への報告会を兼ねた懇親会は支援者への報告や感謝を伝える場であることが多いだろうから、会費以上にものを集めることは、日本的な儀礼から考えると失礼と考える向きもあるだろう。

 そう考えると、政治資金規正法が実態に合っていないと考えるべきではないだろうか。そういう意味では、こういう法律を曖昧なまま運用しているのは政治の怠慢である。

 そこで、今回は他の政治家が、懇親会の「差額」について、きちんと記載しているのかどうかを調査することにした。とくに国会で安倍氏を激しく追及した側である野党の政治家の事務所がきちんと記載していないのであれば、大きな問題だろう。

野党議員の事例

 ここからは第一野党である立憲民主党議員の事例から、イベント開催について適切な記載があるか、処理がされているかについて見ていく。

(1) 黒岩宇洋議員
 立憲民主党所属の黒岩宇洋議員(54歳)は新潟3区選出の衆議院議員。民主党政権では法務大臣政務官を務めている。黒岩議員の収支報告からは、次のような疑問点が出てきた。

 2015年6月28日にバス旅行を開催しているのだが、集められた参加費が533万円であるのに対して、旅行代金の合計が564万31円になっており、支出が31万31円上回っている。この差額は事務所が負担したのではないのだろうか。もし事務所側が負担したのであれば、利益供与には当たる恐れがある。

 他議員についても同じように見ていく。

(2) 生方幸夫議員
 立憲民主党所属の生方幸夫議員(73歳)は、南関東ブロック(比例)選出の衆議院議員である。地元は千葉6区。生方幸夫後援会は2019年6月22日にバス旅行を開催している。集めた会費は合計40万8千円、支出は47万1,323円となっており、支出が6万3,323円上回っている。この差額は事務所が負担しているのではないのだろうか。

 以上2つは、支出が収入を上回り、不足分を事務所が負担したことが疑われる事例だが、記載そのものが見つからない事例も多い。

(3) 小熊慎司議員
 小熊慎司議員(52歳)は自民党をはじめ、みんなの党、日本維新の会、民進党などを経て、現在は立憲民主党に所属している衆議院議員である。東北ブロック(比例)選出で、地元は福島4区。

 小熊議員の活動報告を見ると、関連団体が「小熊慎司を囲むゴルフコンペ」などと称した親睦ゴルフコンペを催したことが画像と共に報告されている。

 たとえば、2013年10月18日には会津若松ワシントンホテルでゴルフコンペの表彰式と親睦会がおこなわれたとわかるが、小熊議員の収支報告書には、ゴルフコンペに関する収支の記載が見当たらない。

 同様に、2015年7月18日の親睦ゴルフコンペについても収支報告書にも収支の記載が見当たらない。2016年10月10日の親睦ゴルフコンペについても記載が見つからなかった。

(4) 下条みつ議員
 立憲民主党所属の下条みつ議員(65歳)は長野2区選出の衆議院議員であるが、父親が元厚生大臣の下条進一郎氏、祖父が元文部大臣の下条康麿氏という「3世議員」でもある。

 下条議員の2019年の活動報告を見ると、飲食を伴うと見られるイベントとして、1月20日の松本市新市の新年会を皮切りに、1月22日の大北地区の支援者の会、1月27日の中信地区常会の新年会、2月3日の松本市宮渕新橋新年会、2月10日の支援者の親子会、2月20日の松本地区後援会の懇親会、3月2日の中信地区支援者の会、5月31日の中北信地区講演会の懇親会、6月5日の中信地区女性部の国会見学、6月27日の中信地区支援者の会、11月25日の中信地区支援者の忘年会、12月16日の東筑後援会の懇親会、12月20日の松本市支援者の忘年会、12月25日の中信地区有志の会などが、画像と共に報告されている。これらにあたる収支の記載が報告書に見当たらない。

 さらに、1年さかのぼって2018年の活動報告を見ると(この年は地区名が書かれていないことがある)、1月16日と1月27日の支援者の会、2月1日の女性の会、2月10日の支援者の会、6月28日の中信地区の支援者の会、7月27日の納涼会、8月17日の松本地区の支援者の会、8月29日の中信地区役員の会、9月28日の支援者の会、11月19日の忘年会、11月23日の中信地区後援会の会、12月20日の松本地区後援会役員の昼食会などが催されている。いずれも収支報告には記載が見つからない。2017年も同様だった。

(5) 小川淳也議員
 立憲民主党所属の小川淳也議員(49歳)は四国ブロック(比例)選出の衆議院議員で、地元は香川1区。民主党政権で総務大臣政務官をつとめている。

 小川議員の活動報告を見ると、2017年7月6日と8月3日に「四国まんなか千年ものがたりの旅」を催しているが、収支報告書には記載が見当たらない。

 参加費をこちらで試算してみたところ、1人あたり参加費の1万1,500円が妥当な金額であることを確認した。ただ、記載がないことは、政治資金規正法に抵触する可能性がある点で、他の事例と同様だ。

同様の事案であれば同様の「責任」が生じるはずでは?

 このように一部の野党議員を調べるだけでも、収支報告書に差額が生じているもの、記載がないものが散見される。これはイベントについては議員事務所が負担することが常態化しているということを意味するのではないのか。

 もしそうであれば、野党がことさら安倍元首相が謝罪を求められて責任を追及される理由は何であろうか。実態に合っていないなら法律を実態に合わせるべきであるし、その運用が不適切だというのなら、まず党内で適切に処理するように求めるのが筋だろう。これらの議員で、安倍元首相のように地元に帰る必要がない議員がいないと考えられるので、「利益供与」として要件の可能性は、安倍元首相のときより大きいはずだ。

 以上を踏まえると、立憲民主党に安倍元首相を批判できる足場があるとは私には思えない。立憲民主党の福山哲郎幹事長が、安倍事務所の補填問題について11月27日に次のようにツイートしている。

《桜を見る会前夜祭問題。安倍前総理の国会での虚偽答弁がほぼ明らかになりました。収支報告書への記載の必要ない補填はないと言い続けてきましたが、916万円の補填があったとの報道も出ています。嘘をつき続けば、国会の審議は成り立ちません。安倍前総理は国会で説明する責任があります。》
【白川 司】立憲民主党に安倍前首相を批判する資格はない

【白川 司】立憲民主党に安倍前首相を批判する資格はない

福山氏のツイート
via twitter
 福山幹事長の言うとおりだとすると、立憲民主党の議員もこれらのことを説明する責任があるはずだ。当事者である議員はもちろんのこと、党幹事長としてもその責任について明確な説明を求めたい。その点は安倍元首相と変わることはないはずだ。
 
 よもや「秘書がやったから知らなかった」とは応えないだろう。「説明」が楽しみだ。
白川 司(しらかわ・つかさ)
国際政治評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。月刊『WiLL』にて「Non-Fake News」を連載するとともに、インターネットテレビ『WiLL増刊号』でレギュラーコメンテーターを務める。
また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。
著書に『議論の掟 議論が苦手な日本人のために』(ワック)、訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く