立憲民主党代表・枝野幸男

立憲民主党代表・枝野幸男

枝野の〝脱法〟ツイート

 立憲民主党代表の枝野幸男が、またまたやらかした。
 7月5日、東京都知事選の投開票日、ツイッターでこんな書き込みをしたのだ。

「#宇都宮#みんみんで育った私は、十八才で#宇都宮を離れてから仙台でも東京でも餃子専門店を探したが見つからず」

 九州では、豪雨により氾濫した川の濁流に街がのみ込まれ、被害が拡大していたその日、野党第一党党首が突如、呑気な餃子に関するツイートを発信したのだ。ポイントは、枝野がわざわざ付した「#(ハッシュタグ)」。
 公職選挙法は、投票日当日に選挙運動を行うことを禁じている。立憲民主党が支援した元日弁連会長の宇都宮健児への投票を促すために、あえて候補の名前を連想させる〝宇都宮〟という言葉を連呼したのだ。

 ツイッター上では、「恥ずかしくないのか」「めちゃくちゃ姑息」「自民党の議員が同じ内容で呟(つぶや)いていたら、党を挙げて批判するんでしょうね」などと、枝野の〝脱法行為〟への非難が集中した。
 枝野は記者団に対し、「他意はない」と釈明したが、あまりに不誠実な対応だ。枝野は同僚議員から、「なぜ、あんなツイートをしたのですか?」と問われ、こう開き直ったという。

「私が、あんなので票が増えると思うわけないだろう。宇都宮餃子を応援するために、宇都宮さんの名前を利用したんだよ」

 あまりに意味不明な答えに、同僚議員も絶句したという。自らの過ちを認められない枝野らしいエピソードだ。

共産党との連携

 枝野の姑息な努力の甲斐もなく、都知事選は小池百合子の圧勝で終わった。枝野は選挙直後、周辺に対し「最初から負け戦だったのに、宇都宮さんはよく頑張ってくれた」と強がってみせた。
 しかし、立憲中堅議員は枝野ら執行部の対応を批判する。

「野党第一党が都知事選で独自候補を出さないなんて考えられないこと。しかも結局、分裂選挙となった。責任を取るべきだ」

 立憲は、候補者選びから迷走を繰り返した。3年前の〝希望の党騒動〟で、自らを排除した小池に対し憎悪の念をたぎらせる枝野は、「絶対に独自候補を立てる」と公言してきた。しかし、文科省元事務次官の前川喜平に出馬を固辞され、副代表の蓮舫では小池に勝てないと断念。一時は、れいわ新選組代表の山本太郎を野党統一候補として担ごうと試みたが、「れいわ新選組公認」「消費減税」にこだわる山本との交渉は決裂した。

 そこで枝野が最優先したのは、共産党との連携だ。共産党が支援する筋金入りの左翼弁護士・宇都宮健児に相乗りすることを決断したのだ。選挙戦では異例の体制が組まれた。立憲の都連幹部は、都内に25ある選挙区の支部長を集め、こう指示を飛ばした。

「これは次の総選挙に向けたリハーサルだ。共産党といかにタッグを組んで選挙をするか、しっかり学んでほしい」

 宇都宮陣営の選対本部を衆議院の小選挙区ごとに25の支部に分け、それぞれで立憲と共産党が一体となった支援体制が構築されたのだ。ある立憲民主党の中堅議員が解説する。

「次の総選挙でカギを握るのは、共産党との選挙協力。都知事選で共産党に恩を売れば、総選挙の時に共産党は候補を各選挙区で下ろしてくれる。共産党が候補を下ろせば、票が1万票は上積みされるからね」

 つまり、都知事選の勝利などどうでもよく、共産党に媚(こ)びを売ることだけを目的として選挙戦に臨んでいたのだ。
 ところが、宇都宮支持を決めた立憲内でも足並みは揃わない。参院議員の須藤元気が、告示直前に立候補を明らかにした山本太郎への支持をツイッターで表明すると、幹事長の福山哲郎はすぐさまツイートの削除を命じた。須藤は涙ながらに立憲執行部への不満を訴えた。

「僕らも世代交代したいんですよ。もう上の人たちに引退してもらいたいんですよ。『消費税減税とかそういうこと言うな』とか何が言うなだよ。いいじゃないですか言ったって」

 内輪揉めを演じたのは立憲だけではない。宇都宮を「左翼的志向が強過ぎる」として自主投票を決めた国民民主党は、対応が3つに分かれた。幹事長の平野博文や小沢一郎ら、立憲と平仄(ひょうそく)を合わせることを重視する議員らは宇都宮陣営に応援に入った一方で、元国交相の馬淵澄夫は山本の応援演説に立ち、「立憲、国民、無所属も含めた40人以上が水面下で山本の応援をしている」と明かした。「合流しても立憲には絶対に行かない」と公言する元外相の前原誠司は、日本維新の会が推薦する元熊本県副知事の小野泰輔陣営に加わった。

 いつしか野党にとって都知事選は、野党再編の主導権をめぐる〝2位争い〟になっていたのだ。相変わらずの内輪の足の引っ張り合いに、さすがの野党支持者たちも愛想を尽かす。
 各種出口調査では、立憲支持層の3割以上が宇都宮ではなく、小池に投票したことが明らかになった。結局、宇都宮の得票数は小池の4分の1以下。共産党に魂を売った結果がこれなのだから目も当てられない。3位の山本の票を合わせても、小池の半分にも届かないという野党総崩れの惨敗だった。

れいわの影響力低下

 昨夏の参院選で〝れいわ旋風〟を巻き起こした山本太郎は、宇都宮の後塵(こうじん)を拝する致命的な敗北を喫した。山本は今年1月、次の総選挙において全国の百選挙区に候補者を擁立すると宣言し、実際に1次公認として立憲や国民民主、共産の現職がいる選挙区に候補をぶつけるという強攻策に打って出ていた。「消費税5%」という共通政策に他党も同調しなければ、選挙区で競合させるとの脅しをかけていたのだ。
 都知事選を終えて、枝野は得意気に周辺に語った。

「山本太郎の熱は、まったく広がらなかったな。そもそも同じ党に、二度も続けて追い風が吹くなんて、あり得ないんだよ」

 枝野は山本が3位にとどまったことが嬉しくてしかたなかったのだ。

 一方の山本にとっては、今回の敗戦は大誤算だった。他の野党を敵に回し、野党共闘をぶち壊してまで立候補したのは、さすがに73歳という高齢で、3度目の挑戦となる宇都宮の票は上回れると目論(もくろ)んだから。これで山本は野党再編における主導権を失い、枝野が消費税5%に応じる可能性はゼロになった。そうなれば、山本も立憲への敵視をさらに強めざるを得ない。都知事選でも再現された野党同士の内ゲバが、間違いなく次の総選挙でも繰り広げられることになるのだ。

 政権幹部は高笑いする。
「野党は本当にどうしようもない。このままだと次の総選挙では日本維新の会が躍進するだろうな。年内の解散も現実味を帯びてくる」

暴走する玉木

 7月9日、国民民主党本部の代表室に幹事長の平野博文が血相を変えて飛び込んできた。

「代表、本当に須藤元気を〝たまきチャンネル〟に出演させるんですか?」

「たまきチャンネル」とは、国民民主党代表である玉木雄一郎が〝永田町のユーチューバー〟として発信するネット番組である。玉木は、この番組に、立憲に離党届を出した須藤を出演させようとしていたのだ。

「そんなことをしたら立憲にケンカを売ることになります。合流はできなくなりますよ」

 懇願する平野に対し、玉木は「別に問題ないでしょう」などと抵抗したが、結局、収録は土壇場で取りやめとなった。
 平野が言う「合流」とは、水面下で協議が再開されている立憲と国民民主の政党合流のことだった。前回の合流協議は、今年1月、合意直前で玉木が〝ちゃぶ台返し〟をしてご破算となった。年内解散をめぐる観測が飛び交うなか、国民民主党内では「このまま総選挙に突入すれば壊滅する」との危機感から、玉木に対して今回こそは合流を実現するようにとの圧力が強まっていた。
 6月下旬、煮え切らない態度の玉木に対し、国民民主党の重鎮・小沢一郎が突き上げる。

「何が望みなんだ。はっきり言いなさい。どういう条件だったら合流をのむんだ」

 玉木は青ざめた表情で囁(ささや)くように答える。
「党名です」
 国民民主の代表というポジションほど、玉木にとって居心地の良い立場はなかった。カネは自由に使えるし、独自の政策を発信して目立つこともできる。立憲に合流すれば、所詮は枝野の手下に成り下がるだけ。だから、玉木は枝野が絶対に譲れないと知っていた〝立憲民主党〟という党名の変更を合流の条件に挙げたのだ。

 玉木の立憲に対する嫌がらせはこれだけではない。立憲を離党した山尾志桜里だ。山尾は憲法論議に後ろ向きな立憲執行部の姿勢を痛烈に批判した上で、3月に立憲を離党。その山尾が6月16日に突如、国民民主に入党届を出したのだ。このことは山尾の秘書も知らず、幹事長の平野にすら根回しがなかった。玉木が秘密裏に山尾を一本釣りしたのだった。
 枝野は怒りに身を震わせた。

「国民民主が山尾を入党させたら、うちとの合流は拒絶したと見なす」

 一方、強気を貫いてきた枝野も、ここにきて窮地に陥(おちい)っていた。枝野独裁体制への不満が党内で高まっていた中で、都知事選に惨敗。低迷を続ける支持率に〝餃子ツイート〟の失敗も重なり、求心力はガタ落ちしていた。
 9月には結党以来、初めてとなる立憲の代表選挙が行われるが、党内には執行部交代を求める声が公然と上がっているのだ。立憲民主党内の最大派閥である左派グループを率いる衆院副議長・赤松広隆は「代表選挙ではグループの逢坂誠二政調会長を担いで、枝野・福山下ろしをする」と秘かに企んでいた。

 枝野は、こうした党内の批判をかわすためにも、今回こそは国民民主との合流を果たしたいと考えていた。そのため、枝野は「立憲を存続政党として、そこに国民民主を合流させる」という1月までの方針を転換し、「立憲も国民民主も解散し、新党という形で合流を果たす」と譲歩を見せたのだ。
 ところが、玉木は〝立憲の天敵〟ともいえる山尾志桜里を国民民主に入党させ、さらに党名変更まで迫ってきていた。それに対し、反執行部の赤松グループは「党名変更は絶対に認めない」と強硬姿勢のまま。党内基盤が弱い枝野は〝玉木の嫌がらせ〟と〝赤松の突き上げ〟に板挟み状態に陥り、最近では「代表選はやりたくない」と弱音を漏らしているという。

安住閣下の不満

 6月21日、〝ちびっ子ギャング〟こと立憲国対委員長・安住淳の姿は熱海温泉にあった。新型コロナで国民が自制的な生活を余儀なくされるなか、こっそりと野党会派の国対役員と慰労旅行を楽しんでいたのだ。
 夜の宴会で乾杯の挨拶に立った安住は、こう毒づいた。

「オレには許せない奴が2人いる。玉木と山尾だ」

 安住の目標は、民主党を復活させて自分が再び主要なポストに就くことだった。だからこそ、合流に後ろ向きな玉木が許せなかったのだ。そして、自民党と裏で握る安住の古い〝国対政治〟を公然と批判した山尾は、忌々(いまいま)しい存在だった。自分で望んで温泉旅行に来たくせに、この夜の安住は終始不機嫌で、「宴会に女を呼べ」などと散々くだを巻いたあげく、8時過ぎに一人寂しく部屋に戻ったという。

 その安住の肝煎りで6月下旬に立ち上げたのが「河井買収事件実態解明チーム」だ。買収容疑で逮捕された前法相・河井克行と妻の案里について、野党として実態を解明するためのヒアリングを行うという。安住は記者団に対し、「自民党から案里氏側に資金が提供された前後に、克行氏が頻繁に安倍総理大臣と面会しており、多額の資金が拠出されたことに、何らかの関連があると疑わざるを得ない」と語った。

 しかし、東京地検特捜部が各所に家宅捜索を行い、関係者への事情聴取を行った上で、夫妻の身柄を押さえている中で、野党がどうやって実態解明をしようというのか。安住は実態解明チームのメンバーに秘かに指示を飛ばしていた。

「とにかくマスコミに取り上げられることをやれ」

 実態解明チームは安住の指示通り、毎週火曜日に2時間近く、法務省や総務省の官僚らを呼びつけ、ヒアリングを行っている。一体、どんなやりとりが行われているのか。
 6月30日の会では、チームのリーダー役の国民民主の国対委員長、原口一博が、法務官僚を攻め立てるような口調で質した。

「法務省! 不起訴と起訴猶予の違いは何なんだ!」

 国民民主の渡辺周副代表も続く。

「法務省! お金を受け取った側はどんな罪に問われるんだ!」

 ネットで調べればすぐに解決するような質問が延々と続くのだから、付き合わされる官僚たちが気の毒でならない。立憲のベテラン議員は安住のやり方を嘆く。

「安住の価値基準は、マスコミに取り上げられたかどうかだけ。予算委員会でどんなに良い質問をしても、マスコミに取り上げられなかったら次の出番はなくなる」

 まともなマスコミは、野党の茶番など取り上げるはずがない。ゆえに、不機嫌なちびっ子ギャングの八つ当たりは今日も続くのであった。
氷川 貴之(ひかわ たかゆき)
ジャーナリスト。大学卒業後、取材記者として日本の政界をウォッチ。とりわけ野党の動向に注目し、月刊『WiLL』を中心に執筆。最新著書に『日本の政治をダメにしたのは誰だ!』(ワック)。

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