ナザレンコ・アンドリー:「政治は右」でも「経済は左」政...

ナザレンコ・アンドリー:「政治は右」でも「経済は左」政策にご注意!

 日本で「右翼・左翼」と分類する際、たいていの場合はその人の政治的スタンスに対して言っており、経済的なスタンスに関しては軽視される傾向が強い。

 実はこの現状はかなり危険だ。なぜならば、「マル経」とも言うようにマルクス主義は本来、経済に重きを置くイデオロギーであり、なおかつそのマルクス経済学を信じた社会主義国家たちは経済破綻のせいで滅亡しているからだ。

 当然愛国心や正しい歴史認識を訴える「政治的に右」なリーダーであっても、経済政策が左翼的であれば、そのリーダーの下では国は必然的にソ連やベネズエラと同じ運命をたどってしまう結果になりかねない。そして、残念ながら野党はもちろん、自民党内でも「経済は左」(資本主義に反するような思想を持っている)という政治家が少なからずいる。アメリカの共和党やイギリスの保守党のような「経済的にも政治的にも根本から右」の政党がないことは日本の大きな問題であろう(中道左派と極左しかいなければ左傾化をさけられず、少しずつ極左のほうにずれていくものである)。

"ルサンチマン"に基づいた経済施策

 では、左翼の経済観の何が問題なのか。まず、その思想が主にルサンチマンに基づいていることだ。

 「社会構造そのものが不公平だから、他者が我々より金を持っている。おかしい。私たちのルールは法律より公平で公正。私たちには他者の金を貰う権利がある。相手が自分で富を分けてくれないなら暴力も辞さない」。こんな考え方をするのは、マフィアか共産主義者だ。

 だからロシア語で共産主義思想を簡単に説明する時に「отнять и поделить」と言う。その言葉の意味は「奪って山分けにする」。1917年にロシア帝国で起きた革命も一応「社会正義のため」とされていたが、略奪したいという理由だけで赤軍に入隊していた人も少なからずいた。

 「それって昔の話でしょ」と思う方もいるかもしれないが、現代の共産主義者も自分より成功している人への嫉妬・憎悪が見え見えだ。例えば、米民主党のアイドルであるアレクサンドリア・オカシオ=コルテスがMet Galaというイベントに参加した時に、背中に大きく「Tax the rich = 金持ちからもっと税金取れ!」と書いてあったドレスを着ていた。本来ならば「Save the poor = 貧困者を助けよ」のほうがずっと倫理的に正しいメッセージであるはずだが、共産主義者という人間は貧困者がいない社会ではなく、金持ちがいない社会を目指しているから、いつも救済より先に処罰を考えている。

 そして左翼は「富の再分配」と称して強奪・略奪ができても、その富自体を築くことが絶対にできない。(それについてマーガレット・サッチャーの名言がある:The problem with socialism is that you eventually run out of other people's money – 社会主義の問題は、早かれ遅かれ他人の金が尽きること)。
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ナザレンコ・アンドリー:「政治は右」でも「経済は左」政策にご注意!

歴史上共産主義者は「ルサンチマン」を利用して支配してきた―
 また、左翼は「貧困より格差」を問題視する。機会の平等がしっかり保障される社会では実力によって格差が発生するのは当たり前。逆に言うと、(正当な)格差がない社会は正義がない社会とも言える。いくら頑張っても「結果の平等が大事」と言われ、自分の労働の成果が勝手に持っていかれて他人に配られたら、結局誰もが努力しない社会になってしまうことは、ソ連の実例からとっくにわかっていることだ。

 例を挙げると、医療は全て無料で医者の月収は一定額だったら、正義感がよっぽど強い人じゃないと、そのうち自然とできるだけ少なくの患者を診るようになる。学校では皆の評価が平均点にされていたら、勉強しない人が得することになり、結局皆は勉強を諦める。左翼が訴える社会制度はまさに「努力が報われない制度、努力すればするほど損する制度」であり、進化に必要不可欠の自由競争を否定するためいつまでも発展できない(どころか、衰退する)。

「働かなくなる」有害な制度

 今の日本でも社会主義らしくて有害な制度がある。働けば罰金(所得税)、働かなきゃ賞金(生活保護)というシステムだ。私の友人の奥さんも、「週15時間以上アルバイトしていたら家庭の年収がある線を超えちゃうから税金が高くなる。なので、働きすぎないように気を付けている」と言っていた。

 要するに働く機会も意欲もあるのに、累進課税制のせいで敢えて経済活動しない(できない)・富を築かないことを選択するということだ。これは経済のためにも社会のために弱者のためにもなるはずがない。つい最近でも野党が「年収1000万円以下の家庭は所得税を免税し、金持ちに負担してもらう」という政策を掲げ、人々のルサンチマンに訴えようとしている。もっとも、そもそも政権が取れないと思っているのでこんな政策を掲げたという可能性は否めないが…。
 最低賃金制も似たような罠だ。これについて米国のわかりやすい漫画がある(下記)。
 マルクス主義者は経営者・資本家を敵視し、企業が余剰価値(マルクス用語)を利益に回すことを搾取と呼ぶ。ところが、どんなビジネスも当然ながら商売であり、ずっと赤字では続くことができないのはもちろん、危機や災害に備えて一定額の保証金を確保することや、新商品開発や規模拡大に使える資金をプールしておくものだ。

 日本共産党は最低賃金を1500円にするよう訴えているが、現在最低賃金で働いている労働者のうち、1時間に1500円以上の付加価値を生み出している人はどれほどいるのか検証しているのだろうか?それとも、企業側が損までして1500円以下の付加価値しか生み出せない人を雇い続けると考えているのだろうか?当然企業側はそのような雇用を続けることはできないので、もし共産党の政策が実現したら、労働時間及び手当の削減、さらにはリストラや業務の自動化などが行われる未来が見える。

 「ブラック企業が潰れるだけだし、別にいいじゃない」と言う人もいるが、潰れた企業の社員はどうやって生活費を稼いだらいいのか?その家族の生活は?同一労働に対してより高い賃金を支払えるビジネス・モデルが生まれる保障はないし、もし生まれるにしてもそれまでどれほどの時間がかかるかは全く予想できない。経済成長が順調な時ならまだしも、デフレと停滞が続いている時にこうした政策は雇用を脅かす効果しかもたらさないだろう。日本のすぐ隣に同じことして失敗した国の例もある。(雇用を危険にさらさずに労働者の生活をよくしたければ、消費税減税のほうが有効的であろう)。
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ナザレンコ・アンドリー:「政治は右」でも「経済は左」政策にご注意!

企業の実情を無視した「最低賃金制度」は愚策だ―

必ず「経済政策」に注目せよ

 もちろん国家が市場に全く介入すべきではないとは思わない。なぜならば、巨大な資本にとっては自由競争よりも独占のほうが安全で安定だから好ましく、優位を使ってライバルにアンフェアな圧力をかけたり(ダンピング)、ライバルがないのをいいことに消費者と労働者に不当な負担をかけたりすることもあるからだ。独占禁止法でそういう事態を防ぎ、機会の平等を保障することは国家の大事な役割だ。

 しかし、だからと言って税負担を増やしてばかりでは誰も得しないし、「お金持ちだけに課税」と言ってもその金持ちが損した部分を下の人から取ろうとしたり、国外へ資産を移行させたりすることも十分ありえる(世界一石油を持っているベネズエラで飢饉が起きた理由は石油産業の国有化と過剰な課税なdのだ)。

 本当に社会福祉に貢献したいのであれば、いかに現在ある富を強制的に再分配できるかではなく、いかに経済成長を成し遂げることでその富を増やせるか考えるべきだ。そして歴史が何度も示したように、健全な成長は市場原理を重視する自由主義の下でしか起きない(中国の例を挙げる人もいるが、中国もマルクス的経済思想を捨てて資本主義を導入してから急速な経済成長できたことを忘れないでほしい)。

 確かに資本主義にも問題はあるし、しばしば経済危機も起きるが、共産主義はそのものが一つの大きな問題で、導入国は常に危機的な状況にある。コロナで大きな打撃を受けている時期だからこそ、忘れられつつある資本主義の重要性を再認識し、そのためには政治家を判断するときにその「政治的スタンス」のみならず、「経済は左」という人を見極めて選択を行うべきであろう。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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