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ナザレンコ・アンドリー:「まん防」再来の恐怖――コロナ脳が日本を殺す

何のためのワクチン接種だったのか

 1月21日から、13都県に新型コロナウイルスの「まん延防止」措置が適用される。しかし、この2年間で実施した「まん延防止等重点措置」「緊急事態宣言」の有効性の検証はキチンとなされたのだろうか?むしろこの措置や過剰な行動制限がもたらす経済的ダメージで企業倒産の件数が増え、自殺者やDV被害者が増加したりする中で、東京都をはじめ多くの自治体が未だに人流抑制のみに頼ろうとしていることに驚きを覚える。

 この流れで一番疑問に思うのは、「何のためのワクチン接種だったのか」ということだ。一般常識だと思うが、ワクチンは感染しないように打つものではない。感染した場合に無症状ないし軽症で済むように打つものである。つまり、感染してもいい状態をつくることが接種の目的だったはずだ。私自身、コロナ「ごとき」を一ミリも恐れたことなかったが、2021年の9月にモデルナの2回目接種を終えた。20代であるため、そもそも発症の確率は治験中のワクチンの副反応が起こる確率よりずっと低かった(発症したとしても副反応より軽い症状で済んだ可能性は大きい)。しかし、より大きなリスクを取ることにした。

 その理由は、政府が接種率と感染者数にこだわっていて、接種率が80%を越えれば、やっと何度も繰り返される緊急事態宣言発令の悪循環を断ち切れると信じたからだ。

オミクロン株は「自然のワクチン」

 ところが、今回の蔓延防止措置適用で、その期待が完全に裏切られた。しかも、2回接種を受けた後もオミクロン株に感染する人が相次ぐという理由で、ワクチンの2回接種や検査での陰性証明を条件に飲食店やイベントの人数制限をなくす「ワクチン・検査パッケージ」も停止されたのだ。それを受けて、「日常を取り戻すため」という理由のみでワクチンを打った私は、その行動に意味がなかったと確信し、3回目の接種を断念した。

 もともと、オミクロンはデルタ株より感染力が高いものの、毒性が低いとされている。イギリス保健所(UK health security agency)が57万5916件の例を調査した結果、オミクロン株に感染した人の入院率がデルタ株に感染した人と比べて50~70%も低いことがわかった(参照記事)。南アフリカのプレトリア大学の研究では、他の株の波と比べて、オミクロン株による死亡率が75%も低下したという結論が出ている。本来の株でさえ、死亡者の平均年齢が79歳以上だったというのに、リスクがさらに下がったという。「ワクチン普及のおかげだ」と主張する人もいるが、ワクチンに対する不信が極めて高いロシアでも、モスクワ市内で感染者数が1週間で倍増しても、病床使用率への影響がほとんどなかったと市長が発表した。

 毒性が比較にならないほど低いのに、オミクロンに感染した方は、他の既存株に対する免疫も付くとされている。これを考えると、オミクロン株はコロナ禍を終わらせてくれる救世主にすら思えてしまう。まさに、無料で広まっている「自然のワクチン」みたいなものだ。

不要な「コロナ特別視」の犠牲者たち

 ところで、日本では「無症状に注意しましょう」や「区別がつきにくいから、風邪みたいな症状が出たらコロナを疑いましょう」といった言説も何度も聞かされたが、こうした主張には強い違和感を覚える。そもそも「風邪」という単独の病気は存在しておらず、何かしらのウイルスによって引き起こされる症状を「風邪」と呼んでいるだけだ。風邪にかかった時、一々検査を受けたりしない。症状がただの風邪と変わらないなら、どんなウイルスが原因であろうが、風邪扱い(百歩譲ってインフルエンザ扱い)でいいのではないだろうか。

 コロナの"不要な特別視"のせいで犠牲になる方もいる。去年の8月、千葉県柏市の妊娠29週の30代女性が、コロナに感染していたため入院先が見つからないまま医者不在で出産し、新生児が死亡した事件が話題になった。これはコロナのせいで失われた命なのか――いや、危険性を過大評価してコロナだけを特別視する風潮のせいで失われた命だ。その時点で5類への引き下げが実現していれば、問題なく入院できたはずだ。

 そろそろ国民が恐怖症を克服しないと、このような犠牲が相次ぐことになる。コロナウイルスは自然現象だが、コロナ禍というのは完全に「人災」である。制限があるため入院できず死ぬ人、破産して経済的な理由で自殺する人、精神的苦痛を抱き自殺する人、修学旅行にすら行けず子供のころにしかできない楽しみを奪われた子供、家から出られなくなったせいでDVから免れない人……これらの人々はコロナではなく、コロナ脳の犠牲者である。
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1月20日「ステイホームなんか必要ないと思う」と発言した分科会の尾身会長。たまにはいことを言う

政府、自治体、分科会――後手に回り続ける「コロナ対策」

 さらに言えば、政府や自治体(特に小池都知事)が強いている対策は、逆効果のものが圧倒的に多いと思う。

 たとえば、すぐ思い浮かぶのは「減便要請」だ。今の便数でも満員電車が日常化してしまっている東京で減便すればどうなるか。満員電車がさらに増え、より密な状態が発生してしまうことは、幼稚園児にでもわかるかと思っていたが、実際に東京都はJR東日本にこうした要請をしたわけだ。案の定、密度が高まったためすぐに解除したが、こんな簡単な予測すらできない都の統治能力も疑われるし、他の密を招く政策を諦めていない時点で学習能力も疑われる。

 また時短要請の話も同じだ。よく飲み屋に行く私はその逆効果を目の当たりにした。平日は、もともとバラバラの時間帯に来店していた常連さんは、閉店時間や酒類提供時間に間に合うために同じ時間帯に来るようになり、本来避けられたはずの密が発生。土日は、本来7時から営業していた店が、酒提供時間の制限ができたため、1時から営業を始めるようになった。そうなると、明日の仕事などを気にして夜遅くまで飲めなかった人たちも来やすくなり、より早い時間から飲み始め、店内にいる時間も延びた。

 休業要請でも、1日7万円で乗り切れる店は喜んで協力したものの、その金額ではやっていけない店は営業を続けた(自営業者や店員にも家族がいて、生活費を稼がないと生きていけないのだから当たり前の話だ)。そうして営業している店の数が減ると、もちろん別々の店に通っていた人たちが、同じ場所に集まるようになり、余計な密が発生するようになった。

「(要請に)従わない者はより強く取り締まればいい」と思う人がいるかもしれない。しかし、そんなことが可能なら、アメリカの禁酒法だって成功しただろう。だが、どんな国の禁酒法も成功した例はないし、ロックダウンでコロナを完全に閉じ込めることができた国もない。そもそも、「力」と「時間」を費やしている方向が間違っているのだから。

 われわれは2年以上"コロナ怪談"を聞かされて、恐怖を覚えるように躾けられてきたが、分科会の言うことに従っても出口がまったく見えてこなかった。そろそろ、最新データに基づいてコロナの危険性を再検証し、パニックを煽る扇動に耳を向けることをやめて、分類を5類に下げた上で「ウィズコロナ」の世界を精一杯生き始めたらどうだろうか。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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