内閣支持率"9ポイント下落"の衝撃
今年に入って支持率の下落傾向が止まらない菅政権について、自民党内では「このままでは解散総選挙で惨敗する」「菅首相の元では総選挙を戦えない」という声が、先月来ジワジワと高まりつつあった。
そんな中、日経が「内閣支持率9ポイント下落」という極めて衝撃的なデータを発表した事で、自民党内のごく一部の関係者の間で囁かれていた「菅下ろし」が、一気に現実味を増した。
[日経 7/25 20:00]
日本経済新聞社とテレビ東京は23~25日に世論調査を実施した。菅義偉内閣の支持率は前回調査の6月から9ポイント低下の34%で、2020年9月に政権が発足してから最低となった。政府の新型コロナウイルスワクチンの接種計画について「順調だとは思わない」との回答が65%と6ポイント上昇した。
菅内閣の支持率はこれまで今年5月の40%が最低だった。40%を最後に割ったのは安倍晋三前内閣だった20年6月の38%で、このときは翌月に40%台を回復した。
34%という水準は7年8カ月続いた第2次以降の安倍前政権で最も低かった38%も下回る。民主党政権だった12年11月以来の水準となる。
~以下有料会員限定記事~
_________________________________
世論調査は、日経、産経、朝日、読売といった全国紙が、系列テレビ局と組んで定期的に行っている。
各社の世論調査の中で日経とテレビ東京によるものは、永田町では比較的中立で党派性と恣意性が低いとみなされてきた。
その「信頼性の高い」世論調査で、内閣支持率が10ポイント近く下げて3割台前半まで落ち込んだだけで、政局に与えるインパクトは甚大だ。
しかも不支持率や政党支持率との関係など、データの詳細を見れば見るほど、永田町の住民にとっては「看過できない決定的な傾向」がはっきり示されていた。
特に関係者が注目しているのは、4つのポイントだ。
「菅下ろし」が起きかねない4つのポイント
内閣支持率が、前回6月の43%から9ポイントダウンの34%。永田町では、内閣支持率が4割を切ると政権に黄色信号が灯る。
一方「菅内閣を支持しない」と答えた人の割合、いわゆる「不支持率」は7ポイント増えて57%。
57という数字は、まず絶対値として相当深刻だ。さらに関係者が注目したのが支持率と不支持率のバランスだ。
これまで「不支持が支持の倍を超えた」政権はほぼ例外なく、極めて短期間のうちに崩壊している。
支持率が上がっても不支持率が上がらなければ、その政権は「土俵際で踏ん張っている」とみなされ政局にはなりにくい。
しかし支持率が大きく下がって、同時に不支持率が目に見えて上がると、その政権は「国民に見放された」という印象が極めて強くなる。
今回は支持率は9ポイントという大幅ダウンで、不支持率も7ポイントアップ、差し引き16ポイントもの「転落」となった。
この傾向が続けば、次回は支持率の4ポイントダウンと不支持率の3ポイントアップで「支持30%不支持60%」となる。こうなれば「即政局」「菅退陣」という破滅のコースに突入する。
ある永田町関係者は、「導火線に火がついた状態」と表現した。
一方、永田町では「内閣支持率」と「政党支持率」を足し合わせた「青木率」も注目される。
「参院のドン」と呼ばれた自民党の青木幹雄氏がたびたび指摘した事で知られる青木率は、永田町では「50を割り込むと総選挙で惨敗する」と信じられている。
実際青木率が50を割り込んだあとで、政権を維持できた内閣はこれまで一つもない。
青木率50を「ご臨終」とするならば、その一歩手前の数値として、「青木率60」は「重体」「危篤」だ。
戦後のデータを検証しても、青木率60を割り込んだ政権は、ほぼ例外なく、3ヶ月以内に何らかの形で息絶えている。
さらに深刻だと受け止められているのが、「内閣支持率(34%)が自民党支持率(38%)を下回った」という事だ。
これは、何を意味するかと言うと、
「菅首相では総選挙は戦えない」
→「しかし政党支持率では、自民は野党を抑えてダントツ」
→「総裁を代えれば勝てるはず」
という、「菅下ろし」を指向する声が高まる条件が揃ってしまったことになる。
「なぜ菅内閣は失敗したのか」
という議論が密かに始まっている。議論の柱は「政局の失敗」と「政策の失敗」だ。
「政局の失敗」は、今年に入ってからの菅首相のコロナ対応への批判だ。
小池百合子都知事に翻弄されて東京に緊急事態宣言を出し、オリンピックを無観客にした事。国民を愚弄し続ける西村康稔大臣の続投。
菅首相はこれまで「政局に強い」「決断力がある」という印象を持たれていただけに、自民党支持層の落胆は大きい。
「政策の失敗」の柱は、何といっても保守層の離反だ。ウイグル人権決議の蹉跌、二階幹事長の文在寅訪日要請など、保守層が脊髄反射する「中国」「韓国」問題での弱腰。
さらに、LGBT理解増進法の成立に固執した稲田朋美元防衛相らのリベラル展開が追い討ちをかけ、「左傾化した自民党にお灸を据える」という空気が、鉄板の自民党支持層にまで急拡大した。
「芯を食った」日経解説記事
「似て非なる保守政党 自民党と共和党の現在地」と題したこの記事は、自民党とアメリカの共和党を、保守という観点から比較したものだ。
そして共和党は保守層の支持をガッチリと維持しているのに対して、菅自民党からは保守層が離れつつある事を、データで示した。
「日本経済新聞社が25日に発表した7月の定例世論調査で、菅内閣の支持率は34%と昨年9月の発足後、最低を更新した。自民支持層の支持率も63%で、最も少なかった。2012年の第2次安倍政権以降の内閣支持率の上下をみると、自民支持層のそれと連動している。内閣支持率が下がるのは自民支持層が距離を置くのも一因だ。」
「20年米大統領選の米メディアの出口調査によると共和支持層の94%がトランプ氏、民主支持層の94%がバイデン氏に投票した。」
「自民党はかつて『社会党の政策を3年遅れで取り入れてきた』と言われた。今の菅政権も政府による給付金の支給や最低賃金の引き上げなどリベラル色の濃い経済政策を踏襲する。政策全般で保守もリベラルの票も取り込もうとするのが自民党の特徴だ。これは自民党の強みであり、時には弱みにもなる。」
自民党支持層が離れてしまえば、菅政権に未来はない。これまで一貫して菅首相を支持してきた永田町関係者は昨日、こう漏らした。
「五輪の興奮が収まった8月中旬頃、自民党内から、政局の火蓋が切って落とされるのではないか」
1966年、東京都生まれ。フリージャーナリスト。
1990年、慶應義塾大学経済学部卒後、TBS入社。以来25年間報道局に所属する。報道カメラマン、臨時プノンペン支局、ロンドン支局、社会部を経て2000年から政治部所属。2013年からワシントン支局長を務める。2016年5月、TBSを退職。
著書に『総理』『暗闘』(ともに幻冬舎)、新著に『中国に侵略されたアメリカ』(ワック、2021年7月下旬発売)。