【安積明子】菅外交:真理子夫人の見事なデビュー

【安積明子】菅外交:真理子夫人の見事なデビュー

via youtube
 10月18日から21日までベトナム・インドネシアを訪問した菅義偉首相に同行した真理子夫人の所作が話題になっている。こういう時は何かと前任者と比較されるものだが、真理子夫人も昭恵夫人と比較された。たとえば出発の政府専用機に乗り込むため、タラップを上がった時だ。

 昭恵夫人は安倍晋三前首相と手を繋ぎ、機内に乗り込む前に夫婦で笑顔で手を振った。しかし真理子夫人は手を振らず、見送る人たちにお辞儀でもって応えている。メディアはこの差を報じたが、お辞儀について詳しく報じたところはない。我々が普段、デパートや飛行機、新幹線などで目にするお辞儀とは違うのだ。さてこの意味、わかります?

 随分前になるが、今は亡き父方の大叔父からこんな話を聞いたことがある。
「“台湾の今”を報じるNHK・BSの番組を見ていたら、日本による占領時代に小学校の校長先生の家でお手伝いをしていたおばあさんが出てきた。そのおばあさんが当時の話をし終わった後、スタッフを見送ってお辞儀をしたんだけど、はっとしたんだよ。昔の日本の女性のお辞儀だった」

 当時は「何のこっちゃ?」と思ったけれど、今ならわかる。背中をまっすぐに上体を倒すためにお尻を突き出すような「マナー講師が薦めるお辞儀パターン」ではなく、下げる頭の上に相手に対する敬意や礼儀を載せたようなお辞儀だ。大叔父はこうも言った。

「最近では田舎以外では見かけなくなった日本人のお辞儀だけど、台湾には残っていたんだね」

 とはいえ、真理子夫人はお辞儀だけしていたわけではない。10月20日にはインドネシア大統領夫妻とともに、4人で官邸のバルコニーで手を振っている。菅首相と大統領夫妻が手を振るのを見て、ちょっとはにかんだように手を振る真理子夫人の所作は、失礼ながら、なんとも可愛らしく見えた。

 そして大統領官邸を去る時、菅首相がイリアナ夫人への挨拶を忘れてそのまま車に乗り込もうとしていたのに気づき、真理子夫人がトントンとその背中を叩いたのも微笑ましかった。

 真理子夫人は「常に夫の後ろに下がって目立たなくしている妻」というふうに報道されているが、それは正確ではない。夫が見えていないところに気を配り、サポートしているのだ。昭恵夫人のように「自分らしい生き方」を求めるのも良いだろう。

 だが、真理子夫人のように夫の生き方に沿い、その夢の実現を自分の夢とするという生き方もまた、素敵な女性の生き方だ。令和の時代にはどちらの生き方も、等しく尊重されるべきだろう。そういう意味で「令和おじさんの奥さん」は、見事な外交デビューを飾ったといえる。
 (3189)

安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く