【島田洋一】細野豪志議員の正論

【島田洋一】細野豪志議員の正論

林立する処理水のタンク
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 廃炉作業が進む福島第一原発の敷地内に、汚染水を浄化した処理水のタンクが林立している。来年秋にも満杯になるという。日本政治における意志の欠如、行動マヒを象徴する光景である。

 無害化された原発処理水は海洋放出する、が国際常識である。ところが日本の政治家の多くは「世論の反発」を恐れ、常識を口にできない。立憲民主党の枝野幸男代表のように「韓国と相談すべきだ」とまで言う、倒錯した「国際的視野」の持ち主もいる。

 「安全と安心は違う。安全であっても風評被害が心配」が口癖の政治家やメディア人も多い。呆れた責任放棄である。風評とは誤った情報であり、それを正すのが彼らの役目だからだ。無責任の連鎖の結果、無意味な貯蔵タンクが並び立ち、かえって風評を増幅させている。

 武漢ウイルス対策でも政府は、「豊洲市場は危険」という風評を煽って都知事になったような人物に振り回されてきた。心ある政治家が立って風評と闘う勇気を示さない限り、日本は衰亡に向かうばかりだろう。

 たとえばトランプ前米大統領なら、何の躊躇もなく処理水を海洋放出すると宣言し、実行したはずである。そうした姿勢が熱烈な支持層を生んできた。

 ホームランバッターは空振りも多い。積極的に打ちに行くからである。日本の政治家の多くは、常にフォアボールを狙い、見逃し三振を繰り返す三流打者に似ている。

 こうした趣旨をツイッターに書き込んだところ、自民党会派に属する細野豪志元環境相が、それをリツイートした上で次のように論じていた。

 「多くの議員に海洋放出に賛同するよう呼びかけてきたが、積極的に発言する人は少ない。世論の交通整理をするだけなら政治家は要らない。国民は個別の政策以上に政治家の覚悟を見ている。少なくとも私はそう信じている」(3月8日)

 その通りだろう。実際細野氏は、その数日前、日本記者クラブでオンライン記者会見を行い、こう主張していた。

 「選択肢は海洋放出しかない。政府が責任をもち、早急に決断することが福島の復興にとって重要だ」「処理水は海洋放出して問題のないレベルになっている」「『汚染水』という言葉を使った、デマを助長するような報道はやめてもらいたい」「韓国も排出している。福島の処理水を全部流しても、フランスが流す処理水の1ヵ月分に満たない。福島の排出にだけ反対するのはフェアではない」「温暖化を止めて、石炭火力を止めて、原発を動かさないという選択肢はない。三つは同時に成り立たない。安全性を確認された原発の再稼働は必要だ」

 いずれも正論である。煮え切らないイメージのあった細野氏だが、こうした言動を続けるなら大いに期待できる。
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正論を唱えた細野議員
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 昨今、女性議員の比率を増やせという議論がかまびすしいが、問題は性別でなく人物だ。細野氏同様の声を上げた女性議員が果たしているのか。

 「女性を増やせ」ではなく、「私のような議員を増やせ」と胸を張り、納得してもらえるだけの実績を示すべきだろう。
 
 2017年7月12日、長く獄に繫がれてきた中国の民主活動家でノーベル平和賞受賞者、劉暁波氏の危篤が伝えられる中、与党の女性国会議員9人(野田聖子団長)が中国政府の招きで訪中した。

 「女性政治家は、同じことをするにも男性より多くの努力が必要だ」といった中国女性副首相の陳腐な挨拶に「議員団全員が深く頷いていた」という。劉氏はその翌日、亡くなっている。

 当時、米欧の議会では劉氏を海外に移送しての治療および軟禁状態にあった夫人の出国を求める声が高まっていた。ところが野田訪中団は、劉氏の窮状についてはもちろん、同じく女性である夫人の解放にも一切言及しなかった。

 天安門事件後に日本政府が行い、中国側の宣伝に利用された天皇訪中のミニ版に過ぎなかったわけである。こんな議員たちを増やして一体何の意味があるのか。

 ベトナム全土が共産化され多くの難民(ボート・ピープル)が出た時期、ソ連のコスイギン首相と会談したサッチャー英首相は、「共産主義全体にとって恥ずべき事態だ」と論難、影響力を行使するよう求めた。

 「逃げ出しているのは皆、麻薬患者か犯罪者だ」とぶっきらぼうに応じたコスイギンに対しサッチャーは、「何? 共産主義があまりに悪いため百万人もが麻薬に走り、盗みで生計を立てざるをえないというわけか」とさらに追及している。

 男女を問わず、欲しいのはこうした政治家だ。
島田 洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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