Fumio Kishida delivered a speech at 2022 NPT Review Conference (5) (13578)

岸田さんも、ちょっと引いてみると、なかなかよくやっているのでは――!?
via Fumio Kishida delivered a speech at 2022 NPT Review Conference (5)

かなり仕事をしている総理

 パー券売上の収支報告書への不記載問題で揺れに揺れる自由民主党。
 大揉めの展開の中、まもなく臨時国会も閉幕しようとしております。大変な状況ですね。

 岸田文雄政権も、23年12月度のNHK世論調査では内閣支持率が23%まで落ちてしまいました。派閥パー券問題も直撃してしまい、砦であった自民党支持率も8%近く下落して3割を切りそうな展開ですから、「増税メガネ」とまで揶揄(やゆ)され、今年の漢字も「税」にされてしまった国民の岸田さんへの見限りようも分かります。

 ただ、岸田さんはかなり仕事をしている総理なんですよ。

 レームダック化が酷(ひど)いと言われながらも今回の臨時国会では経済対策関連を中心に絞り込んだ12本の法案をすべて成立させ、特に旧統一教会の被害者救済に向けた特例法に加え、イギリスのTPP加入を認める議定書も承認されるなど成果を挙げています。

 外交面、安全保障関連では、岸田さんの業績は戦後最長期間の政権となった安倍晋三さんと比肩するものと言えます。

 思い返せば、岸田さんが根性入れて外務省など事務方に実現を迫ったキエフ(キーウ)の電撃訪問以降、日本の平和路線外交の前面に立って国際政治家としての地位を確立させた広島G7サミットでは原爆落したアメリカの現大統領・バイデンさん含む各国首脳が平和記念公園で献花。

 さらに、ロシアとの戦争で揺れるウクライナ大統領・ゼレンスキーさんもリアル来日して西側陣営の対宇支援の枠組みづくりに尽力していました。アメリカを中心にイスラエルのガザ地区での紛争では、西側諸国の要望を押さえる形でパレスチナ側の事情にも斟酌した独自の立場を日本は取り、また、エジプトやヨルダンも含めた地域の平和維持のための資金拠出を早々に表明し、外相の上川陽子さんもガザ地区での人道的休戦を働きかけ実現しています。

 また、東日本大震災に伴う福島第一原発事故に伴い発生したALPS処理水の海洋放出は、安倍政権のころからの取り組みを結実させただけでなく、国際的な段取りについてもIAEAや各国への説明責任を果たしました。9月のASEAN+3では、弁当食ってた岸田さんが食事を切り上げてその辺を歩いてた中国首相・李強さんの「裾をつかんで」中国の日本産水産物全面輸入停止措置を直接要請。

 さらには、中国国家主席・習近平さんとの日中首脳会談においては、岸田さんはかなり強い口調で処理水や邦人拘束の問題などの中国側対応を批判したうえ、中国からの要望で日本が受け入れたのは従前から続いてきた日中の戦略的互恵関係の確認だけに留めています。

 尖閣諸島や台湾海峡有事に関連する東アジアでの緊張緩和に向けた動きで中国から明確な言質(げんち)を取れない限りは、岸田さんからすればこれから経済問題を抱えるであろう中国に譲歩する必要は無く、最近では17名もの日本人が中国当局に拘束されていることも踏まえても「岸田さんでなければ、このような対中国外交を実現することはできなかった」とすら言えます。

インフレ対策は日本を見習え

 国内問題では、日本、とりわけ岸田さんの責任というわけでもない、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとパレスチナ・ガザ地区の紛争を理由として資源価格が軒並み上昇し、コストアップインフレが日本経済をも直撃しています。世界中で、ガソリンや天然ガスの価格が高騰してしまい、イギリスではガソリンが3倍、香港でも最大6倍も燃料費が上昇する局面に達しました。

 しかし、岸田さんは筆頭秘書官に元経産官僚で資源エネルギー分野に詳しい嶋田隆さんを据えて、早期からガソリン、電気代、小麦と分野を絞って補助金を出すことで、これらの価格統制に事実上成功しています。これらはクルマへの依存度の高い地方経済においては福音とも言える政策である反面、すでに6兆4000億円ほども「バラマキ」をしてしまい、これからどうやって補助金をうまくフェードアウトさせるのかという出口戦略をやらないといけない展開にはなっています。

 それでも、世界の中でもインフレ対策が上手くいった国として、発展途上国(グローバルサウス)を中心に「インフレ対策は日本を見習え」とまで言われて称賛されているのです(Hanke’s 2022 Misery Index


 特に、世界的な景気の乱高下やインフレもあり、アルゼンチンでは政変が起き、スリランカなど世界の債務問題への対処が叫ばれる中、少子化もあって日本では若年層の内定率が過去最高を更新。正直、岸田さんは条件が悪いなりに、かなりうまく国家運営を果たしているというのが事実なんですよ(大学生の就職内定率69%余 5年ぶりに過去最高更新)。

 ところが、世間から「増税クソメガネ」と揶揄されたのが超絶ムカついたのか、岸田さんはいまひとつ政策としての筋がよろしくない一時的な時限減税に踏み切ってしまいます。いや、岸田さんこれだけ堂々たる成果を挙げてきた偉大な宰相なのだから、やってきたことをきちんと外に説明してアピールしていれば、私はそれで良かったとすら思うんですよ。

 あなた、ネトウヨもビックリするぐらいのしっかりした対中強硬外交もやるべきときはきちんとやり、ウクライナやガザ地区に向けての平和貢献も進め、国内でも旧統一教会への解散命令請求を前倒しし、インフレ対応含めてちゃんと政策を着地させて経済対策まで通してるじゃないですか。


 もちろん、岸田さんご長男の官邸忘年会問題や、松川るいさんら自民党女性議員らの子連れフランス視察旅行など、国民が最も嫌がる公私混同ネタが続発した結果、読売新聞の渡辺恒雄さんらが期待した6月時点での解散もできませんでした。また、今秋やろうとしていた解散も政務3役が次々と辞任するスキャンダルに見舞われてどうにもならなくなってしまったのは残念です。

岸田さんの夢を聞かせて

 ただ、安倍派のパーティー券の報告書未記載問題は、かねて起きていた大樹総研やライズジャパンなどの政財界フィクサー絡みのガサ入れも影響があったでしょうし、今後は安倍派重鎮も含めた少なくない人数の公民権停止の略式起訴が出たら大変であるとしても、究極的には岸田さんには責任のない話です(もちろん、総裁なのだから党全体の問題は責任を負うべきという議論はあるにせよ)。

 岸田さんの経済政策がハッキリしない面もありますが、一方で、ゼロ金利による円安とそれに伴うコストアップインフレや、安い日本が国益を損ねて優秀な外国人労働者に日本が選ばれず、安くて安全な日本に外国人観光客が集まるようになったのも、いわばアベノミクスの負の遺産、うまくいっていた面の副作用という話でもあります。世界的にもインフレをまあまあうまく克服してしまったがゆえに、国民の岸田さんの経済政策に求める政策のハードルが上がってしまっている面は大きいと思うのです。

 国民の4割を超える無党派の皆さんが岸田さんを支持しなくなってしまっているのは、岸田さんが上手くやり過ぎて、そもそもうまく対処してくれて来たことのアピールも不足していることから、その偉大さをあんまりちゃんと認識できないのではないか、とすら思います。やるべきことはちゃんとやっているんですよ、岸田政権。

 むしろ、岸田さんには明るい未来を見せてよ、夢を語ってよという話は国民からすればあるのかもしれません。仕事をちゃんとやっているだけじゃなくて、引っ張っていってほしいという願いがあるのだとするならば、岸田さんには腹を括(くく)って「こういう社会にしていきたいんだ」という赤裸々な言葉が上手く国民に伝わるような仕組みがあるといいなとも思います。

 だって、まあ立場的には責任者だから仕方ないのかもしれないけど、流れとしては岸田さんには原因として帰される責任はないと思いますからね。アベノミクスで散らかった問題を夏休みの宿題的に背負わされている側面が否めないのです。

 今回のパー券問題も出たので、個人的には総裁選任期いっぱいまで引き続き岸田文んには思い切った仕事をしてほしい、そしてアピールをしっかりしたうえで、岸田さんの夢を聞かせてよ、ってのは強く願うところなんですよねえ。

 外交的には安倍ちゃん以上に現実的で強硬派の側面もある岸田さんをもう少し応援しましょうよ、皆さん。
山本 一郎(やまもと いちろう)
1973年、東京都生まれ。個人投資家、作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。一般財団法人情報法制研究所上席研究員。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行っている。

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