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冷戦を終わらせたレーガン元大統領
 スタグフレーション。経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が併存する状態を指す言葉である。

 例えば1970年代後半、民主党カーター政権時代のアメリカがそうだった。このまま行けば、岸田時代の日本も同じ轍(てつ)を踏みかねない。
 幸いアメリカは、減税・規制緩和、「力を通じた平和」(ソ連圧殺)を掲げるレーガン大統領(共和党)によって正常軌道に戻された。

 1980年の大統領選で現職のカーターを破ったレーガン候補に有名な言葉がある。

「景気後退とはあなたの隣人が職を失う時。不況とはあなたが職を失う時。そして回復とはジミー・カーターが職を失う時だ」

 私の眼には、岸田首相のみならず、多くの政治家が当時のカーターと重なる。問題は日本にレーガンが現れるかどうかである。
 レーガンはサウジアラビアに働きかけ、国際的な石油増産によるエネルギー価格低下にも努めた。それは原油を何よりの外貨獲得源とするソ連に財政的痛手となった。サウジは見返りに、アメリカに戦闘機の供与を求めた。

 今はイラン封じ込めでサウジと事実上の同盟関係にあるものの、当時は対立していたイスラエルが戦闘機供与に強く反対したが、レーガンは国内外のユダヤロビーを粘り強く説得した。当時のレーガン日記を読むと、相当苦労したさまが窺える。
「B級俳優上がりで、頭がずさん」とさんざんリベラル派に叩かれたレーガンだが、戦略的優先順位の感覚には揺るぎないものがあった。その結果、不況克服に道筋をつけるとともに、1発の弾丸も撃つことなくソ連を崩壊に導き、冷戦を勝利で終わらせた。

 岸田政権は、物価や電気代の上昇が続く中、次々に増税を打ち出している。財務省の言葉以外耳に入らないのかと思わせるほどであり、基本的な感性を疑わざるを得ない。財務官僚は「子飼いの岸田の間にあらゆる増税を実現ないし布石を打っておこう」と考えているだろう。
 周りを財務省人脈に囲まれた岸田首相に決定的に欠けているのは、安定成長こそが安定財源、言い換えれば、一番の恒久財源は経済成長の持続だという認識である。政治の責任は、成長戦略を打ち出し、実現させることにある。
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稲田朋美元防衛大臣
 岸田氏は、「国債は、未来の世代に対する責任として取り得ない」とよく財務省直伝のセリフを口にするが、経済成長で自然増収を生む自信がないなら、それこそ「未来の世代に対する責任」として辞任すべきだろう。成長の阻害こそ、文字通り、将来世代の成長を阻害する。

 財務省は目先の帳尻合わせしか視野にない。新税導入や税率アップを実現させた人間が評価され、出世する組織では、減税による経済活性化で自然増収を生むといった発想は禁忌である。増税原理主義と呼んでもよいだろう。
 経済が活性化すれば企業や個人事業主は潤い、それに伴って従業員の所得も増え(ブラック企業は別)、税率が同じでも納められる法人税、所得税の額は増える(政府から見れば自然増収)。
 論外なのは、経済沈滞時に税率を上げて活性化の芽を摘むことである。財務省は常にその方向に傾く。一定の牽制役を果たすべき自民党税制調査会も、現在、宮沢洋一会長(元財務官僚)のもと、単なる財務省の別動隊と化している。

 レーガンは、左派のみならず共和党内の財政均衡派とも戦い、国債(財務省証券)発行を通じた軍拡を進めた。そのため一時的に財政赤字が膨らんだが、やがて減税・規制緩和による経済活性化と冷戦終結による「平和の配当」(軍拡ペースの緩和)の効果で、1990年代のクリントン政権時代には財政黒字へと至った。
 アメリカ共和党はレーガンの衣鉢を継ぎ、「国防増税」は間違っても口にしないのが政治文化となっている。自民党は残念ながら、そうした政治文化が全く根付いていない。

 私の地元、福井1区の選出である稲田朋美元防衛相は、「国民が防衛を考える意味でも増税という選択肢は避けて通るべきではない」とまで述べている。
「増税を訴える政治家こそ勇気ある政治家」という財務省の洗脳に完全にやられていると同時に、新たな増税で痛みを与えない限り、一般庶民は防衛を真剣に考えないという実に選挙民を馬鹿にした発想にも冒されている。稲田氏の場合、原発新設を唱えている点にわずかな救いはあるが。
しまだ よういち
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。著書に『アメリカ解体』(ビジネス社)など。

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