門田隆将:煽られ、道理を失う日本人

門田隆将:煽られ、道理を失う日本人

折角の祭典も無観客では―
 日本人は、なぜここまで劣化したのだろうか。昨年来のコロナ禍、そして、五輪の無観客開催決定の経緯を見ながらつくづくそう思う。

 左翼陣営が盛んに五輪中止運動を展開し、実施する場合は「無観客」を主張した末、菅政権はこれを追認した。無観客五輪を都議選の重点政策に掲げた都民ファーストと小池百合子都知事による〝無観客攻勢〟に白旗を上げたのである。欧米に比べ、コロナ制御に成功し、感染者・死亡者ともに何十分の一、何百分の一に過ぎない〝さざ波〟日本。国際社会から当初「五輪が日本開催でよかった」と思われていた。それが一転、無観客開催。あり得ないことだった。
 無観客なら、インドでも、チリでも、ブラジルでも、どこでやってもいいからだ。〝さざ波〟の日本でやる必要はない。海外からの観客をストップした時点で世界は「残念だが仕方ない」と我慢するしかなかった。コロナを制御している日本の方針なら仕方ないと思ったからだ。昨年1年間のG7の超過死亡率(※全死亡数が平年に比べて増減したか示す割合)は米国のプラス20.2%、英の19.6%をはじめ、軒並み大幅プラスである。しかし、日本だけはマイナス1.4%。このことが英BBCで報じられた際、「噓だろ?」と話題になったのは当然だろう。コロナで死者が増えるどころかマイナスなのか。日本は凄い、と。
 
 うがいや手洗いなどを励行した日本では、コロナの死者は出たとしても、インフルエンザなどほかの感染症も抑えた結果、例年より死者数が減少したのである。こんな国があるのか──それは欧米各国にとって衝撃だったのだ。しかし、それより驚愕したのは、それでも日本が無観客という「コロナ敗北宣言」をしたことだ。まさに「なぜ?」である。
 私は今年『新・階級闘争論』(ワック)を出版した。これは日本のみならず世界中で起こっている〝ノイジーマイノリティ(※口うるさい少数者)〟によって右往左往させられる社会の有様を論じたものだ。具体的にいえば、1989年のベルリンの壁崩壊以降、敗れ去ったはずの共産主義が姿を変えて生きつづけ、さまざまな分野での些細な差異を強調し、差別問題を創り上げて被害者意識を生み出し、「新しい階級闘争」を行なっていることだ。LGBTや夫婦別姓問題、女系天皇容認論などは、すべてその流れの中にある。

 ツイッターやフェイスブックといったSNSを利用し、ここでツイデモ(※ツイッターによるデモ)などを駆使し、あたかも大きな世論が動いているかのように見せるやり方だ。
 
 日本では、参院選を2カ月後に控えた2013年5月、日本共産党中央委員会が32万党員に「ツイッターとフェイスブックを始めよ」と通知し、SNSで世論を構築する〝組織票づくり〟に着手した。同年7月の参院選では、これが功を奏し、改選3議席は8議席に躍進。以来、同党は〝共産党〟という名を出す必要がないSNS戦略を大いに利用するのである。
門田隆将:煽られ、道理を失う日本人

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むしろ「五輪反対デモ」が密だが、こちらは何も問われないという異常-
 本来は一部の人間しか賛成しない左翼的案件がツイデモによってブームとなり、これを新聞やテレビが取り上げることによって、ノイジーマイノリティが自分の姿を大きく見せることができるようになった。戦国時代、自分の軍勢を多く見せるために旗印だけを沢山掲げて、相手を幻惑させたのと同じ方法だ。

  問題は、これに簡単に騙され、追随する国民がアトを断たないことだ。「本質」を見ることができず、無理がまかり通り、道理が引っ込む国。七月半ばにはワクチン接種6千万回を超え、陽性者の7人に一人の命が奪われていた80歳以上の感染率、死亡率は激減した。

 若者にとっては、例えば20代の死亡率は0.0044%に過ぎず、交通事故より遥かに低い。30代も同じで、40代になって初めて死亡率0.1%。つまり若者の陽性者が増えても何の問題もない。そして死亡率の高い高齢者が守られることにより、日本はコロナを〝普通の風邪〟にすることができたのである。
門田隆将:煽られ、道理を失う日本人

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超満員のオールスターゲームで登板した大谷翔平
 7月14日、米オールスターゲームでの大谷翔平選手の活躍に列島は熱狂した。その前日の6万5千人を集めたサッカー欧州選手権決勝も、さらにはウィンブルドンの満員のスタンドも、コロナに打ち勝った人類の証として私たちは観ることができた。だが日本は違う。反日勢力に踊らされ、世界に恥をさらした。無観客五輪のスタンドを見ながら、プロ野球やサッカーでは観客が沢山いるのに「なぜ五輪だけダメなの?」との外国人の問いにこう答えなければならない。

 「日本では〝科学〟より〝風評〟が圧倒的に強いのです。それが日本です」と。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
一九五八年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)、『オウム死刑囚 魂の遍歴』(PHP)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は『新・階級闘争論』(ワック)。

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冷やし中華 2021/8/6 17:08

SNSには変な輩がウヨウヨしているとは、かなり前から感じていました。
黒人の奴隷の歴史について「白人が来る前から部族、国同士で戦争して捕虜を売り飛ばしていた。」とコメントをすると、そういう輩から「フェイク屋」呼ばわりされました。黒人を完璧な被害者にしたい人物にとって供給元となったアフリカの奴隷売買の歴史(真実)はタブーで、大事なのは己の感情と利権なんです。
コロナやオリンピック反対で騒いでいた連中も同じ穴の狢です。こういう連中はハリボテのような理屈しか言っていないので塩対応するのが一番なのですが、問題は企業や政府が炎上を恐れて従ってしまうことです。そして、SNSを駆使するのが苦手で情報源がテレビだけの人が翻弄されてしまっていることです。SNSを駆使しても取捨選択ができないと意味はありませんが。
炎上だと騒いでも、実際は蝋燭かマッチの火程度でしかないと認識することと、情報源を広げて対処していくことが重要になってくると思います。

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