【門田隆将】朝日新聞の「歴史への大罪」と終戦の日

【門田隆将】朝日新聞の「歴史への大罪」と終戦の日

 令和2年の「終戦の日」には、特別の意味があった。夕方近くになっても途切れない靖國参拝者の長い列を見ながら、私は「時代は変わった」との思いを強くした。

 かつてこの日に靖國神社に参拝すると言えば、「おまえ、右翼か?」「頭がおかしいんじゃないか」……そんなことまで言われたものだ。靖國参拝=軍国主義礼讃とのレッテル貼りが徹底され、マスコミには、そのことに疑いを持つ人さえいなかった。だが、国のために命を落とした先人が祀られている神社に行くことがなぜ「右翼」だったり、「頭がおかしい」とされてしまうのか。どう考えてもおかしい。

 たったひとつの「命」を、愛する家族のため、国のために捧げた人々に、後世の私たちが感謝の気持ちを表わし、亡くなった人々の無念を想像し、共有するのは当然の行為だ。後世の人間にとって、自然におこなわれるべきもののはずである。しかし、日本では、それが許されなかったのだ。

 なぜだろうか。私は翌8月16日付の朝日新聞の社説を読みながら、改めてそのことを考えた。閣僚4人が参拝したことに対し、〈政権全体の歴史観が問われる事態〉と断じた上で、こう書かれていた。

〈戦争の犠牲者を悼む気持ちは誰も否定しない。だが、軍国主義を支えた国家神道の中心的施設を、現在の政治指導者が参拝することは、遺族や一般の人々が手を合わせるのとは全く意味が異なる。靖国神社には、東京裁判で戦争責任を問われたA級戦犯も合祀されている。侵略の被害を受けた国々を中心に、日本が過去の過ちを忘れ、戦前の歴史を正当化しようとしていると受け止められても当然だ〉

 十年一日がごとく朝日は同じことを書いている。だが靖國を外交カードにしている中国と韓国以外で、どこが「過去の過ち」を日本が忘れ、戦前の歴史を「正当化しようとしている」と考えているのだろうか。もしあったら教えて欲しい。

 戦後75年に及ぶ日本の真摯で誠実な経済活動と外交姿勢は、アジアで大きな信頼を勝ち取り、各種の調査でも、中国や韓国を圧倒的に引き離す好感度ナンバー・ワンの国になっている。

 そして、朝日が東京裁判をなぜここまで「信奉」しているのかも私には疑問だ。勝者が敗者を裁くあのセレモニーをすべて正しいとするのは歴史学の観点からも異常だし、原爆投下に関わった米指導部層には「仮に戦争に負けていたら、私たちが戦犯だっただろう」という有名な回想があることでもわかる通り、裁判の結果を「唯一絶対」のものとしてはならないことは明らかだ。

 日本の新聞でありながら、靖國が東京招魂社として吉田松陰を含むペリー来航以来の国事殉難者を祀る神社であることも、更には、今では祀られる英霊は246万柱を超え、家族と国を守るために尊い命を捧げた先人の魂が集う場であるとされることも一切触れないのは、理解できない。だが、それらの疑問は、靖國問題を引き起こしたのが朝日自身であり、それが「日本を窮地に追い込むこと」が目的だったことを知れば、すべて氷解するだろう。

 昭和60年8月、当時の中曽根康弘首相の〝戦後政治の総決算〟を阻止するため朝日が靖國問題を引き起こしたことが私は忘れられない。

 それまで靖國参拝など知りもしなかった各国に〝ご注進〟して〈靖国公式参拝、アジア人民傷つける〉〈過去を直視し未来へ生かそう〉〈靖国公式参拝、「違憲の疑い」一転ホゴ 中曽根内閣〉〈「新しい戦前始まった」と靖国公式参拝で社党委員長〉〈「公式」の集団、足音高く〉……と目が眩むほどの異常な紙面を展開した朝日。中国はこれに呼応して、ついに靖國問題を外交カードにするに至るのである。

 私たち日本人は原爆投下の責任者がアーリントン墓地に、また通州事件の関与者が八宝山革命公墓に埋葬されていようが、絶対にクレームをつけたりはしない。家族と国のために働いた人々をどう悼み、どう讃えるかは、その国の独自の文化であり、民族の財産だからだ。だが朝日は先人の無念さえも、日本を貶める材料にして中国と韓国のための紙面づくりを今も続けている。

 昨今、朝日の部数激減が顕著だ。これは、このことを感じる人がいかに多くなっているかを表わす指標ともいえよう。この数字を楽しみに、これからも朝日をウォッチしていくとしよう。
門田隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。近著に、『新聞という病』(産経セレクト)、『疾病2020』(産経新聞出版)など。

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一国民 2020/9/7 11:09

全くの同意。日本と日本人を貶め引き換えにクオリティーペーパーとやらの偽善を謳歌し恥じず、今でも日本国民を相手に大人の交際サイトまでして商売をする。もっとも軽蔑すべき者たちの大罪は歴史に刻まれ軽蔑されていい。

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