中国の真の姿と「千人計画」

 コロナ禍の数少ない人類への貢献は「中国の真の姿を世界に知らしめた」ことであるのは間違いない。国際社会の流れが、これを機に自国への中国による「工作」や「浸透」がどの程度のものであるかを検証することに繫がって欲しいと思う。その実態を知れば、おそらくどの国も啞然とするに違いない。

 今年1月、米司法省はナノテクノロジーの世界的な権威・ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授を米国の科学技術研究の原則に反して中国に協力し、「虚偽の説明」によって米国に経済安全保障上のリスクをもたらしたとして起訴した。リーバー教授は、国防総省からも研究を受託していたにもかかわらず、中国・湖北省の武漢理工大学で機密研究に「協力していた」というのである。

 中国が世界中から最先端技術の研究者や技術者を破格の厚遇で呼び寄せ、世界最高の研究をやらせていることはよく知られた話だ。昨年以降、その具体的な事例が次々と明らかになっている。なかでもリーバー教授は「大物」だっただけに学術界の話題を浚(さら)った。

 〝媚中派〟と呼ばれる人たちが政・財・官・学術・言論界などに沢山いて、それらが中国の指令によってさまざまな動きを見せるのは、実は日本だけのことではない。欧米先進国は、どの国も多かれ少なかれそれが 〝あたり前〟になっているのだ。

 ゴールデン・ウィーク中の読売新聞が5月4日付一面トップでその詳細を報じていた。これを読んで恐ろしくなった読者は多かっただろう。記事では、日本もその舞台となっていることが当事者の談話も交えて暴露されていたからだ。〈技術狙う中国「千人計画」〉と題されたその記事は一面と四面をぶち抜いて、中国が世界最先端技術の研究をしている技術者や教授たちをどんな待遇でどう招き入れているかをレポートしている。

 AI(人工知能)を専門とする東工大元教授(70)は6年前に中国の国家プロジェクトへの参加を呼びかけられ、5年間で1億円の研究資金や給料、手厚い福利厚生など破格の待遇を提示され、中国に渡ったのだそうだ。これは中国の外専「千人計画」による。このプロジェクトには、恐ろしいことに世界中から毎年数千人の応募が殺到しているという。

 この東工大元教授の研究は、無人機を使って攻撃したり、自爆したりすることに応用できるもので、「中国の大学は軍事技術を進化させる研究をして成果を出すのが当たり前だという意識が強い。外国の研究者を呼ぶのは、中国にはない技術の流出を期待しているからだろう」とのコメントも記事には紹介されている。

 私は、破格の厚遇で共産党独裁政権に協力し、自国の脅威になるような技術と研究成果を提供しようとする科学者たちのモラルと意識について、考えざるを得なかった。周知のように日本学術会議は、日本国内では「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」と声明し、安全保障分野での研究や開発をタブー視してきた歴史がある。

 しかし、その構成員である研究者たちは、日本の軍事研究にこそ協力しないものの、中国の軍事技術の発展につながる研究には何の抵抗もなく「協力する」のである。研究者たちにも家族はいるだろうに、母国である日本を滅ぼすかもしれないそんな研究を「どんな思いでやっているのだろうか」と私は思う。

 2016年7月、中国は軍民融合戦略に関して「科学技術・経済・軍事において機先を制して有利な地位を占め、将来の戦争の主導権を奪取する」という方針を決定し、翌17年1月には、習近平国家主席自らをトップとする「中央軍民融合発展委員会」を設立。海外でトップクラスの科学者や技術者を招いて猛然と中国軍の近代化を図っているのである。

 中国の先端技術や軍事技術は、多くがこういう外国からの最先端技術者や研究者の囲い込みで、またスパイ活動によって得た情報や機密資料で、あるいは海外で活躍する中国人研究者らを呼び戻す方式(注=彼らは〝海亀〟と呼ばれる)などによって支えられている。短期間で軍事力を質量ともに世界トップクラスにアップさせてきた秘密はそこにある。

 コロナ禍は、はからずもこうした中国の動きに目を向けさせるきっかけをつくった。それは、国際社会が「ここで中国の増長を止めなければ大変なことになる」という共通認識の醸成に進み始めたことを示すものだ。世界を地獄に叩き落とした武漢肺炎の人類に対する数少ない貢献と言われる所以(ゆえん)がそこにある。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。最新刊は、『新聞という病』(産経セレクト)。

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