【濱田浩一郎】津田大介氏の竹田恒泰氏への訴訟は正しいか―

【濱田浩一郎】津田大介氏の竹田恒泰氏への訴訟は正しいか―

訴えを起こした津田大介氏
via youtube

ジャーナリストなら言論で応じるべき

 2021年1月7日、竹田恒泰氏(作家・皇學館大学非常勤講師)が、ジャーナリストで、あいちトリエンナーレ2019の芸術監督を務めた津田大介氏に名誉毀損で訴えられたことをツイッターや自身の番組で明らかにした。
 竹田氏によると、自身が出演するインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」での「津田のバカちん」との発言が名誉毀損に当たるとして訴えられたのだという(竹田氏によると、バカちん以外にもう1つ名誉毀損として訴えられた発言があるそうだ)。 

 現在、報道に出ている情報だけでは、私には津田氏の内心や意図は分からないが(ちなみに、ツイッターで私はなぜか津田氏にブロックされている)、本当にこれしきのことで訴えたのならば、ジャーナリスト・言論人としていかがなものか。別に「死ね」とか「殺すぞ」とかの脅迫や罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられたわけではない。普通なら、半分笑って済ますようなことで訴えるのもどうかと思うし、何より言論人ならば、多少のことを言われても、文章でやり合うなり、討論で堂々と話し合えばいい。

 竹田氏は津田氏と面識があるというので、思想は違えどそれも不可能ではあるまい。対話こそ重要ではないのか。
【濱田浩一郎】津田大介氏の竹田恒泰氏への訴訟は正しいか―

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自らのyoutubeチャンネルで、訴えられた旨を報告する竹田氏
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あいちトリエンナーレは表現の自由、「バカちん」には訴訟という基準の是非

 津田氏と言えば、あいちトリエンナーレ2019で、昭和天皇の肖像を燃やす映像の展示を容認して物議を醸した人物だ。

 2019年4月、ニコニコ動画において、哲学者の東浩紀氏との対談が行われたが、その中で津田氏は「おそらくみんな全然気づいてないけど、これが一番やばい企画なんですよ。政治的に」と発言。東氏が「天皇が燃えたりしてるんですか?」と聞くと「ああ、うふふ」と明言を避ける。が「天皇制についての考え」を聞かれると「天皇というのは、1つタブーになって撤去されるという事例があって、それは広く知られているので、それはこの展覧会でもモチーフになる可能性はあります」「(昭和天皇は)2代前じゃん。2代前になると人々の記憶も、2代前だし、歴史上の人物かな、みたいな。そういうとらえ方もね」などと発言していた(津田大介氏「二代前なら…」昭和天皇の写真燃やすのを容認していた? 『表現の不自由展』の炎上は確信犯か exciteニュース 2019.8.6)。

 この津田氏の発言からは、昭和天皇は歴史上の人物だし、肖像を燃やすくらい良いかなとの不埒な想いも私には感じられる。津田氏や昭和天皇をモチーフとした作品の作者の大浦信行氏は、作品は「昭和天皇の写真ではなくて、昭和天皇がコラージュされた自分の作品を燃やした」「天皇制批判の意図はない」と主張している(津田大介「あいちトリエンナーレ」騒動を振り返る 笑下村塾 2020.3.31)。しかし、それを見た観覧者からは「気分が悪い」との声もあがっていた。

 天皇制批判の意図はないにせよ、芸術的意味があるにせよ、まず何より、現代に生きる皇室の人々の気持ちを津田氏らは考えたことはあるのだろうか。故人や親族の肖像(写真)が燃やされる人の気持ちというものを(芸術的意味があるにせよ、燃やされるという事実はあるわけだ)。
 また、その作品を見た人々がどのように感じるかを予測できなかったのだろうか。津田氏や大浦氏も(批判的意図はなく、芸術的な背景・意味があるにせよ)自分や祖父の写真が燃やされたり踏みつけにされるのは気分がいいものではあるまい。

 イスラム圏に行って、ムハンマドの肖像を燃やすという展示をしたり、キリスト教圏に行ってキリスト像を踏みつける展示をして「いや、これには批判の意図はないんだ。ムハンマドがコラージュされた自分の作品を燃やしたということなんだ」と言っても納得してもらえるだろうか。最悪の場合、その人は殺されてしまうだろう(ムハンマドの風刺画によるテロや殺人事件が海外で起こっていることは周知の事実である)。

 皇室を敬愛する多くの人々の気持ちを不快にさせた津田氏が、いざ自分が竹田氏に金八先生風の「バカちん」という言葉を受けたら訴訟を提起するなど、私には滑稽の限りとしか思えない。もちろん、訴訟を起すのは津田氏の自由ではあるのだが……。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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