これで「日本が存続する」──そんな思いを持つ人が私のまわりには少なくなかった。

 安定的な皇位継承策を議論する「有識者会議」(座長・清家篤元慶應義塾長)が6月16日の第7回会合で、皇位継承資格を「男系男子」に限定する皇室典範の規定を尊重し、現在の「皇位継承順位を維持」する方針を確認した。つまり、皇嗣の秋篠宮文仁親王殿下、継承順位第2位の悠仁親王殿下という正当な皇統を維持すると宣言したのだ。

 記者団に対して清家座長は「継承順位の維持は現在の順位を見直せば皇室制度が動揺しかねない。混乱を回避すべきだと判断しました」と説明した。あたりまえ過ぎることだが、これがニュースになること自体に日本の危機がある。だが、まずは〝最悪の事態〟が回避されたことに安堵の声が広がったのは当然だろう。
門田隆将:諦めない「女系天皇」推進勢力の"目的地"

門田隆将:諦めない「女系天皇」推進勢力の"目的地"

最悪の事態は回避されたが―
 最悪の事態とは、女性天皇、そして女系天皇への道を進み、「日本が滅ぶ」ことである。これを目指す日本共産党や立憲民主党、あるいは朝日新聞、毎日新聞等の反日勢力が進めてきた「女性・女系天皇実現」キャンペーンが凄まじいものだったことは間違いない。

 父親を辿っていけば神武天皇に遡ることができる男系による「皇統」は、女系になれば途絶える。国際結婚で父親が中国人になれば「中国系」、韓国人ならば「韓国系」、英国人なら「英国系」となる。つまり126代の天皇の皇統とは一切関係がなくなり、当然、尊敬・尊重の念も消えていくだろう。そうなれば、何代か先には国民の支持を失い、「皇室そのものがなくなる」というわけである。だが前述の反日マスコミ等の女系天皇実現論に、実際に国民は〝動かされ〟ていた。
 世論調査で女系天皇支持の数字は以下の通りである。

 ・朝日新聞 2019年4月  74%
 ・毎日新聞 2019年12月 74%
 ・NHK   2019年9月  71%
 ・共同通信 2020年4月  79%
 これらの調査結果は、男系という皇統唯一のルールが何を意味するかを知る常識ある日本人を嘆かせた。 人間の歩みは戦争や権力抗争の歴史である。どの国、どの王朝も興亡をくり返してきた。世界史の年表を見ればわかる通り、さまざまな国名が時代によって出てくる。だが、日本だけが一貫して「日本」で変わらない。 わが国は一度も王朝が変わったことはない。つまり、日本は世界最古の国であり、皇室は世界最古の王朝なのだ。

 なぜか。男系により「権威」と「権力」の分離に成功したからである。権力を手にした人間は権威を欲しがり、常に両方を得ようとする。だが、日本の天皇は男系しか許されない。つまり時の権力者、織田信長であろうが、徳川家康であろうが、天皇に「なり代わる」ことはできなかった。せいぜい平安時代の藤原氏がしたように娘を天皇に嫁がせ、外戚として権威を振るうことしかできなかったのだ。
門田隆将:諦めない「女系天皇」推進勢力の"目的地"

門田隆将:諦めない「女系天皇」推進勢力の"目的地"

織田信長のような強大な権力者であっても、天皇に「なり代わる」ことはできなかった―
via wikipedia
 これこそ、日本を〝最古の国〟にした先人の智慧である。過去「八人十代」いる女性天皇もあくまで父親を辿っていけば神武天皇に辿りつく男系の女性天皇だった。その女性天皇の子である「皇統と関係のない」女系天皇は歴史上、一人も存在しないのだ。

 私は、この伝統と歴史、そして見事に権威と権力を分離した先人の智慧の凄さの一方、それを軽んじる現代日本人の愚かさが理解しがたかった。実に7割以上の国民が女系天皇、すなわちこれまでの皇統を「途絶させること」に賛成している意味がわからないのだ。

 皇室解体を目指す勢力の筆頭は日本共産党だ。ここが「1932年テーゼ」では天皇制を〈粉砕〉の対象とし、「61年テーゼ」では天皇を〈軍国主義復活の道具〉と規定した。その共産党は2019年6月、志位和夫委員長が突然『赤旗』紙上で女系天皇容認を打ち出した。理由はいうまでもなく皇統途絶のためだ。

 天皇のそもそもの正当性の根拠である〝萬世一系〟を破壊すれば、男系により連綿と続いて来た皇統が途絶し、やがて「消えていく」との理論に基づく。これは、共産党の理論的支柱だった故・奥平康弘東大教授(憲法学)によるものであり、共産党はこれに基づき女系天皇容認論を打ち出したと思われる。彼らが理想とする「共和国」が実現するわけである。

 幸いに有識者会議はギリギリで、皇統途絶の道を選ばなかった。しかし、前途は多難。女性宮家創設という、やがては女性・女系天皇につながる問題を本格議論させるのである。私たちは、日本が日本たる所以、さらには、この日本で「時を超えて残ったもの」に対する見識が問われていることを忘れてはならない。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)、『オウム死刑囚 魂の遍歴』(PHP)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。最新刊は『新・階級闘争論』(ワック)。

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