中国武漢で発生し、国際的に感染が広がった新型コロナウイルスの問題で、最も無能さと欺瞞的体質を明らかにしたのが、中国共産党政権(以下、中共)である。

 2月初旬に北京大学の憲法学者ら50人以上の中国人識者が、文字通り命がけで発表した声明文にある通り、ウイルスの蔓延は「言論の自由の封殺によって引き起こされた人災」に他ならない。いち早く警鐘を鳴らした若い男性医師が、「デマを流した」と逆に当局に弾圧されたのが典型例だ。

 この若い医師は、献身的に患者の治療に当たる中で自らも罹患し、死亡した。医療現場で日々奮闘する医師や看護師、また日本と違って理念と勇気を持った憲法学者らの行動を見ていると、中共独裁体制さえつぶせば、この人たちが中心となり、中国は、現在のような世界のガンではなく、人類の未来に貢献する存在になると確信できる。

 およそ自由主義理念に拠って立ち、人権を重んじる政治家なら、今回のウイルス問題を奇貨として、いかに中共独裁体制を崩壊させるかの戦略を練り、実行に移していかねばならない。

 かつて1986年4月26日深夜、ソ連のチェルノブイリ原発が炉心融解を起こし爆発した。社会主義(計画不経済)システムがあらゆる面で動脈硬化症状を呈する中、科学技術の粋を集めた原子力施設だけは揺るぎなく機能しているとされていた。その原発が重大事故を起こした上、当局者らはひたすら事実の隠蔽と責任転嫁に汲々とした。夜明け以降も何も知らされず、屋外で結婚披露宴を催した住民や外で遊んでいた子供たちが次々深刻な放射線被害を受けた。

 前年3月に共産党の最高ポスト、書記長に就いていたゴルバチョフは後に、「チェルノブイリは真に私の目を開いた」と述懐している。ブレジネフ、アンドロポフ、チェルネンコと体制のよどみを体現したような老害書記長が続いた後、輿望(よぼう)を担って登場した改革派のゴルバチョフ(就任時54歳)だったが、党内守旧派の抵抗は至るところ根強かった。

 しかし結果的に、チェルノブイリ事故が改革に向けた流れを後押しした。政治局(ポリトビュロー)会議の席上、ゴルバチョフは、被害の拡大は「驚嘆すべき無責任」に起因する、「原子力関連の既存エリート層は、卑屈とおもねり、派閥性、異なった考えを持つ者の迫害、うわべの取り繕い、個人的コネ、徒党性向に支配されている」と厳しい言葉を連ね、「古いシステムにはもうどんな可能性も残っていない」と結論付けた。
 これらすべてが、習近平国家主席を頂点とする現在の中共独裁体制に当てはまるだろう。不幸にして、習近平はゴルバチョフではなく、旧ソ連でいえば、改革の「か」の字も意識になかった守旧派の最後の砦、チェルネンコ(就任時72歳、1年後に死亡)に近い。
 今後国際社会がいかに習近平を追い詰め、早期に中国版ゴルバチョフの出現を促せるかが、文明の長期的な盛衰を左右するカギとなろう。

 日本では、中国経済の減速が日本経済にどう影響するかといった議論が盛んだが、事業家や投資家の場合はともかく、政治家の意識がその域を出ないようではあまりに近視眼的かつ狭隘(きょうあい)だろう。

 毛沢東的な原始共産主義から追いつき型ファシズムを経て「先進ファシズム」化した中共に、目論見通り世界の覇権を握らせるなら、人間的な文明は地を掃(はら)う。どこかの段階で闘いを挑み、旧ソ連同様、非道な抑圧体制を終焉に導かねばならない。

 アメリカは、好景気が持続し失業率も歴史的低水準にある今が「余力を持って闘える好機」という戦略的判断のもと、中共への圧迫攻勢に出ている。トランプ政権のみならず、議会の大勢にもその意識がある。

 中共崩壊というと、想像力を欠くインテリからは、「可能性のないことに期待をかけて緊張を激化させるのは愚か」といった反応が返ってくる。ソ連崩壊の過程においても同様だった。経済的に後進国だったソ連と経済大国化した中国では体制の強さが違うといった議論もよく聞かれる。しかし、一旦多くの国民が豊かさに触れた中国の方が経済悪化に対する耐久力は弱いともいえる。中共が崩壊すれば、その支援に頼っている北朝鮮の金正恩体制も連鎖崩壊しよう。

 チェルノブイリ原発事故から1989年11月9日のベルリンの壁崩壊までは3年半だった。志ある政治家なら、早期に中共独裁体制から国民と世界を解放することを使命ととらえ、果敢に攻めの政策を打ち出していくべきだろう。
 困っている〝習近平さん〟を助けて感謝してもらおうと言った自民党の二階幹事長的発想は論外である。

島田 洋一
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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