あれから30余年
安倍 北村さんとは長い付き合いになりますね。第1次政権では総理秘書官として、第2次政権以降は内閣情報官、NSS(国家安全保障局)局長として安倍政権を支えてくださった。
北村 「元上司」と対談することになるとは、光栄です。正直、少し緊張しています。
安倍 私と北村さん、実は30年以上前に出会っているんです。1989年、父・晋太郎が順天堂病院に入院しました。自民党幹事長だった父は警護対象でしたが、順天堂病院の所管は本富士警察署。署長として病室に挨拶しに来たのが若き日の北村さんだった。お互い、まだ30代でしたね。
北村 隔世の感があります。1989年といえば、「ベルリンの壁」崩壊。冷戦末期、ソ連の影響力が弱まった東欧で共産主義政権が次々と倒れていき、民主化の風が吹き始めた頃です。あれから30余年、世界の注目が再び東欧に集まっている。ロシアのウクライナ侵攻にほかなりません。
北村 「元上司」と対談することになるとは、光栄です。正直、少し緊張しています。
安倍 私と北村さん、実は30年以上前に出会っているんです。1989年、父・晋太郎が順天堂病院に入院しました。自民党幹事長だった父は警護対象でしたが、順天堂病院の所管は本富士警察署。署長として病室に挨拶しに来たのが若き日の北村さんだった。お互い、まだ30代でしたね。
北村 隔世の感があります。1989年といえば、「ベルリンの壁」崩壊。冷戦末期、ソ連の影響力が弱まった東欧で共産主義政権が次々と倒れていき、民主化の風が吹き始めた頃です。あれから30余年、世界の注目が再び東欧に集まっている。ロシアのウクライナ侵攻にほかなりません。
ロシアが仕掛ける「ハイブリッド戦」
安倍 ウクライナ情勢をどう見ていますか。
北村 クリミア併合(2014年)に際して、ロシア軍は、火力を主体とする軍事作戦とサイバー攻撃など非軍事的な工作とを組み合わせた「ハイブリッド戦」を展開しました。電子戦部隊を展開してウクライナ軍の無線通信を遮断し、使用不能にした。ロシアは、事前のサイバー攻撃で、ウクライナ軍の指揮命令の方法などの情報を入手。偽の指令の下に集まったウクライナ兵は、ロシア軍から集中攻撃を受けて壊滅に追い込まれた。約1万5000人からなるロシア軍が、約5万人のウクライナ軍を圧倒したのです。
今回もロシアは、この手法を駆使しようとしました。しかし、プーチン大統領の思惑に反して、ウクライナ軍による激しい抵抗や西側諸国を中心とした支援がロシア軍の行く手を阻(はば)んでいる。ロシア軍は、キーウから撤退、東部に戦力を集中させる方針に切り替えています。
安倍 8年前と現在、いったい何が違うのか。
北村 ウクライナは、過去の敗北を教訓にして、ハイブリッド戦に臨む準備をしていました。ゼレンスキー政権は、行政サービスのデジタル化を進めるため、デジタル変革省を設置した。そのデジタル変革省が、有事においてデジタル戦闘部隊の司令塔になりました。
米国は、昨年12月中旬には、ロシア軍がウクライナに侵攻すると確信していたようです。それから侵攻までの間、米国のサイバーコマンドの前線チームやEUのサイバーセキュリティ即応部隊がウクライナ入りして、基幹インフラからのマルウェアの探索・除去等の支援に当たったと言われています。ウクライナ侵攻前、ロシアのハッカーがウクライナ政府機関に「破壊的なサイバー攻撃」を仕掛けていたことも判明していますが、事前に周到な準備をしていたからこそダメージを最小限に抑えることができたのでしょう。
安倍 今回は、ロシアvsウクライナというより、ロシアvs自由主義陣営という構図になっています。西側諸国の連携が果たす役割は大きい。
北村 ええ。米欧は、相当なレベルの軍事情報をはじめとするインテリジェンスをウクライナに提供しているはずです。だからこそ、ロシア側は、戦闘でかなりの被害が出ており、また、いまだに制空権を掌握できずにいる。ロシアと西側諸国の「情報力」の差が露呈した格好です。
安倍 情報戦は、「情報収集」と「情報発信」の両面からなります。北村さんは情報収集について指摘されましたが、情報発信についてもウクライナ優勢が続いている。私が注目したのは、GAFAをはじめとする民間企業の存在感です。ツイッターやユーチューブを通じて、リアルタイムで現地の映像が世界中に拡散される。SNSを駆使するゼレンスキー大統領の発信力と相まって、ウクライナがロシアを圧倒しています。(つづきは本誌にて!)
北村 クリミア併合(2014年)に際して、ロシア軍は、火力を主体とする軍事作戦とサイバー攻撃など非軍事的な工作とを組み合わせた「ハイブリッド戦」を展開しました。電子戦部隊を展開してウクライナ軍の無線通信を遮断し、使用不能にした。ロシアは、事前のサイバー攻撃で、ウクライナ軍の指揮命令の方法などの情報を入手。偽の指令の下に集まったウクライナ兵は、ロシア軍から集中攻撃を受けて壊滅に追い込まれた。約1万5000人からなるロシア軍が、約5万人のウクライナ軍を圧倒したのです。
今回もロシアは、この手法を駆使しようとしました。しかし、プーチン大統領の思惑に反して、ウクライナ軍による激しい抵抗や西側諸国を中心とした支援がロシア軍の行く手を阻(はば)んでいる。ロシア軍は、キーウから撤退、東部に戦力を集中させる方針に切り替えています。
安倍 8年前と現在、いったい何が違うのか。
北村 ウクライナは、過去の敗北を教訓にして、ハイブリッド戦に臨む準備をしていました。ゼレンスキー政権は、行政サービスのデジタル化を進めるため、デジタル変革省を設置した。そのデジタル変革省が、有事においてデジタル戦闘部隊の司令塔になりました。
米国は、昨年12月中旬には、ロシア軍がウクライナに侵攻すると確信していたようです。それから侵攻までの間、米国のサイバーコマンドの前線チームやEUのサイバーセキュリティ即応部隊がウクライナ入りして、基幹インフラからのマルウェアの探索・除去等の支援に当たったと言われています。ウクライナ侵攻前、ロシアのハッカーがウクライナ政府機関に「破壊的なサイバー攻撃」を仕掛けていたことも判明していますが、事前に周到な準備をしていたからこそダメージを最小限に抑えることができたのでしょう。
安倍 今回は、ロシアvsウクライナというより、ロシアvs自由主義陣営という構図になっています。西側諸国の連携が果たす役割は大きい。
北村 ええ。米欧は、相当なレベルの軍事情報をはじめとするインテリジェンスをウクライナに提供しているはずです。だからこそ、ロシア側は、戦闘でかなりの被害が出ており、また、いまだに制空権を掌握できずにいる。ロシアと西側諸国の「情報力」の差が露呈した格好です。
安倍 情報戦は、「情報収集」と「情報発信」の両面からなります。北村さんは情報収集について指摘されましたが、情報発信についてもウクライナ優勢が続いている。私が注目したのは、GAFAをはじめとする民間企業の存在感です。ツイッターやユーチューブを通じて、リアルタイムで現地の映像が世界中に拡散される。SNSを駆使するゼレンスキー大統領の発信力と相まって、ウクライナがロシアを圧倒しています。(つづきは本誌にて!)
『WiLL』2022年6月号(4月26日発売!)
◎『WiLL』2022年6月号目次
百田尚樹:橋下徹の怪しい言説 キミは中露の代弁者か/「ロシア・中国・北朝鮮“魔の三核地帯"に立つ日本」安倍晋三・北村滋:プーチンは力の信奉者/高市早苗:《早苗の国会月報》日本は核兵器の最前線/ナザレンコ・アンドリー:ロシアに降伏したら地獄が待っている/岩田清文(元陸上幕僚長)・門田隆将:これならできる核共有(シェアリング)/中村逸郎(筑波学院大学教授):ロシアを決して信じるな/廣瀬陽子(慶應義塾大学教授):ハイブリッド戦争の内幕/宮嶋茂樹:グラビア 殺戮と破壊 これが戦争じゃ! 目を背けるな!
百田尚樹:橋下徹の怪しい言説 キミは中露の代弁者か/「ロシア・中国・北朝鮮“魔の三核地帯"に立つ日本」安倍晋三・北村滋:プーチンは力の信奉者/高市早苗:《早苗の国会月報》日本は核兵器の最前線/ナザレンコ・アンドリー:ロシアに降伏したら地獄が待っている/岩田清文(元陸上幕僚長)・門田隆将:これならできる核共有(シェアリング)/中村逸郎(筑波学院大学教授):ロシアを決して信じるな/廣瀬陽子(慶應義塾大学教授):ハイブリッド戦争の内幕/宮嶋茂樹:グラビア 殺戮と破壊 これが戦争じゃ! 目を背けるな!
1954年、東京都生まれ。93年、衆議院議員当選。自由民主党幹事長、内閣官房長官などを歴任し、2006年、戦後生まれで初の内閣総理大臣に就任。12年、第96代内閣総理大臣として再登板を成し遂げる。20年、辞任。著書に『新しい国へ』(文春新書)、『日本よ、咲き誇れ』(百田尚樹氏との共著、ワック)などがある。