橋本琴絵の愛国旋律㉔~いまこそ給付金の再支給を

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国民の生活を壊滅させる「緊急事態宣言」

 日銀の黒田総裁は総裁任期が終了する前に当初の目標「インフレ率2%」を達成できない見通しを公表した(令和3年4月29日)。これまで大規模な金融緩和政策を行い、定期的にETF買い入れをして市場に資金を投入し続けてきたが、総裁任期終了前であっても0.7%から1%のインフレ率に留まるとの予測値を示した。

 新型コロナウイルスの影響によって経済活動が萎縮するなか、ますますあらゆる消費が抑制され、貨幣の流動性が失われつつある。このなかで、同月23日に自民党の安藤裕衆議院議員は「緊急事態宣言が出される中、改めて個人と企業に対する給付金を拡大すべきだ」との政策方針を提言した。しかし、昨年10月27日に麻生太郎財務大臣は、給付金の再支給に対して懐疑的見解を示し、「間違いなく預金に回ったことは確か。消費に回らないと本来の目的を達成できない」との立場を表明した。

 市場に流通する貨幣量が少なく、ウイルス感染拡大を防止するため、政策的に経済活動が抑制される情況は、実はこれまでの経済学の研究において前例がない。しかし、デフレ状態をそのまま維持するないしは政策的に促進すると、中産階級が没落して一部の富裕層に資本が集中する現象が起きることは歴史の必然だ。このままインフレ目標が達成できぬまま突き進めば、日本人の貧富の格差は促進される。それ自体の善し悪しの評価を本論は下すものではないが、デフレ政策がもたらす社会構造について近似する歴史的事実を説明することで、本論はいまこそ給付金再支給を主張するものである。

幕末の「金」流出

 時は明治初期、松方正義が大蔵大臣を務めていたときである。当時の日本は、銀本位制といって、日本各地の銀行の発行した紙幣を銀行に持参すると「銀貨と交換できる」という約束をすることで、ただ紙っぺらである紙幣に「価値」を持たせて流通させていた。現在のように紙幣発行権を持つのは日本銀行ただ一つということではなく、153行ある銀行がそれぞれ紙幣(兌換券)を発行していた。現在も、数字を行名とする銀行があるのは、この時代の名残だ。たとえば「七十七銀行」は、「七十七」番目に設立認可された銀行という意味である。

 本来ならば「金貨」と交換できる「金兌換券」を発行したかったが、明治初期の日本には金塊がほぼなかった(1895年に下関条約で清国から賠償金として大量の金塊を獲得するまで金貨を本位とすることができなかった)。というのも、江戸幕府が経済的な自殺政策をしたことに因って日本国内の小判が大量に国外流出をしてしまい、明治初期には「金」がほぼなかったのである。

 なぜ金が国外流出をしたのか。幕末、ペリーの来航によって江戸幕府は開港を決定した。このとき江戸では金貨が流通し、大坂では銀貨が流通していたため、双方での交換比率が変動相場制となり、現在のデイトイレダーのような職業が当時もあった。いまも株やFXで世界的に使用されているテクニカル指標のローソク足は、18世紀の商人・本間宗久が開発したものだ。

 この江戸と大坂の金銀比価率(交換率)はおよそ1対5であったが、欧米の交換比率はおよそ1対15であった。アメリカ人が銀15を日本にもってきて金3と交換し、再びアメリカに帰国すれば銀45となる。つまり、日米を往復するだけで莫大な富を得られたのである。まさに「ゴールドラッシュ」であった。

 普通ならばここで幕府が金銀交換比率を欧米に合わせるが、江戸幕府はこれを放置した。すると、見事に日本国内の小判が国外に流出し、市場に流通する貨幣量が少なくなるデフレ状態になったのである。事態の深刻性に気づいた幕府は、1860年に従来の金含有率を極端に下げたミニマムサイズの「万延小判」を鋳造したが、すでに日本国内の貨幣流通量は下がり、経済的困窮をした人々は「御一新」を求めたのである。

 このような背景があり、明治初期には金貨を大量に鋳造するだけの金が国内にはなく、銀貨を使用していた。
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内閣総理大臣、大蔵卿、大蔵大臣を歴任した松方。また日本銀行の設立、金本位制の確立など財政面でも日本の近代化に多大な業績を残した。

松方財政の功罪

 さて、明治維新から9年後、不平士族たちが日本各地で武装蜂起し、中でも最大の反乱が西郷隆盛による西南戦争だった。政府はこれを鎮圧するため、大量の紙幣を増発して戦費調達をし、インフレ状態となった。

 このインフレを解決するために登場したのが、大蔵大臣の松方正義であった。いわゆる「松方財政」でデフレ政策を実行し、増税をしたのである。今日も続く酒税が導入されたのはこのときだ。

 すると、どうなったか——中産階級が没落し、資本が集約されたのである。この仕組みを具体的に説明していこう。

 当時、田畑には固定資産税である「地租」が課されていた。地租は、地価の3%を納付する。そして地価は、その田畑の過去10年分の収穫高から種籾と肥料などの原価を差し引いた額によって決定された。

 つまり、インフレ状態では農作物の価格は上昇するが、デフレになると下落する。しかし、税金はインフレ状態のときの農作物価格を基礎にして算定する。これでは、デフレによって農作物価格が下落すると納税は困難になる。怒り狂った農民たちは大規模な抗議運動をして、1878年に地租は2.5%に減税されたが、それでも納税困難者は結局土地を売却せざるを得ないことになった。この土地を周囲の地主が買い集め、資本を集約し、いわゆる地主と小作人の関係が定着したのである。

 自作農家は収穫した米をただちに売却しなければ生活できなかったが、地主は収穫した米を蔵に備蓄し、米価が高騰する7月に(収穫前の時期は米が市場に少なく米価が高かった)売却したので資本にゆとりがあり、地租も納税してかつ、売りに出された自作農の土地を買い集めることができたのである。

 こうして明治初期には、中産階級が没落して資本集約が為された。ここからが重要である。地主達は集めた資本を近代産業に投資した。主に、鉄道敷設と製鉄などの殖産興業である。このように日本各地で鉄道網が敷設され、日本は近代化の一歩を歩んだのだ。当時の中産階級は投資をしなかったが、地主たちや華族・皇族、そして天皇陛下も積極的に株を購入して近代産業に投資し続けたのであった。結果として、小作人に没落した人々も、鉄道を利用するなどして流通が促進され、生活水準は大きく向上して人口も増加したのであった。

電子マネー給付が効果的?

 ここまでが、松方財政のデフレの効果の説明である。話を現代に戻そう。いま、日銀がインフレ政策に失敗したと宣言し、ウイルス感染防止という経済学上前例のない経済規制が作用して自由取引が阻害されるなか、経済状態は悪化の一途をたどっている。

 公共心が強くあった明治の富裕層は集めた資本を国内産業に投資したが、現代の富裕層は外資に投資していることが多い。つまり、江戸幕府のときと同じように、日本国内の富や技術が国外流通する恐れを否定できない。それが「現代の中間層の没落」に付帯する恐れである。

 明治時代に中産階級が没落して購買力を失ったため、発達した産業は日本国内での需要を見込めず、市場を求めて海外に進出した。帝国陸軍はこれらの企業を保護するため出兵を続けた。こうして日本流の帝国主義が勃興し、山東省出兵にはじまる一連の大陸進出の契機となって他国との紛争要因を生み出した。

 戦後はこの点を反省し、労働関連法を整備して最低賃金という社会主義政策を取り入れて自由競争を一部制限し、国内需要となる中産階級以下の購買力を保護した。また、国際的にはGATT(関税及び貿易に関する一般協定)を結成し、主権国家が任意に関税を行使して自由貿易を阻害することなく、各国企業が平和裏に取引できるよう協定にて関税率を取り決め、今日はWTOがその体制を踏襲している。
橋本琴絵の愛国旋律㉔~いまこそ給付金の再支給を

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電子マネーで給付金の再支給を!
 ウイルス経済自粛という前例がない事態である以上、手探りで解決策を探らなければならないが、少なくとも「給付金の再給付」は、インフレ率の向上と中産階級以下の保護に寄与する。しかし麻生大臣の指摘通り、給付金が貯蓄に回されては意味がない。そこで、本論は「電子マネー給付」を提案する。1回に5万円を複数回にわけて給付するのである。交通系ICカードを所持していない老人世帯などには、カードそのものを交付すれば事足りる。ICカードの原価は500円未満だ。何より、電子マネーは貯蓄することが現状できない。もちろん、それまで現金で購入した分を電子マネーに変えたならば、その分の現金が貯蓄されて同じではないか、という批判もある。しかし、それでもやってみなければインフレ率は上がらない。

 旅客業など特定の産業のみ公的資金を投入したのが昨年までの経済政策であったが、現在ではあらゆる産業に影響が出ており、法の下の平等を担保するためにも、まず個人給付として電子マネーを給付すべきではないだろうか。もちろん、ペイペイなどは絶対に除く。
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橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。日本会議会員。

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