「感染が拡大すると、医療現場だけではない、逼迫するのは。もうこれは、(首都)直下地震相当のものだという認識」

 東京都の小池百合子知事が久しぶりに怪気炎を上げた。

 新型コロナウイルスのオミクロン株の感染者が急速に増え、1月11日には962人の感染が確認され、都は飲食店での人数を1グループ8人から4人までに制限した。スポーツ施設や図書館などを除く都の施設は、11日から原則休館になった。
白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

本当にもう勘弁してくれ!

オミクロン株の特徴

 オミクロン株はデルタ株とくらべると毒性が低く、ウイルスが肺に達する率が低いことが明らかになっている。

 1月8日のブルームバーグによれば、オミクロン株の特徴は死亡者が少なく、無症状の患者が多いことだという。また、南アフリカの入院患者数は過去の半分で頭打ちになっており、週単位の死亡率を比べると、5分の1以下でピークに達していることも言及されている。

 南アフリカ医学研究評議会のウェブサイトによると、入院中に死亡した新型コロナウイルス患者の割合は4.5%で、以前の平均である21%より格段に低くなっており、集中治療室への入院患者も4.3%から1%に減少しており、入院患者数のピークはデルタ株では213人であったのに対し108人とやはり減少している。
 さらには、入院患者が増加してから33日以内に減少し始める傾向が見られ、入院日数は前回の平均8.8日と比べて、平均4日と低い。前の感染拡大では50歳前後だった入院者の平均年齢も、今回は39歳であることなどが明らかになっている。

 急速に感染者を増やしてピークアウトしている点ではイギリスも、やはり南アフリカと同じで約1ヶ月でピークアウトした可能性が高いという。さらに、ウォールストリート・ジャーナルによれば、アメリカにおいても1月ほど経ってからピークアウトした可能性があることを指摘している。

 日本国内の報道でも、1月12日の沖縄タイムズで沖縄県医師会理事の玉城研太朗医師が、オミクロン株の感染者の発熱が39度前後になることがあるが、発熱が続くのは長くても3日程度だということを伝えている。

 これらの国(南ア・英国・米国)では本格的な防疫はやっておらず、オミクロン株が急速に拡がるが、収束も早いことが確認されたわけだ。
白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

正しい情報に基づき対応することが必要だ―
 もちろん、沖縄タイムズの記事で玉城医師も述べているとおり、高齢者や基礎疾患がある人は気をつけなればならないのは当然だが、それはオミクロン株ならずともインフルエンザなどでも同じことだ。

 新型コロナウイルスのパンデミックによって日本経済もダメージを受けており、行政は感染による被害とともに、経済の悪化による「被害」の回復も重視すべきときに来ている。

 計算上1人が何人に感染させていることになるかという「実効再生産数」の推移を見ると、各都道府県とも多くが低下傾向に入っている。ただし、数自体はまだ1を超えているので増加傾向が続くだろう。

 このままの傾向で推移すれば、南アフリカやイギリスのパターンを踏む可能性が高いと見るべきだ。オミクロン株は急速に拡大しても約1か月でピークアウトするという各国のデータを日本は無視すべきではなく、経済を立て直すことを優先すべきである。

危機を煽る「小池発言」集

 以上の事実を踏まえると、このオミクロン株に対して、小池知事は「首都直下地震」レベルと警告していることには違和感しかない。これは小池知事がデータを無視して、感染を利用して「小池劇場」を盛り上げようとしているのではないだろうか。

 実際、小池知事はこれまで危機を煽る言動しかしてこなかった。時系列に追って見てみよう。
【2020年】
3月:この1ヶ月が勝負・感染爆発の重大局面
5月:ゴールデンウィークは外出自粛
6月:新しい日常(※)
 ※感染者1日34名で「東京アラート」を発動して、レインボーブリッジや都庁舎のライトアップを赤色にする

7月:この夏は特別な夏
9月:この連休がヤマ
11月:我慢の三連休・5つの小(少人数・小一時間・小声・小皿・小まめ)
12月:短期集中で自粛・真剣勝負の三週間・年末年始特別警戒・年末年始が分水嶺

【2021年】
3月:6月までが正念場
4月:本当の正念場
7月:勝負所だと思っている・まさに今が山場・この夏を最後のホームステイに(※)
 ※この時、「いたずらに不安をあおることはしていただきたくない」という呆れた発言もしている。

8月:最後の我慢をお願いしたいところ・きわめて大事な時期
9月:まさに今が踏ん張りどころ・今が本当に正念場・後もう一踏ん張り

【2022年】
1月:もうこれは(首都)直下地震相当のものだという認識・一夜にして東京が雪景色に変わったように、新型コロナもオミクロン株に変わり、景色が一変した
 「三密」というワードが異常にウケたことで図に乗ってしまったのか、ここまで不安を煽るキャッチフレーズを多用している。また、偶然なのかどうか知らないが、感染が収まっていた時期には入院やリモートワークをおこない、感染が拡がるとがぜん元気になり登場してくる印象がある。

 ここからわかるのは、小池知事が都民のことを考えて新型コロナウイルス対策を実行してきたのではなく、感染を利用して自分に注目を集めようとしている可能性が高いということだ。

 とくに、「首都直下地震」というたとえはあまりに過剰であり、東日本震災をはじめとする地震の被災者に対する配慮も、感染に冷静に対応しようとする姿勢もない。そこにあるのは世間の注目を浴びるために社会を煽り立ててたいという意志の強さだけだろう。
白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

白川司:オミクロンまで利用する「小池劇場」はもういらない

目立つことばかり大好き!
 オミクロン株のデータを都知事の地位にある者が知らないはずがない。小池知事は「オミクロン株がピークアウトする前に、何か策をやって目立ちたい」と心中はやり立っているのではないのか。実際、そうでもないかがぎり「直下地震」などといった不遜な例を出すはずがない。

 だとすれば、本当は緊急事態宣言を出したかったのかもしれないが、とりあえずまん延防止措置がとられることになった。

 今回のまん延防止措置は執筆現在(1/18日)、13都県で実施されることになっているが、13人の知事のうちで本当に県民のことを考えている者はどれくらいいるのだろうか。

 各知事にしたら、小池劇場に抗うのは難しいのかもしれないが、ほかの道府県には冷静な判断を仰ぎたい。感染対策も大切だが、経済の立て直しも同様に重要だ。もし、小池知事同様にオミクロン株を自分の支持率アップに利用しているのであれば、「小池知事と同レベル」だと見なすしかない。

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白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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