時間だけが流れて

 横田滋さんの訃報を知り、悲しさや悔しさを超えたやりきれなさが襲ってきました。近年は健康状態も芳しくなく、講演や街頭演説では妻の早紀江さんが代わりにマイクを握る光景が多くなっていたので心配していましたが、あまりに早すぎる。いや、政府の対応が遅すぎるのです。2月、有本恵子さんの母親・嘉代子さんも亡くなりました。拉致被害者の家族がご高齢になるなか、残酷に時間だけが過ぎていきます。

 平成14年、羽田空港に降り立った政府チャーター機から、ついさっきまで北朝鮮に囚われていた日本人たちがタラップを下る姿は、小学生だった僕の目に不思議な光景として焼き付いています。
 鳥取砂丘から遠くない地で育ったため、季節を問わずよく海へ散歩することがありました。工作員に捕らわれ、あの寒くて波の高い日本海を渡って独裁国家に連れていかれた同胞たちがいた。海水浴客で溢れる明るい太平洋と対照的に、ドス黒くて暗い日本海。拉致問題を知ってからというもの、このイメージはいまだに頭から離れません。

どの口が言っているのか

 拉致問題解決を遠ざけてきたのは誰か。列挙するだけで一冊の本になりそうですが、最大の犯人は朝日新聞と旧社会党ではないかと思います。

 昭和55年、産経新聞が「アベック三組ナゾの蒸発 外国情報機関が関与?」と北朝鮮による国家犯罪を報じて以降、他の新聞社・テレビ局はダンマリを決め込んでいました。
 それどころか、前々回のコラム「検察問題とモリカケ・慰安婦報道の共通点」で書いた通り、朝日は日本国民の目を拉致問題から逸らさせるかのように、慰安婦キャンペーンを展開していたのです。
 極めつきは平成11年、朝日に掲載された社説です。「日朝の国交正常化交渉には、日本人拉致疑惑をはじめ障害がいくつもある」。北朝鮮との国交樹立に前のめりになるあまり、拉致問題を「障害」と断じるとは、どこの国の新聞社なのでしょうか。

 また福島瑞穂参院議員はツイッターで、「横田滋さんが亡くなられたとの報道を聞きました。早紀江さんに議員会館前で声をかけられ話をし、また写真展などに行ってきました。滋さんが生きていらっしゃる間に拉致問題が解決せずに申し訳ありません。心からお悔やみを申し上げます」と呟きました。
 どの口が言っているのか。小泉訪朝後もなお、「拉致は創作された物語」と『労働新聞』の見出しかと見紛う論文を党のHPに掲載し続けた土井たか子をはじめ、旧社会党の中で誰が拉致被害者家族の声に耳を傾けたのか。福島瑞穂議員や辻元清美議員をはじめ、北朝鮮の国益のために行動しているとしか思えない売国政治家を絶対に許してはなりません。

 反日政党・メディアに加え、もちろん政権与党としての自民党の怠慢、外務省の事なかれ主義も追及されるべきでしょう。
 犯罪国家に乗り込み力づくで同胞を奪還することもできない平和憲法にもどかしさを覚えながら、拉致問題が北朝鮮との戦いであると同時に日本社会に深く根を張る「戦後レジーム」との戦いでもあると痛感するのです。
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山根 真(ヤマネ マコト)
1990年、鳥取県生まれ。中学時代から『WiLL』を読んで育つ。
慶應義塾大学法学部卒業。ロンドン大学(LSE)大学院修了。銀行勤務を経て、現在『WiLL』編集部。
好きなものは広島カープと年上の優しい女性。

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