コロナ禍が半導体の需要を押し上げている。ひところは需要が落ちていたパソコンも、コロナ禍でリモートワークが普及するに従って需要が復活、パソコンやサーバーの売り上げが急激に伸びて、コンピュータチップなど半導体への需要も急激に増加したためだ。

 だが、コロナ禍まで半導体生産は抑え気味であったために、急激な需要の伸びに生産が全くついていけず、その反動で世界では深刻な半導体不足が起こっている。

 一部の半導体は来年には回復すると言われているが、不足状態を根本的に解消するには数年かかると見る専門家も多い。

 半導体工場を建設するには莫大な投資額が必要で、企業側もおいそれと工場を増設するわけにはいかないという事情もあるようだ。簡単に解消する見込みはないと考えたほうがいいだろう。
白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に...

白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に体制づくりを

台湾企業の国内回帰

 現在、最も優れたコンピュータチップを製造しているといわれているのが、半導体受託製造の最大手の1つであるTSMCを中心とする台湾勢である。

 台湾製半導体の強さは政府のバックアップで政経一体となって莫大な投資を続けられることと、コストの安い中国工場をすぐ近くに建設できることから来ていると言っていいだろう。

 中国は工場建設や人件費が安く、かつ、部品も素材や調達も比較的容易であるので、半導体の一大消費地でもある中国に工場を構えることができることは台湾製半導体の強みであるのだ。

 ところが、トランプ政権下に米中で貿易戦争が勃発して、近年はこの状況が少しずつ変化している。

 トランプ政権は半導体を含む中国製のエレクトロニクス製品などに25%という制裁関税をかけて、対アメリカ輸出に関しては中国で生産するメリットが失われつつある。バイデン政権もトランプ関税を維持しており、対中高関税政策が今後も続いていくのはほぼ確実だ。

 また、アメリカの特許技術を使った部品などの中国への輸出も禁じており、台湾にとっては中国で生産をし続ける場合、技術流出防止策のための手続きも複雑化することとなる。

 そのため台湾企業は中国本土から台湾へ工場を呼び戻しはじめているのだが、台湾政府も国内回帰する台湾企業を支援しており、ここでも政経一体が見られる。
白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に...

白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に体制づくりを

政経一体で半導体産業を支援する台湾

米台連携の強化:台湾の戦略と米国の懸念

 台湾からアメリカへの輸出は確実に増えている。WSJによると、台湾の2021年9月までの1年間の対米物品輸出額は、これまでで最大の720億ドル(約8兆)に達している。この数字はトランプ政権による制裁関税発動前の2017年を、約70%上回っているという。

 これは、米台が政治連携と同時に経済においても連携関係が強まりつつあることの表れだろう。

 またこのことは台湾にとっても安全保障上、大きなメリットがある。

 台湾政府はアメリカの技術を支える高機能半導体の技術を台湾に置くことで、中国に対する抑止力を高めようとしている。もし中国が台湾を併合してしまえば、中国はTSMCなどの技術を設備と人材ごと奪うことができるため、アメリカも台湾を死守しようとするであろうという狙いである。

 アメリカとの経済関係の強化は、中国政府の「1つの中国」に対する、台湾にとっての「1つの経済圏」策と言うこともできよう。

 とくに半導体受託製造の世界トップ企業であるTSMCは、アメリカのための技術革新に(言うまでもなく日本にとっても)なくてはならない存在となっており、実際にアメリカは半導体について台湾にかなり依存している状態である。

 ただ、台湾依存が深まることに対して、アメリカ国内では最近懸念も深まっている。というのは、「半導体が台湾の抑止力」であることの裏返しとして、もし台湾有事が起これば、TSMCの高機能半導体を入手できなくなる可能性が高く、アメリカの高技術産業が混乱に陥る可能性すらあるからだ。

 たしかにテキサス州などにTSMCの高機能半導体のアメリカ工場を建設中ではあるが、台湾有事ともなればアメリカ工場であってもTSMCが正常に運営できるかどうかわからないと考えるべきだろう。

 そのため、アメリカ政府はTSMC以外のインテルやサムスンなどにも大きな財政を支出して支援を開始しており、アメリカ国内に大型工場の建設を進めている。これは、アメリカがそれだけ「台湾有事の可能性」の高く見積もっているからだと言えるだろう。
白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に...

白川司:「台湾有事」で半導体はどうなる? 日本は早急に体制づくりを

自国で半導体の生産をすることの重要性を米国も理解している

日本こそ早急な対応を

 アメリカが半導体の安定供給の確保にこれほど必死になるのは、半導体が産業・経済上のみならず、直接的に安全保障において重要だからである。

 すなわち、半導体はパソコンや電化製品、自動車だけでなく、武器や防衛装備品などにも使われており、平たく言えば、半導体がなければ軍事・防衛に必要な製品が調達できなくなる。だからこそ、国内に半導体工場を抱えることは、安全保障上も必須といえるのだ。

 日本でもTSMCの熊本工場の進出が決まったが、この工場は高機能半導体ではなく、自動車用を中心としている。いわば日本の産業を支える工場にはなるのだが、それがTSMCのみというのは、なんとも心細い。

 日本の半導体企業を支援するのは当然として、さらにサムスンやインテルの誘致も検討すべきだろう。

 また、高機能半導体を使用する産業を拡大させて需要を拡げて、国内に高機能半導体工場があることがメリットになる体制作りをすることも進めて欲しい。半導体はその産業の趨勢を決めるほど重要であり、半導体がなければ、真の意味での「産業の空洞化」に陥ってしまうのである。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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