「アメリカ社会は益々分裂を深めている」「アメリカの病は深い」といった言葉を日本のメディアでしばしば見聞きする。「なぜここまで分断が進んだのですか」と聞かれることも多い。この問いに答える前に、特に日本においては、まず問いの前提自体を問題にせざるを得ない。
確かに、野党民主党多数の下院がトランプ大統領の弾劾訴追を決め、与党共和党多数の上院が否決するといった動きや、最高裁判事の任命をめぐって、30年以上前の、すなわち当該判事の高校時代や大学新入生時代のきわめて根拠薄弱な「性暴行疑惑」を野党が大々的に取り上げて阻止を図ったり、「黒人の命は大事だ」「警察の資金を断て」等をスローガンとしたデモやそれに便乗した破壊行為、略奪が各地で起こったりという情景を日々メディアで見せられると、「アメリカは大丈夫か」という印象になるのも当然だろう。
しかし一方でアメリカ議会は、ほぼ全会一致で、中国政府の嫌がる「香港人権・民主主義法」や「ウイグル人権法」を通している。日本の国会では考えられない与野党の結束ぶりだろう。日本の政界関係者に、「アメリカの分裂は深刻」などとうそぶく資格は全くないと私は思う。アメリカの政治家は、連日「仁義なき政争」を繰り広げつつも、基本的理念が掛かった外政課題では、一致結束して明確な意思を示しているのである。
昨今、尖閣諸島周辺で中国の軍事圧力が高まっている。「中国公船が、尖閣諸島の領海侵入のうえ、日本漁船に接近・追尾するという行動をとったことに強く抗議する。全世界が協調してコロナ禍に立ち向かうべき時に、東シナ海でも、南シナ海でも、中国指導部が覇権主義的な行動を続けていることは、厳しく批判されなければならない」と日本共産党の志位和夫委員長がツイートした通りである(5月9日)。
自民党でも、5月21日、政調会外交部会(中山泰秀部会長)が、中国側への厳重抗議を政府に求める決議を全会一致で採択し、党三役の一人岸田文雄政調会長に申し入れを行った。23日、若手で勢いのある小野田紀美参院議員が、「中山部会長のリーダーシップに感謝です。しかし本来ならば自民党外交部会だけでなく、国会において全会派で決議を行うべき。抗議決議に反対する人や党がいるならそれも明らかにすればいい。国会での非難決議、抗議の決議を求めます」とツイートしている。その通りである。共産党も、志位氏の言葉に噓がなければ賛成するはずだろう。
ところがその後、自民党指導部に国会決議を目指すような動きは全く見られなかった。従って「抗議決議に反対する人や党」は誰なのかを国民が知る機会も得られなかった。なぜ尻すぼみになったのか。最大の「反対する人」が二階俊博自民党幹事長だからだろう。そして最も緊張感を欠く一人がやはり同党最高幹部の1人で「次期首相候補」の岸田氏だからだろう。自民党の不都合な真実である。小野田氏を揶揄しているのではない。党や議会は政府より厳しい姿勢を打ち出すことで政府の交渉を後押しする、が議員外交の基本である。「それではとても議会を納得させられない」と首相や外相が相手に言える状況をつくるのが議員の責務である。「あの媚中一筋の二階や頼りない岸田まで怒っているのか」と中国側が感じるに至れば、流れが幾分変わるかも知れない。
自民党の若手議員たちが、ともあれ外交部会の決議を取り付けたことは評価しよう。しかしそこが限界で、国会決議はおろか、自民党としての決議案をまとめるところまでもいかずエンストしてしまうのが、情けないことに日本政治の現状である。「人事は政策」という。かつての安倍晋三幹事長、中川昭一政調会長といった陣容なら、違う展開もあったかも知れない。二階氏に代表される媚中派の発想では、中国が傍若無人に振舞えば振舞うほど、だからこそ習近平主席を国賓招待し国を挙げて大歓迎せねばならない、そうすれば相手も心をなごませ、態度を和らげてくれるだろうとなる。
こうした媚中心理がウイルスより厄介なのは、感染者にいつまで経っても免疫ができない点にある。結局、初めから対中免疫を持った人間を議会に送り、党を指導する立場に据えるしかない。1990年9月、自民党のドン金丸信と社会党副委員長の田辺誠が訪朝したが、媚朝に徹し、拉致のラの字も出さなかった。現在の政界も、拉致議連の少数の幹部や若手有志を除けば、党派を超えて同程度の意識にとどまっている。
確かに、野党民主党多数の下院がトランプ大統領の弾劾訴追を決め、与党共和党多数の上院が否決するといった動きや、最高裁判事の任命をめぐって、30年以上前の、すなわち当該判事の高校時代や大学新入生時代のきわめて根拠薄弱な「性暴行疑惑」を野党が大々的に取り上げて阻止を図ったり、「黒人の命は大事だ」「警察の資金を断て」等をスローガンとしたデモやそれに便乗した破壊行為、略奪が各地で起こったりという情景を日々メディアで見せられると、「アメリカは大丈夫か」という印象になるのも当然だろう。
しかし一方でアメリカ議会は、ほぼ全会一致で、中国政府の嫌がる「香港人権・民主主義法」や「ウイグル人権法」を通している。日本の国会では考えられない与野党の結束ぶりだろう。日本の政界関係者に、「アメリカの分裂は深刻」などとうそぶく資格は全くないと私は思う。アメリカの政治家は、連日「仁義なき政争」を繰り広げつつも、基本的理念が掛かった外政課題では、一致結束して明確な意思を示しているのである。
昨今、尖閣諸島周辺で中国の軍事圧力が高まっている。「中国公船が、尖閣諸島の領海侵入のうえ、日本漁船に接近・追尾するという行動をとったことに強く抗議する。全世界が協調してコロナ禍に立ち向かうべき時に、東シナ海でも、南シナ海でも、中国指導部が覇権主義的な行動を続けていることは、厳しく批判されなければならない」と日本共産党の志位和夫委員長がツイートした通りである(5月9日)。
自民党でも、5月21日、政調会外交部会(中山泰秀部会長)が、中国側への厳重抗議を政府に求める決議を全会一致で採択し、党三役の一人岸田文雄政調会長に申し入れを行った。23日、若手で勢いのある小野田紀美参院議員が、「中山部会長のリーダーシップに感謝です。しかし本来ならば自民党外交部会だけでなく、国会において全会派で決議を行うべき。抗議決議に反対する人や党がいるならそれも明らかにすればいい。国会での非難決議、抗議の決議を求めます」とツイートしている。その通りである。共産党も、志位氏の言葉に噓がなければ賛成するはずだろう。
ところがその後、自民党指導部に国会決議を目指すような動きは全く見られなかった。従って「抗議決議に反対する人や党」は誰なのかを国民が知る機会も得られなかった。なぜ尻すぼみになったのか。最大の「反対する人」が二階俊博自民党幹事長だからだろう。そして最も緊張感を欠く一人がやはり同党最高幹部の1人で「次期首相候補」の岸田氏だからだろう。自民党の不都合な真実である。小野田氏を揶揄しているのではない。党や議会は政府より厳しい姿勢を打ち出すことで政府の交渉を後押しする、が議員外交の基本である。「それではとても議会を納得させられない」と首相や外相が相手に言える状況をつくるのが議員の責務である。「あの媚中一筋の二階や頼りない岸田まで怒っているのか」と中国側が感じるに至れば、流れが幾分変わるかも知れない。
自民党の若手議員たちが、ともあれ外交部会の決議を取り付けたことは評価しよう。しかしそこが限界で、国会決議はおろか、自民党としての決議案をまとめるところまでもいかずエンストしてしまうのが、情けないことに日本政治の現状である。「人事は政策」という。かつての安倍晋三幹事長、中川昭一政調会長といった陣容なら、違う展開もあったかも知れない。二階氏に代表される媚中派の発想では、中国が傍若無人に振舞えば振舞うほど、だからこそ習近平主席を国賓招待し国を挙げて大歓迎せねばならない、そうすれば相手も心をなごませ、態度を和らげてくれるだろうとなる。
こうした媚中心理がウイルスより厄介なのは、感染者にいつまで経っても免疫ができない点にある。結局、初めから対中免疫を持った人間を議会に送り、党を指導する立場に据えるしかない。1990年9月、自民党のドン金丸信と社会党副委員長の田辺誠が訪朝したが、媚朝に徹し、拉致のラの字も出さなかった。現在の政界も、拉致議連の少数の幹部や若手有志を除けば、党派を超えて同程度の意識にとどまっている。
島田 洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。