谷本真由美:東京五輪にみる"多様性先進国"ニッポン

谷本真由美:東京五輪にみる"多様性先進国"ニッポン

昔ながらの柔道を追求するウルフ・アロン選手(左)
 様々なスキャンダルやコロナ蔓延という困難を乗り越えて、東京五輪が開催された。コロナで世界が意気消沈するなかで開催された五輪であったが、無観客にしたり、選手や関係者を隔離するバブル方式をとったりすることで、できる限りの対策をとって何とか開催することができた。そんな日本の努力に対して、海外からは称賛の声が上がった。

 昨年来、他国では莫大な数の犠牲者が出ているにもかかわらず、日本は感染者数も死者数もケタ違いに少ない。政府が強権を発動しなくても、感染拡大を防ぐために多くの人が地道に努力していることが大きい。

 日本は今回、27個の金メダルを獲得した。メダルラッシュのなか、特に目立ったのは外国にルーツを持つ選手が大活躍したことだ。

 開会式で日本代表選手団の旗手を務めたバスケットボールの八村塁選手は、母親が日本人で父親が西アフリカのベナン人。外国人が八村選手を見ても、日本人の血が入っていると気が付かないことは多い。しかし、中身は純然たる日本男子である。

 柔道で金メダルを獲得したウルフ・アロン選手も父親がアメリカ人だが、東京の葛飾区出身で、昔ながらの凛とした柔道を追求する。それ以外にも、テニスの大坂なおみ選手をはじめ、日本には、海外にルーツがあるトップアスリートが多い。

 日本は先進国のなかで、外国人の比率は最低レベルだ。日本以外のアジア諸国は、日本よりもはるかに人種的に多様である。ところが、中国や韓国、東南アジアや南アジアはスポーツの世界における多様性が日本ほどない。

 日本は同質的な社会で不寛容などといわれるが、実にオープンであることがわかる。大和魂=日本らしさを理解して尊重する人に対しては、血や見た目にこだわることなく大らかに受け入れるのだ。
谷本真由美:東京五輪にみる"多様性先進国"ニッポン

谷本真由美:東京五輪にみる"多様性先進国"ニッポン

NBAで活躍するバスケ日本代表・八村塁選手も多様なルーツをバックグラウンドに持っている。
 神武天皇の「八紘一宇」というのは、天地四方八方の果てに至るまで、地球上に生存する全ての民族が一軒の家に住むように仲良く暮らすことを意味している。今の日本は、この世界平和の理想を見事に実践している。

 日本の保守層が、多様なルーツを持ったアスリートを攻撃するようなことはない。思い通りの成績を残せない選手にも「よく頑張った」と健闘を讃える。他国では考えられないことだ。しかし、日本という国の性質を考えると、これは驚くべきことではないのかもしれない。

 日本は島国で、昔から外部から人々や文化を受け入れて発展してきた。さらっと書くと何でもないように思われるが、世界的に見ると特殊な歴史である。

 ふつうは異なる民族や文化を持った人間が侵入してくると、紛争が起きたり抹殺されたりするのが当たり前。欧州の歴史を振り返っても、侵略、抹殺、戦乱の繰り返しである。イギリスとフランスは百年以上も血みどろの戦争を続けたことがあるし、ユダヤ人は各地で虐殺された。

 対照的に、日本は古代に到来したロシア系、東南アジア系、渡来人、南蛮人から文化を受け入れたが、欧州のような激しい弾圧や戦乱は起こらなかった。戦後はアメリカ文化をすんなりと取り入れることに成功した。

 新しもの好きで柔軟な国民性がなせる業である。悪く言えば「節操がない」となるが、要するに非常にゆるい国なのである。「家族」の概念や性的な慣習、儀式、食文化、言葉という点で、日本は文化人類学的には温暖でおおらかな太平洋諸島に近い部分がある。侵略や抹殺が繰り返される大陸文化のロシアや中国、韓国とは大きく異なる。

 地元や組織のしきたりや言葉を受け入れる人は、コミュニティの一員として迎える。血や見た目はあまり重要ではないのだ。だから八村塁選手や大阪なおみ選手、テレビ朝日『タモリ倶楽部』などでサブカルネタを披露するメガデスのマーティ・フリードマンさんが大歓迎されるのである。

 日本は昭和世代が引退し、平成以後に生まれた世代が社会の中心になりはじめている。東京五輪で活躍した選手たちのように、新たな世代が日本精神を受け継ぎつつ、和魂洋才のハイブリッドな日本人として新たな日本をつくり上げてくれるだろう。

 東京五輪を見ていて、日本の将来を心配する必要はないと確信した。
谷本 真由美 (たにもと まゆみ)
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて 国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、 国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国で就労経験がある。ツイッター上では「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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