2月26日夜、台北市中心部にある総統府で年に一度の春節(旧正月)記者晩餐会が行われた。蔡英文総統、頼清徳副総統ら台湾側の要人のほか、総統府担当記者と外国メディアの特派員ら計約200人が出席した。会場のステージに大きなテーブルが置かれ、台湾南部の屏東と台南で生産されたパイナップルが山のように高く積まれていた。総統府が記者晩餐会の参加者に配るお土産である。
この日の午前、中国政府は突然、「害虫を検出した」ことを理由に3月1日からの台湾産パイナップルの輸入停止を発表した。事実上の中国による経済制裁であり、台湾の政界に大きな衝撃を与えた。
パイナップルは台湾南部の主要農作物の一つ。苗を植えてから収穫するまで約18カ月かかる。3月から本格的な収穫期に入るが、その直前に中国への禁輸措置が発表されたことは農家にとって打撃となった。台湾の統計によれば、2020年のパイナップル輸出量約4万6千トンの9割以上が中国向けだった。
行き場がなくなった4万トン以上のパイナップルが台湾のマーケットで売られるなら、大きな値崩れを引き起こすことは必至で、ほかの果物に影響を及ぼす可能性もある。蔡政権の関係者らは「パイナップル危機」と名付け、10億台湾元(約37億円)の資金を投入し、販路拡大などを支援した。
26日の記者晩餐会であいさつに立った蔡氏ら台湾側の要人たちは「台湾のパイナップルを宣伝してください」「我々は中国の圧力に屈しない」など、次々と外国人記者らに訴えた。
この日の午前、中国政府は突然、「害虫を検出した」ことを理由に3月1日からの台湾産パイナップルの輸入停止を発表した。事実上の中国による経済制裁であり、台湾の政界に大きな衝撃を与えた。
パイナップルは台湾南部の主要農作物の一つ。苗を植えてから収穫するまで約18カ月かかる。3月から本格的な収穫期に入るが、その直前に中国への禁輸措置が発表されたことは農家にとって打撃となった。台湾の統計によれば、2020年のパイナップル輸出量約4万6千トンの9割以上が中国向けだった。
行き場がなくなった4万トン以上のパイナップルが台湾のマーケットで売られるなら、大きな値崩れを引き起こすことは必至で、ほかの果物に影響を及ぼす可能性もある。蔡政権の関係者らは「パイナップル危機」と名付け、10億台湾元(約37億円)の資金を投入し、販路拡大などを支援した。
26日の記者晩餐会であいさつに立った蔡氏ら台湾側の要人たちは「台湾のパイナップルを宣伝してください」「我々は中国の圧力に屈しない」など、次々と外国人記者らに訴えた。
台湾当局によれば、2020年に中国に輸出したパイナップルの合格率は99.79%で、中国側の安全基準を大きく上回っていた。「害虫を検出」は口実にすぎない。中台関係に詳しい台湾の与党、民主進歩党の幹部らの分析によれば、中国はこの時期にパイナップルを突然禁輸にした理由は複数あるという。
まずは、米国のバイデン政権が台湾への態度を試すことだ。1月20日に発足したバイデン政権は、口頭でトランプ前政権と同じく「中国の圧力から台湾を守る」と表明しているが、どこまで本気なのか不透明だ。
台湾の蔡政権への不満表示でもある。蔡政権は2月に対中窓口の担当閣僚人事を調整し、大陸委員会の主任委員に邱太三・前法務部長(法相)を任命した。中国側は台湾側の態度軟化を期待した。しかし、邱氏は就任のあいさつで、中国が主張する「一つの中国原則」の受け入れを否定し、蔡政権の従来の対中方針の踏襲を表明した。この姿勢は中国側の逆鱗に触れたという。
そして、中国国内に向けた宣伝の側面もある。習氏は2019年1月に対台湾講話を発表し、「一国二制度による台湾統一」という方針を改めて表明したが、台湾側に相手にされなかった経緯があった。その翌年、中国と対決姿勢を示す蔡英文氏が史上最多得票で総統に再選されたこともあり、習氏のメンツが丸つぶれという形となり、習氏の対台湾政策の有効性を疑う声は中国国内で出ていた。しかし、こうした中国側の露骨な嫌がらせは、各国の台湾支持を拡大し、台湾人を団結させる「逆効果」となった。台湾の企業や団体などが相次いでパイナップルを大量購入し、飲食店業界も相次いでパイナップル料理を打ち出した。米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、ベトナム、中東諸国からも注文が殺到した。
日本の輸入拡大が台湾メディアで大きな話題となった。単価の高い台湾パイナップルの日本における市場占有率は数%しかなかったが、2011年の東日本大震災から10年という時期と重なり、当時、台湾各界から200億円以上の義援金が寄せられたことも思い出す日本人が多く、「パイナップルを食べて台湾に恩返しをしよう」を合言葉に、日本各地のスーパーから台湾への注文が殺到した。
まずは、米国のバイデン政権が台湾への態度を試すことだ。1月20日に発足したバイデン政権は、口頭でトランプ前政権と同じく「中国の圧力から台湾を守る」と表明しているが、どこまで本気なのか不透明だ。
台湾の蔡政権への不満表示でもある。蔡政権は2月に対中窓口の担当閣僚人事を調整し、大陸委員会の主任委員に邱太三・前法務部長(法相)を任命した。中国側は台湾側の態度軟化を期待した。しかし、邱氏は就任のあいさつで、中国が主張する「一つの中国原則」の受け入れを否定し、蔡政権の従来の対中方針の踏襲を表明した。この姿勢は中国側の逆鱗に触れたという。
そして、中国国内に向けた宣伝の側面もある。習氏は2019年1月に対台湾講話を発表し、「一国二制度による台湾統一」という方針を改めて表明したが、台湾側に相手にされなかった経緯があった。その翌年、中国と対決姿勢を示す蔡英文氏が史上最多得票で総統に再選されたこともあり、習氏のメンツが丸つぶれという形となり、習氏の対台湾政策の有効性を疑う声は中国国内で出ていた。しかし、こうした中国側の露骨な嫌がらせは、各国の台湾支持を拡大し、台湾人を団結させる「逆効果」となった。台湾の企業や団体などが相次いでパイナップルを大量購入し、飲食店業界も相次いでパイナップル料理を打ち出した。米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、ベトナム、中東諸国からも注文が殺到した。
日本の輸入拡大が台湾メディアで大きな話題となった。単価の高い台湾パイナップルの日本における市場占有率は数%しかなかったが、2011年の東日本大震災から10年という時期と重なり、当時、台湾各界から200億円以上の義援金が寄せられたことも思い出す日本人が多く、「パイナップルを食べて台湾に恩返しをしよう」を合言葉に、日本各地のスーパーから台湾への注文が殺到した。
3月10日現在、対日輸出はすでに昨年の約3倍の6200トンに達した。台湾メディアによれば、今年のパイナップルの新しい注文はすでに4万トンを超え、「パイナップル危機」はみんなの協力で何とか乗り切った形だ。しかし、2020年の台湾の対中貿易は1400億ドル(約15兆4千億円)を超えた。パイナップルだけではなく、台湾の経済は中国に大きく依存しており、中国はこれからも別の形で嫌がらせをしてくる可能性もある。次の危機は今回のようにうまく乗り切れるとは限らない。中国以外の市場を開拓することは台湾政府にとって大きな課題だ。
今回の台湾のパイナップル騒動は、同じく中国に対する依存度の高い日本にとっては、他山の石だ。
今回の台湾のパイナップル騒動は、同じく中国に対する依存度の高い日本にとっては、他山の石だ。
矢板 明夫(やいた あきお)
1972年、中国天津市生まれ。15歳の時に残留孤児二世として日本に引き揚げ、1997年、慶應義塾大学文学部卒業。産経新聞社に入社。2007年から2016年まで産経新聞中国総局(北京)特派員を務めた。著書に『習近平 なぜ暴走するのか』(文春文庫)などがある。
1972年、中国天津市生まれ。15歳の時に残留孤児二世として日本に引き揚げ、1997年、慶應義塾大学文学部卒業。産経新聞社に入社。2007年から2016年まで産経新聞中国総局(北京)特派員を務めた。著書に『習近平 なぜ暴走するのか』(文春文庫)などがある。