中国軍が攻め込んでくれば、犠牲が出ないうちに速やかに降伏するのが良い、と説く論者たちがいる。彼らが理解していないのは、その瞬間に、世界最強の軍事力を誇るアメリカが味方から敵に変わるという現実だ。

 北京の軍門に下り、基地として使われる日本は、米国(およびその陣営)にとって、破壊対象以外の何物でもない。

 共に戦うから同盟国なのであって、降伏、特に無傷のまま身を差し出すような降伏をすれば、はっきり敵陣営の一角と見なされる。かつて合同演習もしただけに弱点がどこかつぶさに分かる。直ちに急所を突く攻撃を……。歴史はそうした実例に満ちている。
降伏の代償【島田洋一:WiLL HEADLINE】

降伏の代償【島田洋一:WiLL HEADLINE】

「降伏=平和」ではないのだ―
 第2次世界大戦初期の1940年7月3日、イギリス海軍が同盟国(だった)フランスの艦隊に総攻撃を加えた。地中海に面した仏領アルジェリアのオラン近郊の湾に停泊していた船舶群だった。その2週間前、フランスはドイツに早々と降伏し、パリへの無血入城を許していた。

 そのためイギリスは、爾後フランス艦隊はドイツ軍に組み込まれ、海洋国家イギリスの生命線たるシーレーンを断ち切られかねないと懸念し、先手を打って殲滅作戦に出たわけである。フランス海軍のダルラン司令官はこの間、艦隊を引き渡せという英側の要求を拒否しつつ、ドイツ軍の自由には決してさせないと説得を試みたが、英側は納得しなかった。

 英軍の爆撃でフランスには1297人の死者が出ている。戦わずに手を上げれば無事に済むといった都合のよい話には、残念ながら多くの場合ならない。むしろ占領軍による暴虐と、かつての友軍による攻撃の両方に晒される最悪の状況となりかねない。

 日米安保条約には、「いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後1年で終了する」との規定がある(第10条)。

 中国占領下に誕生した日本の傀儡政権は、直ちに日米安保の廃棄を宣言するだろうが、米軍は、1年間は在日基地に居座る権利を主張できる。
降伏の代償【島田洋一:WiLL HEADLINE】

降伏の代償【島田洋一:WiLL HEADLINE】

中国への降伏は、日米同盟の終焉を意味する―
 ここで改めて、なぜアメリカが日本とのみ、NATOのような相互性を持たない片務的な条約を締結したのかを考えてみよう。

 「日本軍国主義」を抑え込む意味でも、太平洋の対岸に南北に長く延びる(琉球諸島も含めれば台湾の近傍まで延びる)戦略拠点日本を敵対勢力の手に渡さないためにも、日本領内に米軍基地を維持することが死活的に重要と意識されたゆえである。日本が無抵抗のまま降伏し、中国に軍事基地、産業拠点として利用される事態を黙って見ているほどアメリカはお人好しではないだろう。

 たとえば、米第7艦隊の旗艦である揚陸指揮艦ブルーリッジ、空母ロナルド・レーガンなどが母港とする横須賀基地を、米政府が無傷で中国に献上するはずがない。撤退を余儀なくされる事態に至れば、使用不可能な状態に破壊したうえで去るだろう。テロリストが侵入したため激しい銃撃戦になった、弾薬庫に火炎瓶が投げ込まれ大爆発を起こしたなど「原因」はいくらでも考え出せる。

 ちなみに岸田首相は、ロンドン訪問中の5月5日の講演で、幼い頃に広島で聞いた被爆体験が「私を、平和を取り戻すための行動に駆り立てる」と述べ、「核兵器のない世界」を訴えるため、日本が議長国となる来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を地元広島で開催したい意向を滲ませたという。筋違いと言うほかない。

 日中露サミットを広島で開催し、習近平、プーチン両氏に核兵器先制不使用を誓わせるというならまだしも(あり得ないが)、核抑止力も含めて集団自衛体制の強化を論議すべき自由主義陣営のサミットで、議長が核廃絶(これまた予見し得る将来あり得ないし、捨てるにしても自由主義陣営は最後に捨てねばならない)を得々と語ればバカにされるだけだ。

 むしろ防衛大学校があり、米太平洋軍の拠点でもあって日米安保体制を象徴する横須賀あたりを開催地としてはどうか。「お前は核の惨禍を知らないとは誰にも言わせない。まさに広島、長崎の再発を防ぐため独自核保有に乗り出す」と宣言する「蛮勇」が岸田氏にあるならともかく、広島はG7サミットにふさわしい地ではない。
島田洋一( しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。著書に『アメリカ解体』(ビジネス社)など

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ホッとした人 2022/6/27 16:06

下記の二行が抜け落ちて居りました。
申し訳ありません。訂正致します。

正しくは
【保守派の人でも「このまま行けば・・・」と平気で不安を煽る人が居る。
勿論、島田氏の事ではない。
人生を振り返れば、誰だって「このまま行った試しが無い」のが、
普通ではなかろうか。】となります。

ホッとした人 2022/6/27 11:06

人生を振り返れば、誰だって「このまま行った試しが無い」のが、普通ではなかろうか。
「塞翁が馬」という言葉を知らなくても、その程度の人生しか送ってないのだろう。

アニメ「鬼滅の刃」の最初の方に出て来た、驚くべき台詞が在った。
「生殺与奪の権利を他人に与えるな」
原作者は、後に「結果を出さなければ周りは認めない。周りからは認められない。
仮に結果を出したとしても、認めず嫌がらせをするのが世の常」という、
この極めて当たり前の経験則を語らせる。

自ら戦わない「守って貰うのが当たり前」という、いい加減「おんぶにだっこ」は止めて欲しい。
戦争反対と叫んで、デモでもしてれば、中露が侵略を止めてくれるのだろうか。

学生時代、朝日新聞に広島での「核兵器廃絶」のデモで、インド人の留学生が馬鹿らしいと
帰って行ったのを見て、朝日はその留学生の考え方が理解できないと書いていたのを思い出した。

「抑止力」は最低でも、拮抗してこそ威力を発揮する。平和とはカネがかかる。
「タダではない」のだ、というこの当たり前の事が分からない人が多過ぎる。
それでもウクライナの件は反面教師として、日本人を幾らか覚醒させたかもしれない。
まさに「人の振り見て我が振り直せ」である。

朝日のようにアホが治らないのは已むを得ないが、
だからといって、そのアホ共の道連れだけは御免だ。

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