北京の軍門に下り、基地として使われる日本は、米国(およびその陣営)にとって、破壊対象以外の何物でもない。
共に戦うから同盟国なのであって、降伏、特に無傷のまま身を差し出すような降伏をすれば、はっきり敵陣営の一角と見なされる。かつて合同演習もしただけに弱点がどこかつぶさに分かる。直ちに急所を突く攻撃を……。歴史はそうした実例に満ちている。
そのためイギリスは、爾後フランス艦隊はドイツ軍に組み込まれ、海洋国家イギリスの生命線たるシーレーンを断ち切られかねないと懸念し、先手を打って殲滅作戦に出たわけである。フランス海軍のダルラン司令官はこの間、艦隊を引き渡せという英側の要求を拒否しつつ、ドイツ軍の自由には決してさせないと説得を試みたが、英側は納得しなかった。
英軍の爆撃でフランスには1297人の死者が出ている。戦わずに手を上げれば無事に済むといった都合のよい話には、残念ながら多くの場合ならない。むしろ占領軍による暴虐と、かつての友軍による攻撃の両方に晒される最悪の状況となりかねない。
日米安保条約には、「いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後1年で終了する」との規定がある(第10条)。
中国占領下に誕生した日本の傀儡政権は、直ちに日米安保の廃棄を宣言するだろうが、米軍は、1年間は在日基地に居座る権利を主張できる。
「日本軍国主義」を抑え込む意味でも、太平洋の対岸に南北に長く延びる(琉球諸島も含めれば台湾の近傍まで延びる)戦略拠点日本を敵対勢力の手に渡さないためにも、日本領内に米軍基地を維持することが死活的に重要と意識されたゆえである。日本が無抵抗のまま降伏し、中国に軍事基地、産業拠点として利用される事態を黙って見ているほどアメリカはお人好しではないだろう。
たとえば、米第7艦隊の旗艦である揚陸指揮艦ブルーリッジ、空母ロナルド・レーガンなどが母港とする横須賀基地を、米政府が無傷で中国に献上するはずがない。撤退を余儀なくされる事態に至れば、使用不可能な状態に破壊したうえで去るだろう。テロリストが侵入したため激しい銃撃戦になった、弾薬庫に火炎瓶が投げ込まれ大爆発を起こしたなど「原因」はいくらでも考え出せる。
ちなみに岸田首相は、ロンドン訪問中の5月5日の講演で、幼い頃に広島で聞いた被爆体験が「私を、平和を取り戻すための行動に駆り立てる」と述べ、「核兵器のない世界」を訴えるため、日本が議長国となる来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)を地元広島で開催したい意向を滲ませたという。筋違いと言うほかない。
日中露サミットを広島で開催し、習近平、プーチン両氏に核兵器先制不使用を誓わせるというならまだしも(あり得ないが)、核抑止力も含めて集団自衛体制の強化を論議すべき自由主義陣営のサミットで、議長が核廃絶(これまた予見し得る将来あり得ないし、捨てるにしても自由主義陣営は最後に捨てねばならない)を得々と語ればバカにされるだけだ。
むしろ防衛大学校があり、米太平洋軍の拠点でもあって日米安保体制を象徴する横須賀あたりを開催地としてはどうか。「お前は核の惨禍を知らないとは誰にも言わせない。まさに広島、長崎の再発を防ぐため独自核保有に乗り出す」と宣言する「蛮勇」が岸田氏にあるならともかく、広島はG7サミットにふさわしい地ではない。
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。著書に『アメリカ解体』(ビジネス社)など