朝香豊:アフガン首都陥落を招いたバイデン政権の大罪

朝香豊:アフガン首都陥落を招いたバイデン政権の大罪

アフガン危機の裏でバイデン政権は休暇中

 アフガニスタンの反政府勢力タリバンの勢力拡大が止まらない。「9つの州都制圧」を掲げたタリバンは、8月13日に第2の都市カンダハルと第3の都市ヘラートを制圧、14日に第4の都市マザリㇱャリフを制圧、そして15日には最大の首都カブールまで制圧してしまった。アシュラフ・ガニー大統領は国外を脱出し、アフガニスタンはタリバンの支配下に置かれることになった。

 この急激な展開は、バイデン政権には「寝耳に水」の事態だったようだ。すでに8月13日付のBBCの記事には、今後数週間以内にタリバンが首都カブールへの攻撃を開始し、3カ月以内にアフガニスタン政府が倒れるかもしれない、というアメリカの情報機関の分析が掲載されていた。しかし現実には3カ月以内どころか、記事から2日後に崩壊した形になる。

 BBCが情報を取ってから記事にするまでに、タイムラグがあったから予想がずれたのではと思うかもしれないが、そうではない。というのは、バイデン大統領が今回のカブール陥落の報に接したのは、避暑地であるキャンプ・デービッドだったからだ。事態がこんな展開を迎えるなど考えもせず、大統領は休暇に入っていたというわけだ。しかも当初、バイデン大統領は8月18日(水)までホワイトハウスには戻らないと述べていた。ただ結局は16日(月)にホワイトハウスに戻って会見を行ったため、逃げを打っていたと思われても致し方ないだろう。

 ある記者が、ジェン・サキ大統領報道官にこの事態へのコメントを求めるメールを送ったところ、サキ報道官からは「8月15日から22日まで休暇を取ります」との自動返信が返ってきたという。サキ報道官が事前に休暇取得についてアナウンスしていたとの情報がないことからすると、彼女もバイデン大統領と「逃亡」したのではないかと勘ぐってしまう。
朝香豊:アフガン首都陥落を招いたバイデン政権の大罪

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第3の首都ヘラートでピックアップトラックに乗る武装タリバン(2001)。荷台には機関銃だけでなく、ロケットランチャーもいくつか確認できる
via Wikipedia

トランプ政権による米軍撤退の真相

 アフガニスタンの首都カブールでは、アメリカ大使館から煙が上がっているのが目撃されている。第2、第3の都市が陥落した8月13日に首都カブールにあるアメリカ大使館の職員の一部に対し、国外退避させる意向が米政府から出たこともあり、機密文書を慌てて焼却処分していたのだろうと見られている。

 また、アメリカ大使館とカブール空港との間をヘリコプターが往復する姿も目撃されている。これは1975年に起きたベトナム戦争での「サイゴン陥落」と重なる光景だ。まさに「アメリカの敗北」を決定的に印象づける結果になった。

 バイデン大統領は先月「タリバンは北ベトナム軍ではない。(両者は)能力という意味で比べ物にならない。アフガニスタンのアメリカ大使館の屋上から、人々がヘリコプターで運び出されるのを目にするような状況にはならないだろう。まったく比較にならない」と、タリバンの能力を完全に過小評価していたから最悪だ。自分が起こり得ないと断言していた状況が展開したのだ。しかも、自分たちの想定をはるかに上回る速度で、だ。

 8月14日、バイデン大統領は「私は(大統領)就任に際し、タリバンを軍事的に最強の状態にした前任者の取引を引き継いだ」と述べ、この事態の責任をトランプ前大統領になすりつけたが、これはあまりにもひどい話だ。

 たしかに、米軍のアフガニスタンからの撤退を決めたのは、トランプ前大統領である。だが、トランプ前大統領はタリバンのリーダーであるハイバトゥラ・アクンザダに対して、「もし合意を守らなかったら、どの国も経験したことがないほどの打撃を与えてやる」と警告していた。そしてタリバンが初めて合意を破った時には、その脅しを実行に移して懲罰的な空爆も行っている。それ以来、タリバンはトランプ政権に恐れをなして、米兵は一人たりとも殺されなくなったのは有名な話だ。

 トランプ前大統領は米軍撤退を決めた後も、バグラム空軍基地に米軍の戦闘機と軍用ドローンをそのまま残し、タリバンの動きを監視するために用いていた。ならず者たちに対して軍事的な脅しが必要であることを、トランプ前大統領は理解していたのである。
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現在タリバンを率いている3代目指導者ハイバトゥラ・アクンザダ
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もしトランプ政権が続いていたら……

 もし仮にトランプ政権が続いたなら、米軍撤収後も引き続いてタリバン政権に対して軍事的な脅しを加える選択肢を外さなかっただろう。「勝手な行動をしたら72時間以内に米軍を派遣して、徹底的に叩き潰してやる」くらいの脅しをタリバンにすることで、アフガニスタン政府や軍に対して、いざという場合の安心感を与えながら、撤退作業に取り掛かっていたことは想像に難くない。

 この点で完全になめられていたのがバイデン政権である。バイデン大統領はハ7月5日の深夜12時に、バグラム空軍基地から米軍に撤退するよう密かに命じていたのである。このことは、アフガニスタン政府軍にも伝えていなかった。政府軍からすれば、アメリカから裏切られた気分だっただろう。

 そして、その数時間後にはタリバンが基地を襲撃し、基地は制圧されてしまった。これにより、米軍はアフガニスタンに駐留する米軍を空から守ることさえできなくなったのである。
朝香豊:アフガン首都陥落を招いたバイデン政権の大罪

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急遽夏休みから戻りましたが…
 バイデン大統領は、この襲撃に対する報復攻撃に出ることもせず、タリバンに完全になめられたのだ。そしてアフガニスタン政府軍も、今後はアメリカを頼りにすることが難しいことを、まざまざと思い知らされた。

 あっという間のタリバンによるアフガニスタン制圧には、こうしたバイデン政権の無能ぶりが背景にあると考えなければ理解ができない。このような人間が世界の超大国であるアメリカのトップであるということは、アメリカのみならず世界にとっても大きな不幸であると言わざるを得ない。とりわけ唯一の同盟国である以上、日本においては対岸の火事ではない。国家安全保障には大きな不安が残ると言わざるを得ないのだ。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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