護憲派のウソ:ロシアにも「平和憲法」はある

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、「護憲勢力」に激震が走った。それは、日本国憲法が施行されてから爾来76年間、「護憲」の主たる目的である憲法9条の存在意義を「平和をもたらすものだ」と説明してきたが、一方的な侵略が現実に起きたからだ。

 1994年のブダペスト覚書において自衛権を担保する核武装を解き、諸外国との協調外交によって自国の安全保障を守るというウクライナの国是が破られた様子を日本人は目の当たりにした。ここにきて、「憲法9条は平和ではなく戦争をもたらすものではないか」という疑念が一般国民に生じた。

 ここで、護憲派は変遷した。今までは「憲法9条があるから平和が守られる」という論調から、「ロシアに憲法9条(と同趣旨の憲法)がないから(プーチンの様な独裁者を止めれずに)戦争になった」という論理のすり替えをし始めたのだ。

 例えば、日本共産党の志位和夫委員長は2月24日、自身のツイッターで「仮にプーチン氏のようなリーダーが選ばれても、他国への侵略ができないようにするための条項が、憲法9条なのです」と主張し、日共機関紙「赤旗」も擁護の論陣を張った。日共の支持母体である全国労働組合総連合も、公式ツイッターで「もしロシアに9条と同じようなものがあり、それがしっかり機能していれば、ロシアはウクライナに進攻できなかったでしょう」と同趣旨の主張を繰り返している
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ウクライナ侵攻を目の当たりにし、憲法9条の「効果」を変更する人達
 しかし、ロシア憲法第87条第2項では、明確に「ロシア連邦に対する侵略または直接的侵略の脅威がある場合」という制限条件を定めた上で武力行使を認めるという事実がある。ロシアも侵略戦争は否定した「平和憲法」を持っているのだ。

 それが今回、ウクライナのドンバス地方のロシア系住民が迫害されているという主張を根拠に、武力行使を始めたのである。つまり、護憲派の「ロシアに平和憲法がないからウクライナに侵攻した」という主張は虚偽である。

他国の力で「革命」を成就したい

 では何故、こうした虚偽主張を繰り返すのだろうか? それには、次の分析ができる。

 もともと、日本共産党は「改憲政党」だった。日本国憲法の定める「平和主義」に異議を唱え、憲法を可決した第90回帝国議会では、日本共産党議員は「反対票」を投じている。

 その理由を当時の党首、野坂参三氏が議会演説しているため、次に引用したい。
 “我々は我が民族の獨立を飽くまで維持しなければならない、日本共産黨は一切を犧牲にして、我が民族の獨立と繁榮の爲に奮鬪する決意を持つて居るのであります、要するに當憲法第二章は、我が國の自衞權を抛棄して民族の獨立を危くする危險がある、それ故に我が黨は民族獨立の爲に此の憲法に反對しなければならない
(昭和21年8月24日 第90回帝国議会衆議院本会議第35号)

 見事な理由である。現在の日本共産党とは真逆の考えだ。この矛盾は、日共内で内部抗争を続けた「所感派」と「国際派」の違いがあるためだ。

 日本共産党は、過去も現在も「暴力革命で天皇を廃位して統治権を掌握する」という政策の基本方針は変わらないため、公安調査庁によって破壊活動防止法監視対象団体に指定されている。これは、他のテロ組織と同様の指定である。

 しかし、この「暴力革命」に至る手段が所感派と国際派で全く異なるのである。野坂参三氏が所属した所感派は、あくまで日本人共産主義者の手によって革命を成し遂げて天皇を廃位するという方向であった。このため、共産党員は警察官を襲撃して殺害し、拳銃を奪取するなどの凶悪犯罪を繰り返した。

 一方で「国際派」は、現実として警察・自衛隊が統治機構を防衛している以上、これらの組織と戦争をして勝利できる武器や資金もないことから、「日本人による暴力革命」を放棄した。

 では、どのようにして革命を成し遂げるのか。近隣諸国は核兵器で武装した共産軍が数百万の兵力を誇る。これらの共産軍が日本を占領すれば、必然的に革命と天皇の廃位は実現できる。そのためには、自衛権を制限する法体制が必要であった。

 例えば、日本人女子中学生が拉致されても「犯人が共産主義者である場合、警察は捜査してはいけない」とする政治活動を繰り返し、騒音を止めるためには在日米軍の空軍力は否定されるべきであるとの立場を取った。

 日本共産党内の所感派と国際派は内部抗争を繰り返し、ついには野坂参三氏を除名することで国際派が勝利した。だからこその「憲法9条」なのである。自国を自分の力で守ることをせず国際関係で防衛をしようとすればウクライナのように侵略される。それ自体が「護憲」の目的なのである。
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恐ろしい隣国を招き入れてでも「革命」が大事…

侵略されれば、以前の生活は戻らない

 ウクライナ侵攻後、「侵略戦争賛成派」と思しき日本人がメディアにたびたび登場している。彼らが言っていることは、結局ロシア人の権利は保護されるべきであるが、ウクライナ人の基本的人権は否定されるべきであるというヘイトスピーチ(人種や国籍を理由にした権利の否定)と変わらない。

 3月4日、テレビ朝日の玉川徹氏は「羽鳥慎一モーニングショー」にて、「どこかでウクライナが引く以外にない」ものだとし、ウクライナ人の降伏を推奨したとも受け取れる発言をした。3月13日には、日本維新の会の鈴木宗男氏が札幌市内で講演し「原因をつくった側にも幾ばくかの責任がある」と述べ、ロシアの侵略戦争に賛成する発言を繰り返した。3月14日には、ラジオ番組「垣花正あなたとハッピー!」(ニッポン放送)でタレントのテリー伊藤氏が在日ウクライナ人に対して「ウクライナは勝てませんよ」という発言を繰り返し、同国の人々の基本的人権の保障に対して否定的見解を明らかにした。

 これらの主張を俯瞰すると、「ロシアとウクライナの戦争に対して、人種や国籍による差別に基づき一方の主権や基本的人権の保障に対して否定的見解を述べる」という共通点を持つ。

 私たち日本人はひとつの発言に対して、発言者の「主観」や「動機」を重要視するが、大切なことは「発言がもたらす客観的効果」である。これらの発言は、暴力による国際秩序の変更と民間人の大量虐殺に賛成しているものだとする「客観的評価」に基づき、その狙いを分析することが重要だ。これは、著名人の発言のみならず、「アストロ・ターフィング」と呼ばれる自作自演の草の根政治運動(意図的なタグ付き投稿の連続など)についても同様のことが言える。
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橋下徹氏も「政治的妥結」を盛んに唱えるが…
 いま最も懸念されていることは、ロシアによるウクライナ侵攻が「核の抑止力」によって国際社会の反撃にあわず成功した場合、中国に台湾・沖縄侵攻作戦の成功を確信させるのではないかということである。

 すでに中国は党機関紙の「人民日報」において、「沖縄の帰属は国際法上未確定である」と主張しており、侵略願望を隠していない。

 ここにきて、日本国内における著名人や政治家が侵略戦争に賛成し、国籍や人種によって基本的人権(抵抗権)は制限されるべきであるという論陣を展開した理由を考えなければならない。それは、同様の侵略戦争が我が国に対して発動された際、「尖閣諸島・沖縄本島を諦めれば戦争にならなかった」もしくは「中国軍による無差別殺人に対して日本人は抵抗すべきではない」という論調に、そのままシフトすることができるという事実である。

 近代以降の「戦争」を分析したことで知られるプロイセン軍人のカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』では、「精神と戦争」の関係性について次のような分析が述べられている。

《将軍の才能、軍隊の武徳と国民精神の中で、どれがより大きな価値を持っているかを一般的に規定することは出来ない。これら三つの要素の明確な効果を充分な歴史的証拠によって明らかにすることが望ましい。しかし、現在の状況では、軍隊の国民精神や戦争への習熟がよりいっそう重要な役割を果たすようになっていることは否定できない》(『戦争論』レクラム版 日本クラウゼヴイッツ学会訳 ※一部要約)

 つまり、戦争とは軍隊だけでするものではなく、その軍隊を支える国民の精神力が、具体的な戦争協力(兵站の確保等)において重要であるという指摘だ。どのような軍隊であっても、士気というものが戦闘能力の維持にとって極めて重要である。軍隊の存在意義となる「国民の防衛」において、その国民側から「領土はいらない、降伏しよう」と声を高らかに叫ばれたならば、その戦争が例え防衛戦争であったとしても、継続能力は致命的な打撃をうけることであろう。

 仮に、その侵略される側の人々が、「降伏しても基本的人権が保障される」という間違った認識を動機にして侵略戦争を肯定していたとしても、敗戦後には間違いを改める機会そのものがない。
 侵略者は倫理観を持たない相手国の国民を操ることで、防衛軍の士気と戦闘能力そのものを削り取り、侵略戦争を成功させる足掛かりとしているのである。もはや、現代の戦争において兵士は軍服を必ず着用しているとは限らず、銃弾が飛び交う前に、放送やインターネットを利用した「下準備」が進められていると考えなければならない。

 我が国には、形而下の物理的侵略に対応する防衛組織はあっても、形而上の精神的侵略に対応する防衛組織がないのである。敵がそこを狙わない理由はない。

 以上から、護憲派の動きと民間レベルにおける侵略戦争肯定論に対し、私たちは煽動されることなく細心の注意と警戒を払わなければならない。ウクライナは対岸の火事ではない。何もしなければ、近い将来の私たちだと覚悟せねばならない時局なのである。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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