その本気度は?山本太郎氏の「出馬検討」

 はっきり言って、本気で当選を目指す意図で出馬するなら遅すぎる。
 6月11日のれいわ新選組の党総会の後、山本太郎代表が東京都知事選(6月18日告示・7月5日投開票)への出馬の可能性を「フィフティ(半々)」と述べた件だ。

 すでに日本弁護士連合会元会長の宇都宮健児氏が立候補を表明し、立憲民主党や共産党、社民党が支援する方針。宇都宮氏は「降りない」と表明しており、支援の3党も方針変更はしないだろう。実際にこの日曜日、他の支援者とともにそれぞれの党の幹部が新宿駅前で宇都宮氏を応援する街宣に参加する予定だ。もし山本氏が出馬すれば、当選の可能性はあるのか。

 昨年の参議院選で、比例区で99万2267票の個人票を取った山本氏だが、東京都内では20万6774票に過ぎない。2013年の参議院選では66万6684票して、5人中の4位で当選した。
 一方で、ここ最近の都知事選の当選者の得票数を見ると、2016年は小池百合子知事が291万2628票、2014年の舛添要一前知事が211万2979票、2012年の猪瀬直樹元知事が433万8936票、2011年の石原慎太郎元知事が261万5120票を獲得している。少なくとも300万票近くを獲らなければ、当選は難しいが、山本氏はそれだけの票を獲れるのか。

 そもそも自分を「高く売ろうとしすぎた」のではないか。立憲民主党などでは今年の初めに、“山本擁立論”が持ち上がった。しかし山本氏は「れいわ新選組の公認」にこだわり、無所属の野党統一候補を拒否。表に出ない物心の支援を求めたという。
 これは過去の成功体験に基づくものかもしれない。2014年に成立した「生活の党と山本太郎となかまたち」だ。当時の生活の党の所属議員は4名で、政党要件を備えるには1名足りない。そこで代表の小沢一郎氏が声をかけたのが無所属だった山本氏だ。山本氏は参加する代償に、党名に自分の名前を入れることと共同代表の地位を求めたという。

 実際のところ、山本氏を共同代表に迎えるのはともかく、小沢氏はあんな党名は嫌だったはずだ。そもそも小沢氏は党名には思いを込めるタイプのようだ。2000年に自由党から二階俊博氏や野田毅氏らが離党して保守党を結党した時、「いつか自民党に対峙する政党を作った時、保守党と名付けよう」と思っていた小沢氏は激怒したと言われている。
 それがあのような党名を受け入れざるを得なかったのは、背に腹は代えられないという気持ちだったに違いない。政党要件さえ満たせば、政党交付金を受け取れるし、衆参の比例区に候補を立てることができるからだ。

 しかし、小沢氏には通じた我がままは、立憲民主党などには通じなかった。そもそも立憲民主党にとって、山本氏は「本命候補」ではなかった。2016年の都知事選では元毎日新聞記者の鳥越俊太郎氏を擁立して大失敗した苦い過去がある。本気で勝とうというよりも、政党として面目がたつ票数を挙げてくれる候補がほしかったにすぎない。
 山本氏にとっても、都知事選出馬は悪い話ではなかった。れいわ新選組は山本氏が街宣する際の寄付や関連グッズの販売で支えられているが、コロナ禍でそれが叶わず財政難。とりわけ赤坂の一等地のビルを借りた党本部の負担は大きいと言われていた。代表の山本氏としては、なんらかの打開策を迫られている。

 一方で、宇都宮氏は、2012年の都知事選で猪瀬氏と闘って96万8960票を獲得。2014年の都知事選では舛添氏の得票数の半分にも満たなかったものの、98万2594票を獲得して3位の細川護熙元首相を抑えている。2016年はアメリカの大統領選で旋風となったバーニー・サンダース候補にあやかって、「日本のサンダース」と言われたが、民進党が鳥越氏を擁立したために出馬を断念した。73歳の宇都宮氏にとって、今回の都知事選は最後の挑戦になるかもしれない。

 もし山本氏が出馬すれば、非自民票が割れるのは必至。野党の今後を占う上で、その動静は見逃せない。
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安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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