選挙前恒例の情報戦
「〈 #平気で嘘をつく高市早苗〉がトレンド入り!」とれいわと共産党支持者のアカウントを中心に盛り上がっていたものの、消費税の使途が社会保障かどうかというどうでもいい議論からの話でしたので、左翼は頭が空っぽで楽しそうだなあと思います。
「法人税が減った分、消費税が増えた! 高市早苗の言ってることは嘘だ!」って、そもそも租税の直間比率是正をやるといって消費税導入したんだから、歳入がそう見えるのは当たり前じゃないですか。本論は、国庫負担が毎年100兆円を超え、これからさらに団塊の世代が後期高齢者入りしてカネがかかる年金・医療・介護・製薬などの社会保障費をどうやって捻出(ねんしゅつ)するかですから、そっちで論戦してほしかったんですよね。
また、他方で課税売上高1,000万円以下の事業者やフリーランスにとって、いままで消費税を上乗せで売上に載せておきながら納税しなくてよい益税状況から、インボイス制度への移行にあたって納税が義務付けられることになり、これも税金を払いたくないフリーランス方面から反対の声が上がっていました。
普通に消費税を納税している側からすれば、所得が低いからという理由で消費税を取っているのに納税しない人たちへの不公平感はとても強かったんですが、そもそも益税の仕組みも消費税導入されたばかりの3%時代に制度化されてしまったものですし、今回もちゃんと移行期の緩和措置もあるのでさっさとインボイス制度は導入したほうが良いと思っています。貧乏なフリーランスが税金払わされて潰れると騒いでいますが、税金払ったら潰れるような奴は独立するなという話ですし、確定申告ちゃんとやって納税するのは最低限必要なことだと思いますけどね。
そんな中、今回話題となったのは例によって野党が話題としている消費税引き下げ議論です。特に、立憲民主党は時限的に消費税を減税する形での負担軽減を叫んでいました。確かに消費税については所得の低い人ほど担税する(かもしれない)逆進性は問題になっていましたし、国民に減税を主張するにあたり、ここでうっかり社会保険料を引き下げようとなれば、ダイレクトに年金・保険の財源に効いてしまい、ただでさえインフレ気味に消費者物価が上がっているところで年金生活者は大打撃になるため、高齢者や低所得者を中心に支持者を集めている野党には口が裂けても「国民年金保険料や社会保険料を引き下げましょう」とは言えないんですよね。
その代わり、ここで出てくるのが政調会長の高市早苗さんバッシングであります。
消費税以外納税されない
見ようによっては、国家歳入における法人税税収は21年で11兆2,346億円あまりで、直近の法人税税収最高額からすれば3兆円程度減っています。もともと、消費税導入議論の際には法人税と所得税という、所得に対する直接税では景気の変動で税収が大きく変わってしまうし、国民に広く担税してもらうという観点からも公平性を欠くということで、欧米同様に直間比率を考え消費税を導入したという経緯もあります。
それもこれも、そもそも法人税に関しては日本で所得を稼ぐと日本の法人税はシンガポールや香港などに比べて極端に高いため、本社機能を海外においている各社との競争に日本企業が負ける事態が続発しておるわけですよ。私の生息しているコンテンツ業界の投資においても、NETFLIXやディズニープラス、Amazonプライムビデオなどに国内テレビ業界が完敗を喫し、国民がカネを払って動画を観るPPV市場をごっそり奪われてしまいました。日本人に動画や映画を見せて得たその収益は、彼らの本社のあるアメリカや、アメリカよりも法人税が安いアイルランドやシンガポール、南アフリカなどにコンテンツファンドを置き、日本政府には消費税以外、納税されないという状態になっているのもまた事実です。
さらには、私たちの生活に欠かせない鉄鋼や銅など一次素材、電気自動車やスマホに使うバッテリー、液晶パネル、ドローンや太陽光パネルに果ては家電製品まで、かつて日本の輸出産業として栄華を誇った企業はどんどん海外企業にシェアを奪われ面倒なことになりましたが、これらの問題の結構な割合は「あんまり有利ではない日本の法人税制や各種規制」による部分です。
そういう企業に雇われて労働者は日本経済を支えてきたのに、これらの日本企業が結果的に負けてごっそり海外に仕事を奪われてしまった以上、所得の上がらない仕事に従事しながら現状でロシアによるウクライナ侵略などもあり物価が上がり続けているのですから生活が苦しくなって当然です。
馬鹿の見本市
他方、これらの政策議論において消費税がやり玉に挙げられるのはともかく、政調会長の高市早苗さんが岸田政権への批判の「弾除け」として機能してしまっているのは問題です。言うなれば、大石あきこさんは面白い人物ではあるけれど、基本的には泡沫野党の活動家闘士に過ぎず、高市早苗さんのように政権与党の重要ポストにある人に公共の電波で並んで登場し、罵声(ばせい)を投げかけ、与党批判をしたくて手薬煉を引いている熱心な野党支持者にネットで騒がせることで高市早苗さんを泥まみれにするのが目的であることは間違いないのです。
自民党もろくでもないことをいう議員が出ますが、野党もその政策主張において現実的ではない無責任なことを言い、与党の責務放棄だ失政だと言い立て、論戦においてあたかも互角であるかのように視聴者に対して見せることが自己目的化している面があります。
消費税だってインボイス制度だって、あまり所得のない自営業者やフリーランス、年金生活者などの低所得者にとっては辛い政策ばかりです。さらにそこへ賃上げなきインフレが来ているのですから、もう1カ月先に参院選だったら本当に火だるまだったかもしれないとヒヤヒヤする面はあります。
弊害のほうが大きい
これから、社会保障費はもっと増大するのは間違いないし、野党の主張する消費税減税どころか、もっと国債を発行しなければならないかもしれないし、物価が上がれば金利も上がらざるを得ず国債償還にも利払い増でさらに予算が取られ、どんどん苦しくなっていきます。
公示日も過ぎて、国民もあんまり参院選に興味なさそうで投票率は上がらないかもしれませんが、いまここで話していることが5年後10年後の日本政治、社会の趨勢(すうせい)を決めることは間違いありませんので、高市早苗さんも野党政策担当者も本来ある事実をもとに正論を掲げて論戦を行ってほしいと心から願っております。
1973年、東京都生まれ。個人投資家、作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。一般財団法人情報法制研究所上席研究員。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行なっている