的を外し始めた辻元氏

 2021年、衆議院選挙の大阪10区に立憲民主党から立候補して落選した辻元清美氏が、今年の参議院選挙に出馬する。

 それに先駆けて5月5日、大阪・梅田のヨドバシカメラ前で「GW 青空トーク in 兵庫&大阪 with 蓮舫」と題して、蓮舫氏との仲良しコンビによる街頭演説をおこなった。

 そこで、ロシアのウクライナ軍事侵攻について、辻元氏は次のようなことを言っている。

「ウラジーミル、ウラジーミルって言うて、安倍元総理はプーチン大統領に会ったというて自慢していた」「ウラジーミル、ウラジーミルって言うて山口県の温泉にご招待して、温泉も入らずにプーチンに帰られた。お金だけ巻き上げられて、ええかもにされているんちゃいますかと。いまこそウラジーミルって言うて、プーチン大統領に戦争をやめろと言うてほしい。岸田総理、安倍元総理を特使としてモスクワに送ったらどうですか」

 安倍晋三氏が首相時代にプーチン大統領と24回もの首脳会談をおこなったからと、安倍氏が岸田首相の特使として戦争を止めに行くべきだと言ったのである。

 大衆の心をとらえるのに長(た)けた辻元氏らしい内容だ。

 ある外国要人と仲が良いから、特使として派遣したら事が成せるほど、外交は単純なものではない。しかも、相手はプーチン大統領である。いくら日本の元首相とはいえ、当のロシアからは「出入禁止」にされた岸田首相の親書を持って何ができるというのか。

 辻元氏はこういった大衆受けする演説を得意としている。もともと人たらしで人間的な魅力がある政治家ではあるので、そういったところに魅了される人も少なくないだろう。

 ただ、絶対的な強さを維持していた小選挙区(大阪10区)で負けた今となると、反与党のウケ狙いだけでは、シラけた空気が漂うだけである。

 そもそもこの主張自体、陳腐であり、第1野党の副代表までやった政治家としてあまりに軽すぎると感じる。
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参院選に出馬する辻元清美氏

攻撃を受ける存在に

 2002年には秘書給与流用事件で議員辞職に追い込まれて逮捕されるという窮地に陥ったときも、大阪10区の選挙民は辻元氏を見捨てなかった。お得意の「へこたれへん」を連呼し、2005年には社民党議員として比例復活でみごとに返り咲き、2009年にはついに小選挙区での勝利をもぎ取った。

 さらには民主党の鳩山政権(連立)では国土交通副大臣に就任し、2010年には民主党に入党し、その後も立憲民主党では「党の顔」といえるほどの存在感を示すようになった。

 だが、純粋な「左翼」から具体的な「反自民」にシフトするごとに、辻元清美という政治家の魅力はどんどんと削(そ)がれていく。

 たとえば、森友学園問題で、時の安倍首相を徹底的に責め立てたとき、自身に野田中央公園で補助金を出させたなどの疑惑が出てきて、防戦に負われて、最後は謹慎状態になってしまったことなどが典型だろ。

 責任を背負っていない左翼政治家としての攻撃はすさまじいものがあったが、第1野党の要職を背負うようになってからは、むしろその攻撃は自らに向けられるようになっている。SNSの普及などで、政権批判に終始する新聞報道とは相対するように、野党のほうに批判の目が向けられるようになってしまったのである。

 辻元氏が政権批判をすると、過去の逮捕など、あらゆる瑕疵(かし)をとらえようと待ち構えられている状態に陥っている。もはや、何をやっても新聞に批判される安倍氏と、何をやってもSNSで批判される辻元氏は、あたかもパラレルの関係にあるかのようだった。

 私が冒頭に示した「安倍氏をロシアの特使に送れ」という辻元氏の演説を聴いたら、「その前に、北朝鮮とのパイプを使って、核実験とミサイル発射実験を止めろと金正恩に掛け合ってこい!」と辻元氏をやじりたくなりそうだ。

 それほど辻元清美という政治家は、ある意味で日本を代表する野党政治家になり、攻撃対象になってしまったのである。そのため、「安倍氏の疑惑」をつつこうとすると、自分自身の疑惑をつつかれる運命である。

 蓮舫氏とともに「攻撃にはめっぽう強い」のが辻元氏の特徴だったが、現在ではむしろ攻撃するたびに苦手な防御を強いられるようになっている。
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新聞で叩かれた安倍晋三元首相

維新に勝てなかった理由

 辻元清美という政治家の本質を一言で言うなら「左派ポピュリズム」と表すことができる。

 自民党や安倍晋三が嫌いな人たちのツボを押さえた言葉をズバリと言って、批判精神が旺盛な多くの人たちの溜飲を下げさせる存在だ。だが、それらの言葉には溜飲(りゅういん)を下げる効果はあっても、政治を変える力がない。中身がないのである。

 辻元氏は衆議院選挙の敗因を、「維新の突風のような風が吹いた。立憲民主党の立ち位置、主張が明確ではなかった」「野党第1党なので、政権交代を目指して自公政権と対峙しなければならないが、大阪では第1党の維新と対峙する非常に難しい選挙だった」と分析している。

 もちろん、維新の躍進に存在感を失ったというのは事実だろうが、真の理由はもっと根本的なところにある。それは維新のポピュリズムに、辻元氏の左派ポピュリズムを軽く吹き飛ばされたという点だ。

 しかも、維新は政権与党に働きかけて、実際に大阪に果実をもたらすほど大きくなっている。

 反政権で、ある政治的ポジションの人たちだけを気持ちよくポピュリズムが、大阪に住む大衆の気持ちを動かすほどの力を持ったポピュリズムに勝てるはずがない。

 結局、辻元清美という政治家が輝いていたのは、ほかに真のポピュリズムをやれる政治家がいなかったからであり、輝きを失ったのは、ポピュリズムを党組織で実行する存在が現れて、その存在価値が縮んだからに過ぎない。

 かつてスター政治家として一時代を築いた辻元氏だが、すでに時代からは見放され始めている。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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